「輪るピングドラム(TVアニメ動画)」

総合得点
83.3
感想・評価
2089
棚に入れた
10549
ランキング
325
★★★★☆ 3.8 (2089)
物語
3.8
作画
3.8
声優
3.6
音楽
3.9
キャラ
3.8

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キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

「かえるくん、東京を救う」

総合評価:☆☆☆☆☆
 名作・話題作が目白押しだったテレビアニメの当たり年・2011年においても、ひときわ燦然と輝く傑作である。この作品の総合評価については、別のサイトにレビューを投稿したので、ここでは、作中で使われた小道具にスポットを当てたい。

 第9話「氷の世界」では、陽毬が図書館で「かえるくん、東京を救う」という本を探すシーンがある。初めて見たときには、漠然と、子供向けの童話か何かかと思ったのだが、後になって、村上春樹の短編小説であると知った(改めて見直すと、図書館に返却する本が『スプートニクの恋人』であるなど、この作家の影がそこここにちらつく)。「かえるくん」が東京の地下に巣くう「みみずくん」と闘って、巨大地震を未然に防ぐ話なのだが、タイトルやストーリーとは裏腹に、陰鬱でおどろおどろしく、途中でニーチェが引用されるなど、完全に大人向けの寓話である。
 『輪るピングドラム』には、たびたび数字の「95」が提示されており、私は、オウム事件が起きた年を表すものと解釈していた。しかし、1995年には、1月に阪神大震災、3月に地下鉄サリン事件と、未曾有の大事件が立て続けに起きており、「95」がそのうちの一方だけを示すと考えるのは、いささか早計に過ぎたようだ。
 『村上春樹全作品 1990~2000 短編集II』(講談社)末尾の(村上自身が執筆した)「解題」によると、「かえるくん、東京を救う」を含む連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』の諸作は、いずれも1995年2月という「不安定な、そして不吉な月」に起きた出来事として、あえて三人称を用いて描かれたそうだ。連載中の副題「地震のあとで」(および、英訳された短編集のタイトル『after the quake』)は、こうした創作の背景をより明確に表している。
 村上は、すでに『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』という2つのノンフィクションでオウムを取り上げたが、それだけでは片手落ちだと感じたという。オウムと阪神大震災は、2つ一組で戦後50年の歴史に終止符を打つ「巨大な不吉な里程標」なのだ。どちらも、「我々の足下深くから」やってきた。地震は、地下のマグマ活動によって。オウム真理教は、人々の意識のアンダーグラウンドを把握し、組織化することによって。こうした問題意識の下で書かれた「かえるくん、東京を救う」は、象徴的でありながら生々しく、読む者に底知れぬ不安を抱かせる。
 この語り口は、そのまま『輪るピングドラム』にも当てはまる。“オウム以後”に炙り出された日本の不寛容が、あたかもマグマのように社会のアンダーグラウンドに蓄積されていったとき、いったい何が起きるのか? この作品が東日本大震災の年に発表されたのは、何とも象徴的である。

投稿 : 2018/04/05
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