「KEY THE METAL IDOL(OVA)」

総合得点
66.5
感想・評価
67
棚に入れた
324
ランキング
2770
★★★★☆ 3.7 (67)
物語
3.6
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.7
キャラ
3.6

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ネタバレ

レトスぺマン さんの感想・評価

★★★★★ 4.9
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

この作品に出会えたことを心の底から感謝したいですね

長文のため本文はネタバレで隠します。
{netabare}
私は本作品を10数回ほど視聴しているが、それだけみても飽きることはなくSF、サスペンス、バイオレンス、エロス、アイドル、伝奇、ロボット。
そして90年代中期の不況の時代を投影したかのような風俗描写などの世界観が上手く融合し合い、なおかつ一般向けアニメにありがちな【正しい方向へと導く要素】が全くといっていいほどないぐらいネガティブな要素を詰め込んだ登場人物たちが織りなす人間ドラマはものすごく見応えがある。
だから、正直このアニメは1994年に発表された他OVA作品及びTV放送作品とは比較にならないほどの異質なオーラがあると私は思っている。

つまり、それほどまでに本作品はアニメとして逆ベクトルの方向を向いてはいる。
しかし、同時にそれまでのアニメ作品にあまりなかった
・【視聴者自らが進んで作者の描くテーマ性を追求する面白さを楽しむ事】
・【視聴者の想像力をキャラクター、あるいはストーリーから無限大に掻き立てる】
といった内容の新しいアニメジャンルを確立した立役者の第一号と言っても過言ではない気がするのだ。

本作品のストーリーはロボットである(正しく言えばロボットであると思い込んでいる)主人公、巳真兎季子(通称キィ)が謎の事件に巻き込まれて亡くなった自身の祖父であり、ロボット工学者でもある武羅尾から「友達を3万人集めれば人間に生まれ変われる」という遺言を残されるところから始まる。
そしてその目的を遂行するためにアイドルを目指す話であると同時に、古くから伝わる巳真家の秘密を知ったアジョー重工の総帥、蛙杖によるPPORという謎のロボット兵器を使った恐ろしい画策を見せる話だ。
これを見ると一見、本当に最終話までに全く関係のない二つのストーリーが上手く進行するのかといったことが疑問に浮かぶだろうが、このストーリー運びがもはや完璧と言えるぐらいの出来栄えであった。

それは、序盤の主人公側の物語と蛙杖側の物語の対比から始まったストーリーを話数を重ねていく毎に近づけていき、最終話付近で一気に融合させる展開のことである。

一見すると、確かにストーリーの進行速度としては遅いが、その謎が謎を呼ぶ展開は、視聴者に【常に続きを見たい】と思わせるものがあって、このストーリーでなければおそらく本作品の魅力は半減しただろうとさえ思う。

そして、お話の見どころの一つがキャラクターが持つ【人間ドラマ】である事は前述したが、本作品の登場人物にまともな人間はほとんどいないのだ。

ただし、まともではない登場人物というのは逆にそのまともではない素材をいい方向に生かすことができればかなり魅力的になるのである。
本作品の登場人物は、確かに人間が持つ心のネガティブな部分を強烈なまでに出したものが多い。

しかし少なくとも、主人公キィ側に立つキャラクターについては、そのネガティブさの中に人間味のようなものを感じることができた。
そこから、各々の人物に不思議と感情移入できてしまうものがあり、そこから様々な人物の視点で物語を楽しむことができた事が10数回視聴しても飽きないという感覚に繋がったのだと思える。

私が一番魅力的に感じたキャラクターはやはり登場人物の中で一番まともであろう主人公の幼馴染、「厨川さくら」だ。
このキャラクターはアイドルを目指す主人公キィに対してものすごく優しく接する女の子(しかも性格が良い)でそれが好感に繋がったことも一つの事実ではある。
それと同時に本作品の暗いストーリー展開の中の一服の清涼剤的な役割を果たしていて、今思えば彼女の存在がストーリー全体の緩急をつけていたようにも思う。

特に、主人公キィが時折見せる人間的な表情は彼女のキィを応援する気持ちの表れでもあるだろうし、ED曲の「私がそばにいる」も考えてみれば彼女のテーマソングなのかもしれないとすら思えてくる。
残念ながら彼女は最終話にて残酷な結末を迎えてしまうのだが…。
さらに、後半から展開される天才プロデューサー吊木光とトップアイドル鬱瀬美浦の話はSFをバックグラウンドにしたサスペンスとしてよく出来ているため、視聴の際はこの辺りにも注目する事を強く勧めたい。

ところで本作品はストーリー・キャラクターも魅力的だが、制作陣と視聴者が一体化している事も魅力の一つだ。
その証拠として、OVA第一巻の価格を視聴者が決めたり、話の最後に「キィは貴方の力を必要としています。」的なテロップも出てきて、これはイコール「ビデオを買ってください。」ということなのだとは思うが(笑)、そういった制作陣と視聴者の【なかなかみれないやり取り】があるのは見ていてとても面白かったのだ。

アニメ本編でマニアックな要素を描いているのも自分の本作品に対する評価を上げる要因になったと思う。
ちなみに、ここでいう【マニアックな要素】とは当時のマニア層に受けるようなもの、言うのならばロボットであったりSF、萌えとはまた違った女の子の可愛さ、アイドルマニアの三和土州一の描写などだ。
特に私が気になったのがとにかくこのアニメ、ビデオテープ、カセットテープ(DAT)などの音響メディア、機材を映しているシーンが多いのである。
この事について私の推測ではあるが、1994年当時は第三次声優アイドルブーム真っ盛りで本作品の主人公の声優、岩男潤子氏もその中での一人であったことから当時の声優アイドル好きはテープやビデオを収集していた人も多かっただろう。
もしかしたら、そういう人達を本作品の対象層に取り込む目的もあったのかもしれない。

そういったリアルタイムで両者間での様々な発想を展開しつつもしっかりと結末に丸め込む必要があるのだから、90年代の中期にこのような作品が発案された意味でもスタッフ陣の実力がどれだけすごいかがわかる。
また、作品を作るには当事者のそれなりの経験なども必要であることから、論理性以上に視聴者と製作者双方の「愛」が感じられるところが一言の言葉では表現できないなにかに繋がっているのだとも感じる。

やはり本作品は90年代の異色のアニメ作品であって、特定の人を対象にしたため売上が芳しくなかったというOVAが持つ欠点はあれど、
テーマ性、ストーリー、キャラクターからして、私としては後のアニメに少なからず影響を与えた作品である事を認識させてもらえたし、
なによりも、このアニメに出会えたことに感謝したいと心の底から思う事ができたのは良かったと思う。

私がこの作品を初めて視聴したのは2001年頃のNHKBSでの放送だったが、当時視聴していたときもテレビにくぎ付けになってしまった事は今でも忘れることはない。
そしてその数年後にDVDBOXも購入したが、DVDでの初視聴の時は嬉しさの反動からか視聴を中断することすら勿体なく、トイレに行くのすら我慢して思わず失禁してしまった事も良い思い出だ(笑)。
つまり、それぐらいハマる人はかなりハマるのではないかと思う。
なにはともあれ、無理に勧めることはしないが、機会があれば一度は見てもらいたい作品であることは確かだ。

私にとってのアニメにおけるマスターピース作品である。
{/netabare}

投稿 : 2023/07/10
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