「さよならの朝に約束の花をかざろう(アニメ映画)」

総合得点
88.9
感想・評価
651
棚に入れた
3478
ランキング
93
★★★★★ 4.2 (651)
物語
4.2
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

ぱんだまん さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

それでも愛は素晴らしい

〜はじめに〜
2016年に『君の名は。』が爆発的なヒットを記録して以来、停滞していたアニメーション映画の再注目が最近盛んになっている。今や宮崎氏、細田氏、新海氏の御三家が席捲する業界だが、満を持して暖簾を掲げたのが岡田麿里氏だ。人の機微を描くことに長けたヒットメーカーである彼女は業界からの評価も高い。そんな彼女が初監督を務める今作だが、アニメーション制作を務めるP.A.WORKSにとっても完全オリジナルの映画は初。右も左もわからない中で生み出される『岡田麿里の100%』が、一体どんな作品なのか非常に興味深かった。

〜子がいて親がいて〜
 描かれていたのは、切なくも優しい『母の愛』だ。育て親となるマキアが自己を省みず我が子を育てる姿は、個人的にどうしても片親である私の母と重なった。だから、青年になったエリアルの反発も不甲斐なく感じる気持ちも理解できた。子供からしたら「なんで俺のことばっかり気にするのだろう、もっと自分のこと気にしろよ」と母親の心理がつかめない時ある。 {netabare}ただ、劇中でマキアも似たことを言っていたが、親にとって『子を想うことは自分を想うことと同じ』。そこにあるのは無償の愛と子を持つ喜びなのだろう。最終的にエリアルも子を持つことでマキアの気持ちを理解したが、私もいつかその時が来るのかとふと思った。 {/netabare}

 アニメ版『そして父になる』と言えるかもしれない。こちらでは血縁のない我が子を受け入れるのに四苦八苦する父親が描かれていたが、共通して『自分の血を分けてなくとも、子を想う気持ちは変わらない』ことがテーマだった。また、劇中の母親は父親と打って変わり事態をすぐに受け入れたことを思い出した。子とナマのやりとりをする時間が多い母親だからこそ、大切なことに気付けるのだろう。

〜『飛ぶ』ということ〜
 ここからより作品に踏み込んだ話をしようと思う。マキアの成長記でもある今作だが、劇中では頻繁に『飛ぶ』という表現が出てくる。 {netabare}よく鳥が自由の象徴として扱われるように、今作では『変わる』ことを『飛ぶ』という意味合いで表現している。映画冒頭のマキアは非常に控えめな性格から高台から海へ飛ぶ勇気すらなかった。また、村から飛んで出るのも古竜に無理やり連れていかれただけで自分の意思ではない。つまり、これまでの自分(過去)に囚われて飛べずにいたのだ。しかし結果として外に出てしまったマキアは、出会いと別れの中で愛を知った。これは「誰も愛してはいけない」という変化を恐れる村の掟を破って得られたことだ。現に終盤にマキアはもう一度空を飛ぶ。その時は、変化の代償として生まれてしまった子供との共依存も脱ぎ捨て、自分の意思でまっすぐ前を向いていた。別れの一族として別れを避けるのでなく、『別れと出会える一族』としての生き方を見つけたのだ。だからこそ「愛してよかった」と言えたんだと思う。 {/netabare}

〜岡田麿里のセンチメンタリズム〜
 これまで多くの岡田作品(ex:凪のあすから、あの花)で『変化』を題材にしてきているが、今作でも時間の仕掛けを用いて色濃く描いていた。例えば、後半から主な舞台となる王国・メザーテ。 {netabare}先祖から引き継いできた謎の古竜を武器に英華を築いていたが、古竜の死によって敵国との力関係が崩壊し滅ぼされてしまったのだ。振り返ればかつて人間も自然やオカルトなど理解不能な物を排除しようと街を作り、産業システムを生んだ。まさに、このメザーテの崩壊は産業革命を遂げようとする時代の流れについていけなかったことを意味する。現にメザーテは完全制御不能な龍(つまり理解不能)に頼っていたが敵国は砲台や銃など近代的な武器で応戦していた。また、イオルフの3人組でもうまく対比されていた。変化に順応し飛んだマキア・レイリアと変化を受け入れず生き絶えたクリム。 {/netabare}作家・岡田氏の兼ねてからの主張は『変化の肯定』なのだ。その上で、様々な立場から一貫したテーマ(変化)を見せるのが岡田氏の真骨頂だ。

〜ファンタジーにしてよかった〜
 美術監督の東地和生氏も言っていたが、岡田氏といえば『現代』のイメージだった。その理由はやはり多くの舞台が『学校』であったからだろう。同じファンタジー要素がある凪あすも同様だ。狙いとしては視聴者の身近なものなら場面説明もいらないし肌に馴染み理解が早い。またクリエーターもイメージしやすい。だから、強烈なほどに心の陰陽を視聴者に伝えることができてきた。ただ一方で、伝わりすぎるが故に気持ち悪く感じる視聴者も少なくなかった。そんな中、今作は学校を使わず純然たるファンタジーを舞台に描いた。そうすることで岡田氏の描くリアルがファンタジーで中和されアクがなくなった印象だ。そういった点で岡田麿里ファンから「物足りない」という声があるのも上手く万人受けするようになった証拠だろう。もちろんそれが叶ったのも、東地さんや岡田さんを主体とした美術が巧みに場面説明を促していたおかげでもある。

〜最後に〜
あっぱれ岡田麿里、あっぱれPA。どうしても日々を描く都合から中盤に中弛み・話の抑揚のなさを少々感じてしまいましたが、本当に素晴らしい作品でした。これが処女作なんて信じられないです。SHIROBAKO以来ヒット作を作れなかったことに加え、雇用問題でファンからバッシングされるなど紆余曲折を経て生み出した子供は実に高い完成度を誇っていた。ただえさえオリジナル作品を提供するのが難しい中で映画として配給するその勇気とご気苦労は計り知れません。本当ありがとう。

投稿 : 2018/02/27
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サンキュー:

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