「NHKにようこそ!/N・H・Kにようこそ!(TVアニメ動画)」

総合得点
80.5
感想・評価
1531
棚に入れた
7872
ランキング
446
★★★★☆ 3.8 (1531)
物語
4.0
作画
3.5
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
4.0

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ネタバレ

てけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

挫折経験者にとどめを刺す

大学中退のひきこもり、佐藤達広(さとう たつひろ)が主人公の、ネガティブコメディ・ラブストーリー。
「NHK」は「日本ひきこもり協会」の略。


2006年の作品ですが、キャラデザは今でも全然通用します。
ヒロインの中原岬(なかは らみさき)はものすごくかわいいし、色気があります。
作画が安定していれば良かったのですが。


さて、この作品、主人公がクズいです。

ただ、「主人公クズwww」と笑っていられるうちはいいです。
「主人公にイライラする」となると、自己嫌悪を主人公に投影している可能性があり、黄色信号です。
境遇・性格・エピソードのどれかが一致してしまうとダメージ必至です。
作者の経験談を元に描かれており、妄想や他人の人生を通じて終局まで描いています。
どこにでも潜む人生の落とし穴にハマるとどうなるかを、様々なパターンで実際に映像化してしまうわけですね。
エグいエグい。

見る人の記憶をえぐってきます。
私はほとんどのエピソードを体験済みで、大ダメージを受けました。クズなのかもしれません。
同時にこの作品がいかに生々しいか、ということも物語ってくれました。


当時の出演者のインタビューでは「オタクを正面から扱った作品」ということが語られたようです。
ニート・引きこもりの多い社会情勢に対する問題提起をしているという説もあります。

ただ、アニメに関してはそれはちゃうんやないかと。

無人島、マルチ商法のエピソードや、終盤の展開にはオタクのオの字も出てきません。
また、登場人物から社会への働きかけ、またはその逆は皆無です。
悩みの内容も「家庭環境」「隣人関係」の域を出るものではありません。

主人公は、判断力に乏しく、その日の風向き次第で考え方も行動もコロコロ変えちゃいます。
お隣さんがオタクだったから、そういう方向に流れてしまっただけです。
サブキャラクターたちも出来事一つ一つで、物事の捉え方をガッツリ変化させています。

肝になっているのは当事者の思考です。

もっとも、2006年当時の「オタク」には、
「ニートである」とか「ひきこもりである」とかいう、付加的な印象が強く存在したせいなのかもしれません。

また、ヒロインに関してはオタクと無関係とは言えません。
アニメ内で語られる「オタクが求める現実にはいない美少女像」をそのまま抽出したようなキャラだからです。
ただ、キャラの印象づけ以上の効果があったのかは微妙なところです。



「ひきこもり」がタイトルに含まれているので、一見「ひきこもりからの脱却」を扱う作品に見えます。
しかし、「働くことは素晴らしい」とか、「ひきこもりは害悪」みたいな結論を導こうとはしていません。
ましてや、決して努力や根性と言った精神論に逃げることはありません。
{netabare}
佐藤くんも、委員長のお兄ちゃんも、同じひきこもり。
しかし両者とも、「生活を改めて働くべきだ!」という確固たる意志を持つことはなく、
「餓死するから仕方なく働く」という結末を迎えています。
それまでの過程に他人の影響がなかったとは言えませんが、生存本能が勝っていました。
{/netabare}

むしろ、頑張っているキャラクターのほうがガンガン転んでいるように見えます。
勝ち組に属する人生を歩んでいたって、ひきこもりの主人公より幸せであるとは限りません。
「今の状況をどう捉えるか」というのが争点となっています。
{netabare}
無人島での集団心中未遂のシーンが分かりやすいですね。
資産家だったり、医学部に入れるほどの実力と金を持っていて、努力もしてきた人たちです。
なのに思考が一つに凝り固まってしまい、ほかの解決策が模索できず、自殺を決意します。

しかし、一人が躊躇することで意識が変化し、皆生き続けることを決めます。
状況は何一つ変わっていないのに、です。
{/netabare}

ラストシーンへの流れもあくまで「捉え方」の転換です。
責任転嫁も立派な自己防衛手段。
{netabare}
岬ちゃんは「自分が不要な存在で、周りを不幸にする」と感じてきました。
その上で、佐藤くんを人柱にし、「私には必要としている人がいる。周りが不幸になるのは私じゃなくて神様が悪い」という理論で武装します。
しかし、プロジェクトが失敗し、この理論は破綻します。
結局自分が不要な存在であるという前提に舞い戻ることになり、自殺を決意します。

そのことを佐藤くんは知りますが、人の考えを変えられる言葉は持っていません。
そこで出てくるのが「NHKが悪い!」。
新しい理論、責任転嫁先で武装させようというわけです。
もちろんそんな妄言だけで納得させられるとは思っていません。
そこで、証明のためなら自分の命だって投げ出すという手段に出ます(半自暴自棄ですが)。

捨てようとした命を守るために、拒絶されたと思っていた命が捨てられようとしている。
ここで岬ちゃんの心が動くんですね。
「やっぱり必要とされている」と思ったか、「新しい理論ができた」と思ったかは定かではありませんが、結果オーライです。

こんなやりとりがありましたが、結局のところ2人は相思相愛なのは序盤から変わっていません。
「やっぱり好きなんじゃないか」という一言に集約されていると思います。
{/netabare}

状況は変わらなくても、捉え方一つで人生を簡単に左右しうる。
そんなテーマを押し出した物語だったと思います。


不条理で重い現実を面白おかしく描きつつ、テーマをしっかり持ち、計算された作品です。
終わり方もきれいでした。

放送当時もそうですが、情報の広まりやすい今放送したら反響はさらに大きそうです。
名作だと思います。

投稿 : 2016/11/27
閲覧 : 471
サンキュー:

49

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