「ストレンヂア 無皇刃譚(アニメ映画)」

総合得点
67.4
感想・評価
280
棚に入れた
1322
ランキング
2395
★★★★☆ 3.9 (280)
物語
3.7
作画
4.5
声優
3.7
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

なる@c さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

キャラのために、作画はある

ストーリーの表面だけを見れば、そこまで凝ったものではないが、洗練された演出と丁寧かつ大胆な作画によって「ストレンジャー」としての登場人物の側面を見事に描いている。

名とともに過去を捨て、剣を封印した一匹狼の名無しが、民国(中国)から連れられた孤児・仔太郎の用心棒となる。身の上話や乗馬の練習で仔太郎と絆を深めるも、野望を持ち赤池の領主と連携を取る民国の武装集団に仔太郎が攫われてしまう。連れられる先は、赤池の本拠地。武装集団の中心人物である白鸞(びゃくらん)は、そこで仔太郎に施す怪しげな儀式の手筈を整えている。名無し、名無しと旧知の仲である虎杖将監(いたどり しょうげん)、領主の一人娘でもある姫との約束を胸にする戌重郎太(いぬい じゅうろうた)、青い目を持つ武装集団最強の剣士 羅狼(らろう)。それぞれの想いを胸に、総力戦は決着を迎える。

このアニメは時代劇アクションということもあり、未視聴の方には純和風に見えるかもしれないが、
『ストレンヂア』というタイトルには
ストレンジ【strange】=奇妙な男、
ストレンジャー【stranger】=よそ者、異邦人
という二つの意味が込められている。
戦の時代だというのに自分の剣に封印を施している。
金髪碧眼の外国人である。
強烈な二つの特徴は、物語を語る上で大切なキーワードになるのだ。

制作はボンズ。『カウボーイビバップ 天国の扉』、『鋼の錬金術師』と同じく取締役の南雅彦がプロデューサーとして深く関わり、アクション作画アニメーターとして名高い安藤真裕が初監督を務めた。音楽は『ふたりはプリキュア』、『交響詩篇エウレカセブン』の佐藤直紀。

乗馬シーンで松本憲生、ラストバトルで中村豊が作画を務めている。その素晴らしさは、文章で語るべきものではない。是非見てほしい。バトルはボンズの作画技術の粋を集めた圧巻のものとなっている。あまり語られないのは名無しと仔太郎の日常シーンだ。TOKIOの長瀬智也、Hey! Say! 7の知念侑李の掛け合いがあまりにアイドル離れしていて忘れがちになるのだろう。犬の飛丸が男をおびき出した隙に仔太郎が民家の食料を盗むシーンは、辺りを見回してササッと民家に忍び込む仔太郎がなんとも可愛らしい。仔太郎の乗馬練習は、いろんな表情の仔太郎を見ることができる。馬の描写も素晴らしい。馬に関わらず、蟷螂、鳥、犬、魚。絶対描きたくないだろうなと思う動物を長尺で描写していて驚愕した。作画監督の伊藤嘉之の仕事とのこと(Webアニメスタイルの安藤真裕インタビューより)。市場のシーンは、スタジオジブリ出身の奥村正志の仕事。情報量がとにかく多く、説得力と重さがある。
作画の感想を述べる時にアニメーターの名前を挙げる癖をどうにかしたい。アニメーターも「○○さんすごい!」とネット上で言われるために書いているわけじゃなかろうし、ただのアニメ解説作文になってしまう。しかしその思いの裏で、アニメ会社や監督を楽曲で言う作詞家・作曲家の立ち位置と考え、同じ作曲家が制作した別の楽曲を探すようなアニメの楽しみ方はとても面白いことだと思う。それが面白くない人はアニメーターの名前のところは無視してもらってかまわないが、なんだろう、こう、知識をひけらかすような文になっていないかと不安になる。意見があったらメッセージをください。

閑話休題。
赤池の国での総力戦。あまりにあっさりと人が死ぬ。男女関係なく。頭を射抜かれ、槍で身体を串刺しにされ、銃で胸を撃たれる。大げさに血が出ないのが、かえってリアルさを助長させる。また、止めを刺す瞬間を間接的な演出で見せることでこちらの想像力を働かせる。
安藤監督はアニメ!アニメ!のインタビューで「刀を振ったら人が死ぬ。必然です」と述べている。また、野望や夢を持ち戦う人間が敗れ、戦いを求めて戦う2人が残るという構図も計算して制作したとのことだ。胸の中に欲を隠し持つ人間は無残に散る、リアルな中である種の勧善懲悪モノになっている作品だ。後半は非常にハードな内容だが、武装集団が痛みを和らげる薬を服用しているのがせめてもの救いとなる。そして、その薬の服用を拒んだ名無しの戦闘への焦がれの表現にも役立っている。
また、安藤監督は『カムイの剣』をリスペクトしているとのことだが、今作のラストバトルにもその心が表れている。余計な会話が一切ない。戦いのさなかに会話を交わす必要はない、剣を交えよとは、今では古い言葉になってしまっているかもしれないが、それ以外に表現しようがないと思う。
その他、刃こぼれや筋肉の力の入れ方、汗など、特筆すべきポイントは多々あるが、表現し切れないし、表現すべきではないとも思う。中村豊の作画を実際に感じてほしい。←あ。

ラストシーン。
仔太郎が馬を操り、仔太郎の後ろに名無しが乗る。少年が一連の物語で成長したことを感じさせるシーンだ。名無しがこの後死んだのかどうかは、仔太郎の表情でわかることだろう。あの戦いに意味は合ったのだろうか?あの場面で勝ちはしたが、そのおそらく数時間後に名無しも死んでしまうのでは、何も残らないではないか。


ラストまでみた視聴者なら、こんな野暮なことは言わないだろう。
元々時代劇の良さは、褒章や謝礼目当ての戦いではなく、生き様とか、自分が今日生きていく意味を知るため、または、偶然通りかかった町で暴漢に襲われる町娘を助けるため、くらいの目的でいいというところにある。名無しがそのようなことに拘泥する男なら、羅狼と戦おうとしないだろうし、羅狼も戦いたいとは思わない。そもそも、金を払うかどうかもわからない子供相手の用心棒を引き受けたりしない。物語の序盤から変わらない名無しの信条が、結果的に仔太郎を一歩大人に近づけたのだ。

今作は作画アニメと呼ばれてる。そのとおりだとも思う。しかし、そう呼んでいる人の中に作画アニメ=作画だけのアニメと思っている人が少なからずいる。アクション作画で迫力をつけたいと思うのは当然だが、目的はその作画によって主人公、敵およびメインキャラの信条に説得力をつけるところにあると思う。作画のために見るのではなく、登場人物に注目して観てほしい。
 

色んなことを語りすぎて何が言いたいのかわからないレビューだ。
小難しく語ったが、結局のところ、僕は中村豊の作画が好きだ。

投稿 : 2016/04/13
閲覧 : 337
サンキュー:

5

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