「キノの旅(TVアニメ動画)」

総合得点
75.9
感想・評価
635
棚に入れた
4006
ランキング
745
★★★★☆ 3.7 (635)
物語
4.0
作画
3.5
声優
3.5
音楽
3.7
キャラ
3.8

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蟹チャーハン さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

バイクにまたがり世界を旅する少女は違いを知る

世界は広く、己は小さい。
世界を知ることは、自分を知ることでもある。
自分を知れば違いがわかり、違いは自分を認識することにつながる。

しゃべるバイクのモトラド、もといエルメスくんにまたがり、
世界を旅する少女のキノの物語です。

世界のどの町にも滞在は3日までと決めているのがキノらしいところ。
長く滞在すると、それだけ他の世界をまわれなくなるからというが、
本音はまた別のところにあるのかもしれません。

旅はいいよねってよくいいますが、たしかにいい。
旅は、自分と世界の違いを知る旅にもなります。

民族や文化、言葉に習慣、そのどれかひとつでも違う国では、
自分はあくまでゲストな異邦人です。

キノが立ち寄る世界の国々はどれも特殊なものばかり。
伝統のない国だったり、機械任せで人間が働かない国だったり、
サトラレを彷彿させる民族が住む街であったり、
兵器はたくさんあるけれど殺し合いのない平和を唄う国であったり…

一言でいえばシュールな世界。
ある視点から掘り下げてみて、ことさら大げさにした風変わりな国ばかり。
当然、どの国に行っても疑問に思うことが多く、「質問していいですか?」と
キノは聞いてまわることになります。

疑問に思って質問をするけれど、返答は解答ではない。ということ。

違いは違いでしかなく、それをどう受け止めるかで変わります。
やはり違うと思うのか、
そんな違いもあると思うのか、
その違いは素晴らしいものだと思うのか、いろいろですね。

違いを受け止めたからといって、
自分が大きく変わるかもしれないし
変わらないかもしれない。

キノがなぜ滞在を3日と決めているのか、それはもしかしたら、
自分がその土地に染まるのを嫌がっているからかもしれません。

事情を聞くが、それ以上でもそれ以下もない。
誰かを救う旅でもなければ、自分を救う旅でもない。

キノはあくまで異邦人であり、旅人だから。
旅人とは、なんとも無責任な存在なのです。

こーいう自我の芽生えのきっかけを与えてくれる作品は、素晴らしいですね。
経験から何かしらの考えが導き出せるかもしれないし、考えるきっかけにもつながる。

作品の最初のイメージはバイクで旅するところから、映画の『モーターサイクルダイアリーズ』でした。
キューバ革命のチェゲバラが若かりし頃に、バイクにまたがって南アメリカ大陸を旅した映画ですね。
そこで貧困と虐げられる人々の現状を目の当たりにして、自分の進むべき道を自覚した。
それと雰囲気がとてもよく似ている。

そこから雪山での吹雪のシーンがはじまり、これはロバート・レッドフォードの『大いなる勇者』を彷彿させました。
都会を捨ててロッキーの山中でひとり孤独に暮らすことを選んだ男の物語です。
これも素晴らしい映画です。

数話目で登場する、伝統と文化のない国については、マイク・レズニックのSF小説『キリンヤガ』を思い出しました。
伝統と文化をまもるために惑星へ移住までした民族が、孫の代にもなろうとしたとき、
若者による伝統の放棄がはじまり、古老たちは絶望する…という物語です。
(いつでも若者は新しいこと、革新めいたものが好きになる)

とまぁ、一話一話見ることに、いろんな世界観をもつ小説や映画といった作品を思い出させてくれて、
それがとても新鮮でした。

自分も、20歳すぎてから欧州で放浪記みたいな旅をしたことがあって、半年程度ですけど、あちこちふらふら旅してまわりました。
スペインでは海岸沿いの町をひとつひとつバスでまわりました。

滞在は2日まで。
キノより1日少なかったのは同じ理由で、そうしないと2ヶ月以上かかってしまうからです。

到着して町の中心部のカフェに座って道行く人を眺め声を聞く。
身振り手振りの動作をみて会話の内容を想像する。
服装にも人柄や性格はでますし、多少の縁もできて付き合ったりもする。
本当にあきない旅でした。
当然、怖い経験もいくつかしましたが…それはまた別の話しw

ともあれ、どこにいっても、どんな国にいても、自分は異邦人であり、
彼らからしたら旅人であり、それはよそ者であり、
日本人であること、アイデンティティを意識する旅にもなりました。

山の頂や海辺の漁村など、小さな集落の村で同じ日本人のバックパッカーと出会えば感動もし、
絆とかルーツとか連帯感を知ったのもこのときだったか。
とても新鮮でしたね。

現代日本は、違いを認めず、責めることが多いのが悲しいことです。
まぁ、それも日本らしさなのであって、認めないといけないのかもしれませんがw

なかなかに味わい深い作品でした。
こーいうのはアニメではなく作品と言いたくなるアニメです。
あ、言っちゃったw

投稿 : 2016/04/21
閲覧 : 359
サンキュー:

16

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