「僕だけがいない街(TVアニメ動画)」

総合得点
91.6
感想・評価
3355
棚に入れた
15476
ランキング
29
★★★★☆ 4.0 (3355)
物語
4.2
作画
4.0
声優
3.8
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

後悔してんだよって そう言い逃したあの日 【78点】

人気漫画原作、過去と現在の殺人が絡み合う、タイムリープ・サスペンス。

■よくできたアニメだった
毎週引き込まれハラハラしながら観ていました。
途中まで展開を知っていたにもかかわらず(原作6巻まで既読でした)。
{netabare}
まず、特に大きな話数を割いた救出対象・雛月に関する設定付けがうまい。
具体的には、ループもの特有の「後悔→再試行の願望」と、児童虐待からの救出という展開が絶妙にマッチしていました。
00年代に社会問題化し近年報告件数が増加し続ける児童虐待ですが、個々の悲劇の発覚には(発生、ではない)、必ずと言っていいほど周囲の後悔が伴います。
それは近隣住民の「異変には気付いていた」との証言であったり、教員・児童相談所の対処が及ばなかった・遅れたという事実であったり、いずれにせよ「あの時こうしていれば」がつきまとう。
そもそも、児童虐待が「社会問題化した」という言説自体にも後悔が含まれるのかもしれません。
児童虐待への問題意識が高まる以前から、こうした悲劇は「しつけ」「親の監護権の行使」の名の下に存在していたわけで、それを社会が後になって「発見」した側面がある。社会が最優先で守るべき子供への加害を、個人としても社会システムとしても止められなかった後悔があるからこそ、虐待から子供を救いたいという欲求の強さは、私たち全員が共有するものなのでしょう。

キャラクターも効果的に配置されていて、例えば雛月は、人見知りで小生意気だけど心を開くと年相応にかわいらしい、心から守ってあげたくなる子供として描かれていた。
見事なツンデレっぷりは小学生編のヒロインとしての貫禄も十分でしたし。
だから私は断じてロリコンじゃないのだ!
…対して子供たちが対峙する犯人、その正体が八代であることは多くの人が察していたと思いますが、逆にこの流れではプラスに働く。
本来彼ら彼女らを守るべき教師が、最も残忍で狡猾な敵なのです。
八代が画面に映るたび、そして悟が彼に信頼のまなざしを向けるたび、無力感と焦燥感、なんとしても助けなければとの使命感に駆られたのは、私だけではないはず。
雛月役の悠木さん、八代役の宮本さんの好演も、作品の質をグッと高めていたように思います。

他に特筆すべきはシナリオ構成、毎話の締めに衝撃的な原作のハイライトシーンを持ってくる、いわゆる強い引き=クリフハンガーがとても効果的だったこと。
加えて、シネスコと撮影の妙で画面の質感を劇場作品のように高めたり、クセのある原作絵を可愛らしさと凛々しさの共存するキャラデザに落とし込んだり、アニメスタッフの手腕が見事でした。
あ、アジカンファンとしては1話EDでRe:Re:が流れた瞬間叫びましたとも(ソルファが12年前……)。

ただし不満点も。
コミックス8巻分を12話に詰め込んだ弊害か、大人編での八代に絶望感を感じなかった。
また、悟役の俳優お二人は、生っぽい声で彼の人柄をよく表現されていたけれど、感情芝居や叫びのシーンでは迫力不足。
そして、リバイバルの原理に全く触れられなかったので、その幸運な発生に冷めてしまった面もあります。

あと、某ループもの映画がDVD特典で何通りもエンディング付けやがったせいで、シュタゲと言いこれと言い、ラストシーンが「あ、これバタフライ○フェクトで観たやつだ!」になってしまうのは如何ともしがたくて、大変遺憾でございます。 {/netabare}


■物語構成がちょっと不思議じゃない?、なんて話
総じてクオリティの高い、多くの人に薦められる作品なのだけど、いわゆるループものにしてはストーリーラインが変則的だなぁ、と。
{netabare}
人助けが目的となるループものは、救助対象がヒロインであるのがオーソドックス。
じゃあ僕街は、となると、悟は母親を助けるためにリバイバルしている。
雛月の虐待と対比させて母の偉大な愛を描く作品でもある(お風呂と朝食のシーンは正直泣いた)ので、実際妖怪ママがヒロインと言ってもいいのかもしれませんw
ただ、母を助ける「ために雛月やヒロミ、中西彩を助ける」と、一次的な目的成就のために二次的な救出が行われ、その副次的なプロセスの中で主人公が多くのものを獲得(回復と言うべきか)するのが面白いところ。

雛月たちが救出対象となったのは、彼女たちが八代のターゲットだったからで、本来のヒロインとの接続は非常に薄められています。
助けるべきヒロインの運命が赤の他人に左右され、あまつさえそれが不特定な他人=雛月にすげ代わる(アニメのヒロインは、確実に雛月だった)。
その横道において、主人公が果たせなかった「正しい」仲間作りを達成して、他人に踏み込める「立派な」大人として夢を叶え、最終的に運命の人に巡り合う。
そしてその対価は、本来のヒロインであった母の無償の愛に基づく15年の看病という献身によって支払われるのです。

児童虐待に対する社会的欲求を味方につけて不特定な他人を助けたり、母の無償の愛という情緒的に否定できない犠牲の上に望ましい過去と人間関係を回復したり。
実は本作は、社会的に正当化されるエクスキューズの上で、社会的にベストな結果を獲得する、という巧妙な仕掛けを内蔵しているように見えます。
・ループすることにすら社会的な正当化、後押しが必要なのか。
・ループによる欲望の対象が「キミとボク」から「社会と私」へと肥大化しているのではないか。
変則的な構造からそんな疑問を感じさせる、「社会的なもの」への強い意識を孕んだなかなか不可思議な作品、なのかもしれません?
セカイ系がナマの手触りを失った今、流行るのはシャカイ系なのだ!、とか妄言を吐いてみたい人生だった(´・ω・`) {/netabare}


【個人的指標】 78点

投稿 : 2016/04/23
閲覧 : 333
サンキュー:

30

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