「灰と幻想のグリムガル(TVアニメ動画)」

総合得点
87.2
感想・評価
1952
棚に入れた
9389
ランキング
160
★★★★☆ 3.9 (1952)
物語
3.8
作画
4.0
声優
3.8
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

ガラス玉ひとつ落とされた 【72点】

異世界で義勇兵としてモンスターと戦う少年少女が成長し、仲間になってゆく様を描いた、青春ファンタジー。



コンセプトは大好きだし、アプローチの鋭さと一貫性、支柱部分の贅沢さには目を見張るものがあります。
{netabare}
まず主題。
OPが象徴するように、異世界に落とされたガラス玉たちは、互いにぶつかり傷つけあいながら、それでも身を寄せ合って生きてゆかなくてはならない。
傷つきやすく傷つけやすい思春期の少年少女から記憶も過去も取っ払って、いきなり生と死が隣り合わせの舞台に放り出したとき、どんな情動や関係性が生まれてくるのか、そういうことを観測する作品です(だから、現実世界に戻る物語が生じえない)。
スマホが存在しない学園生活が異世界よりもファンタジーと化した現代だからこそ成立する、ある種思考実験的なアニメでもあったり。
変化球の青春群像劇としてのコンセプトは、非常に私好みでした。

演出の方向性もそれに従い、物語はハルヒロの主観で進行しつつも、どこか突き放した客観性を保っている。
水彩画的な彩色で圧倒的な存在感を持って描かれる背景は、その象徴でしょう。
人ひとり死んで登場人物は慟哭にあえいでいるのに、夕焼けが照らす街路も満点の星も、1話と4話では全く変わらず美しいのです。
ハルヒロ役の細谷さんやメリィ役・安済さんに代表される朴訥とした自然体の声の演技、物語進行に伴い成長すらする非常に肉感的・写実的な肉体描写は、視聴者に人物のリアリティを突きつける。
挿入歌の多用も、主観と客観、キャラ間の感情の温度差や個人の内側での心情変化の落差をシームレスに繋ぎつつ、場面のトーンを高く保つという意図の下に使われていたように見えます(スポンサーの要請もでかいんだろうけど)。

同時に、「普通の俺らがRPG世界に行ったらどうなるんだろう?」という妄想まで充足させてくれる。
ゴブリンって俺らより強くね?、の衝撃は、もはや快感でした。
しかもそれはあくまで「成長」を見せるための一ファクターなのだから、贅沢な話です。
主題を考えれば、最終話の展開もまぁご愛敬、といったところ。 {/netabare}



ただ、コンセプトや演出意図に拘泥しすぎた面もあるのではとも思う。
{netabare}
例えばメリィ関連。
自己には過度にセンシティブながら他者にはインセンシティブ、そんな若者たちを描きたいのは重々承知。
それにしても、メリィのトラウマを無遠慮にほじくりすぎ。
そして何より、なぜメリィがその無神経を流せているのか。
居心地悪く感じているパーティーで、なぜか全員が自分の心の生傷を知っているらしい(「俺らのパーティーも神官に頼りすぎて死なせた」とか言ったら普通勘づく)。
また、パーティーメンバーは(メリィが自分たちと同様のトラウマを負った)サイリン鉱山の攻略を、トラウマを忘れたかのごとく合理性一辺倒の理由付けで提案してくる。
メリィは、傷つきやすい心を硬くて脆い殻で抱きしめるキャラとして描かれています。
だから彼女が、他の5人のそれらの言動を、生理的な拒否感や不信感を持たず受け入れる過程が見えてこない。

喪失を伴う青春群像劇としてのストーリーラインからは、「少年少女が仲間になる」物語はそれまでの5人で描いたのだから、次は「その過程で失ったものと得たものを受け入れる」物語に早く移行することが要請されるのは理解できます。
でも、そのためにキャラの等身大の情動という最大の長所を自らスポイルしてどうするんだ、と。
2話や8話、9話の余白を挿入できる制作陣がなぜそこを省くのかがわからない。
というかいつ「ハル」呼びするほど距離が縮まったんだ、そこラブコメ的に最高においしいとこじゃねーかよチクショウ!←萌え豚の叫び

また歌演出についても、ベタでベターな代替策があっても、挿入歌に頼ってしまったのでは。
個人的に、4話だけは肯定的に捉えられなかった。
視聴者はまだマナトとも2時間弱しか付き合いがないわけですから、セリフでもフラッシュカットでも、彼の存在の重みを実感させる描き方で感情移入を補強してくれた方が嬉しかったです。

加えて、物語の視野を極端に狭めている反動で、世界観の不自然さがどうしても目に付く部分もあり。
視聴者の割り切り力が試されますね。 {/netabare}


少し捻じくれた青春ものとして、間違いなく非凡な作品。
どストライクだったからこそ愚痴も多めになってしまいましたが、(もしあるならば)続編や中村監督&細居さんタッグの新作は、必ずチェックしたいと思います。


【個人的指標】 72点

投稿 : 2016/04/02
閲覧 : 367
サンキュー:

29

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