「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
85.8
感想・評価
1993
棚に入れた
9499
ランキング
215
★★★★★ 4.1 (1993)
物語
3.9
作画
4.6
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.8

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アラジン♪ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

【ネタバレ有】 「この作品を観て“雨の日”が好きになりました・・・!」

 
 タイトル通り、この作品を観て“雨の日”が好きになりました…。

 それまでは、雨を見れば気が滅入る(めいる)、雨の日はテンションが下がる…、というのが、“雨”に対して持っていたイメージだったのだけれど―、
 この作品を観て、“雨”や“雨の日”の持つ魅力に気付かされた―。


 この作品は、そのシーンの約8割が“雨のシーン”で構成されており、主題歌もタイトルが「Rain」(秦基博(はたもとひろ))というように、とにかく、雨が降っている日が舞台に(そうでない日は、逆に、雨の日と対比させるかのような演出に)なっている。

 事実、“新海誠(しんかいまこと)”監督自身も「雨は3人目のキャラクター」と述べており、登場人物は、基本的には主人公で高校生の“タカオ”と、ヒロインで高校教師の“ユキノ”の2人しか出てこない(他の登場人物は、ストーリーを述べる際の補助的な役割を担っているに過ぎない)。



 おそらく、この作品にどハマりした人も少なくないと思うが、ハマってしまう一番の理由が、芸術的なまでに計算されたこの“作画”だろう。作画と言っても、もっと詳しく言うなら、“風景描写”の美しさである。

 新海監督の他の作品を観ている人なら知っていると思うが、新海作品(“新海誠監督の作品”を略して言わせてもらう)の一番の特徴であり、他のアニメ作品との一番の違いが、観ている人を圧倒する、この
“作画のクオリティ”にある。
 緻密で美しい、観ていて惹き込まれるような“背景の描写”と“光の演出”は、“アニメとリアルの狭間の世界”を感じさせてくれる…。



 また、上でも述べたように、この作品には、基本的に、タカオとユキノの2人しか登場人物が出てこない。そしてこの2人が素晴らしい…。

 まず主人公・“タカオ”だが、彼は“靴職人を目指す”高校生で、常にそのことばかりを考えているという感じの、周りに流されない真っ直ぐな意志と心を持った青年である。そして何より、彼のすごいところは、ちゃんと“分かっている”ところにある―。

 靴職人を目指すことの苦労や難しさ―、自分がまだ世間も社会も知らないガキであること―(あくまで、タカオ本人の言葉を引用したが、自分個人としては、その人が“大人”か“子供”かなんてものは、“年齢”とは全く関係ないと思っている。むしろ、“子供の言うこと”と言ってまともに聞こうとしない大人の方が、大人のつもりでいる、残念な“おとな”である…)、そして何より、ユキノと自分との間には、どうしようもない壁があること―。

 その全てを分かったうえで、同級生たちとは違う道を行き、靴職人を目指し、そして…ユキノのことを好きになる…。

 この作品はその魅力から、どうしても“ユキノ”に心が(あえて“心が”と言わせてもらう)行ってしまいがちだが、“タカオ”という存在が、いかにもリアルで、それでいて現実にはそういない…、そう出来ることではない…“大人の中身を持った子供である”ということを、感じてもらいたい。
 そしてそこに、ユキノにも決して見劣りしない、タカオの特別な魅力があることを感じてほしいと思う。



 また、もう一人の登場人物、ヒロイン・“ユキノ”だが、一言では言い表せないほどの魅力が、彼女には詰まっている…。

 タカオが、雨の日にユキノと出会うごとに、彼女に魅かれていくその感じは、言葉にしなくても観ていて伝わる。

 タカオが、自分より大人の女性の魅力を、ユキノに感じているということは、もちろんあるだろうが、それだけではなく―、
―雨の日のほんの一時(ひととき)だけの存在であり、仕事も年も名前さえも全く知らない、雨の日のこの場所だけの関係…というところに、“神秘的な魅力”を感じているのだろう…(もちろん、観ている自分もそう感じた…)。


 だが、自分が感じた彼女の一番の魅力は、ユキノがタカオに言った「どうせ人間なんて…みんなちょっとずつおかしいんだから…」という言葉にある。

 「自分はおかしくなんかない…」または、「自分がおかしい人だと他の人に思われたくない…」と考えるのが“普通”であり、「自分のことをおかしいと自覚する」また、「自分がおかしいということを他人に言える」なんて人は現実にはそういない…。

 だからこそ彼女が、そういう考え方をしているところに、自覚している自分の(=ユキノの)弱さが感じられて、ほんの少し触れただけで壊れしまうような、“儚さ”を彼女に感じるのだろう…。
 そこに彼女の本当の魅力というものを感じる…。



 この作品は、観ていて、“アニメーション映画”というよりも、どこか“短編小説”を読んでいるかのような気持ちにさせられる―。
 なぜそう感じたのか、初めて観たときは分からなかったが、改めて観てみて…、その多くを“語りすぎていない”ことに、そう感じる理由があることに気付いた―。

 この作品はそもそも上映時間が46分しかなく、一番の見せ場でもある、「階段で、どしゃ降りの雨をバックに、タカオとユキノがお互いの気持ちをぶつけ合う」シーンにも、そのシーンの“厚み”こそあれど、時間はそれほど割かれていない。

 だがそこに、まるで小説を読んでいるときのような―、観ている人それぞれが想像力を働かせ、それぞれの考え方・想像の仕方に、映されていない他の部分を委ねている―、そんな新海監督の(良い意味での)“他人任せの作品の完成”を感じるからこそ、そういう気持ち(=小説を読んでいるかのような気持ち)になったのだと思う―。



 またこの作品は、“花澤香菜(はなざわかな)”という声優の、本当の魅力を感じることが出来る作品である。
 もちろん、花澤香菜さんは人気声優の一人だが、彼女のファンの多くが、“癒し系キャラ”を演じているときの彼女に魅かれていることが多い(「STEINS;GATE」の“椎名(しいな)まゆり”や「化物語」の“千石撫子(せんごくなでこ)”など)。
 
 しかし、本当の彼女の魅力(“本当の”という言い方は失礼かもしれないが、“もう一つの魅力”と言っておこうか…)は、今作のユキノのように、美しくもどこか儚い、“大人の女性”を演じることに、その魅力があるように思う…。
 現に、この作品のユキノの声に、今までの花澤香菜さんとの違いを感じた人も、少なくなかったのではないだろうか…。



 また、この作品は“音楽”も素晴らしく、主題歌の「Rain」はもちろんだが、セリフの無い背景のシーンなどでよく流れていた、バック音が最高である。
 (音楽や楽器に対する知識が、あまりにも少ないので断言できないが…)バック音として流れていた“ピアノの音”が、雨の降る背景とマッチして、心を洗われるような感覚にさせられる…。
 
 また主題歌の「Rain」は、この作品が上映されていたのが梅雨に入るころだったということもあって―、梅雨の時期の雨が降っている日には、この曲をよく聞いていた記憶が蘇ってくる…。



 実は、(言い過ぎかもしれないが、ここが一番言いたいことである)、新海誠が作るアニメ映画が、いつか、宮崎駿が作るアニメ映画(=ジブリ作品)のような存在になるのではないか、と心の中で思っている―。
 そもそものタイプが違うことは、もちろん分かっているが、そういうことを言いたいのではなく―、
―アニメに全く興味のない人たちが、口をそろえて「ジブリ作品はすごく好きで、特に○○(作品名)が大好きです」と言う、あの感じが…、いつか新海誠の作品たちに対して言われる時代が来る気がする―。

 そう思う根拠がいくつかある訳だが、例えば、作品全体に対する“ぶれないこだわり”がそうだ。
 おそらく、(これはイメージだが)、新海誠さんの中には、どの作品を作るにおいても、1つ“太い柱”のようなものがあって、(何度も言うが、これはイメージだが)、そこから生やしていくもの(イメージだったり、音や声や作画だったり…)の違いで、作品ごとの違いをつけているように感じる。

 そのぶれないこだわり(突き詰めていけば、絶対的な個性になる)に、ジブリ作品に共通する何かが感じられ、将来的なそんな希望を持ってみたりもしてしまう…。



 …とまぁ、ここまでいろいろと、この作品の魅力を書いてきたが、まだまだ書ききれていない魅力が、この作品にはたくさんある。
 なので、アニメ好きの人だけでなく、もっと多くの(中性的な)人たちにも観て欲しい、新海作品を知ってほしい…と改めて思わせてくれる最高のアニメ映画作品の一つである…。

 (終)

投稿 : 2013/12/12
閲覧 : 269
サンキュー:

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