ブリキ男 さんの感想・評価

4.5
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態：観終わった

まるで奇跡の様な幻想物語

クラナドの後編に当たる作品です。

前作を見ているかいないかで、キャラの魅力が大分変わってしまうと思われますので、未視聴の方は必ず先に見ておいた方が良いと思います。全２２話は大体４つのパートに分かれていて、最初の３つの挿話はやや独立した印象のあるエピソードになっています。

１話　　　みんなで草野球するお話
２～４話　陽平のために皆が頑張るお話
５～６話　寮母の美佐枝さんのお話
７～８話　有紀寧と兄、不良グループのお話
９話～　　朋也と渚ともう一人のお話

前作は全編を通して、とても心地良く視聴出来たのですが、アフターストーリーでは前半の陽平のサッカー部復帰のお話と不良グループのエピソードが私にとっては鬼門になりました。前者については、陽平がサッカー部に戻った所で到底うまくやっていけるとは思えなかったというのがその原因で、その為に皆が無理をするお話は見ていて心苦しかったです。ただただ芽衣ちゃんたちがかわいそうでした。後者については一人の人物の死をきっかけに不良同士の争いが収束の向かうというものですが、何とも出来過ぎな気がして受け入れがたいものがありました。一種のおとぎ話として捉えれば何とか視聴出来ましたが、２周目見る事があったら今度は飛ばしても見ようかな、とか不謹慎な事も考えたりしてしまいました。
{netabare}
それでも陽平のサッカー部復帰のお話の後半で描かれる、朋也と陽平の取っ組み合いの大喧嘩は見ておいて良かったと思えます。二人の間に長らくの間続いていたしがらみが、喧嘩のあった翌日の朝、笑い飛ばされて氷解してしまったシーンは清清し過ぎて涙が出てきました。こんな事出来るのは多分小学生までだと思いつつも、高校生の二人がそれをやってのけてしまう光景を見て、何故だか否応無く感動させられてしまいました。この二人は兄弟かそれ以上に切っても切れない絆で結ばれた関係なのではないでしょうか？　全てを許し合える親友同士って性別問わず憧れてしまいます。
{/netabare}
９話以後のエピソードについては残念ですが私は語る言葉を殆ど持ちません。ですので少しだけ‥。
{netabare}
後半の朋也の行動を許せないという意見もある様ですが、朋也には少なくとも自分に出来ない事を認めて、信頼出来る人にそれを任せる勇気があった様に思えます。現実では一人で無理をした挙句、誰も幸せになれないという事もあるのですから‥。私にはそんな朋也を責める気にはなれませんでした。彼に同情し、それを許し、見守っていた人たちも、反省し、悔い、ついには自分の父を許す事の出来た朋也も、両者とも立派な人たちだったと私には思えました。
{/netabare}
未視聴の方は予備情報を一切入れず一気に見てしまう事をお勧めします。多分みんな泣きます。

ネット上では※クラナドは人生なんて言葉が散見されますが、そういった意見には私は同意しかねます。私見ですがクラナドは純然たるファンタジーで、思う側と思われる側がパズルのピースの欠けた部分を埋め合う様に、次々とあるべき場所へと収まって行く出来過ぎのおとぎ話の様に思われるからです。人を信じる事や許す事、愛する事や悔いる事、そんな誰もが素直に出来れば良いと思える事を、半ば理想化された、限り無く優しい人達がお互いに与え合う、まるで奇麗事の様な、奇跡の様なお話だと思うのです。

世に存在する幾多の物語の中には、残酷さが痛烈で目を背けたくなるものも、慈愛に満ちていて心癒されるものもありますが、私たちはそれらの内どちらを見れば、この作品に登場する様な、より優しい人間になれるのでしょうか？　多分その両方だと私は思います。人の心は常に均衡を必要としているものなので、つらいものばかりを見過ぎても、優し過ぎるものを見過ぎても、天秤の傾きがどちらか一方に偏る事で、狭い視野のもと着々と先鋭化した狂気に近づいていくものだと考えられるからです。クラナドはその優し過ぎる一角にある幻想物語の一つだと私には思えるのでした。


※原作者の麻枝准氏とアニメ版の監督の石原立也氏もその様なコメントを残しているらしいのですが、出典元が分からずどういったニュアンスで用いているのかは確認出来ませんでした。