「色づく世界の明日から(TVアニメ動画)」

総合得点
87.3
感想・評価
1131
棚に入れた
4824
ランキング
157
★★★★☆ 3.9 (1131)
物語
3.7
作画
4.2
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.7

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雀犬 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 2.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

Earth Color

P.A.WORKSの青春シリーズには今を生きる若者たちへのメッセージが必ず隠されている。

――あなたは今の自分が好きですか?

「色づく世界の明日から」はこの問いかけに
イエスと答えられない人のために作られた作品なのだと思った。


月白瞳美は魔法使いの末裔の17才の少女である。
彼女は幼いころに、ある理由で魔法が大嫌いになり同時に色を失った。
やがて他人に心を閉ざすようになり暗い青春を過ごすようになる。
彼女は祖母の琥珀の魔法によって60年前の世界に送られる。
2018年の若き日の琥珀と再会し、写真美術部の仲間と出会い、彼女の心は変容していく。

本作において「魔法」とは個人の持つひとつの能力にすぎない。
そして「色」とは自己肯定感を表現したものだ。
それが「色づく世界の明日から」の世界観を構築するレトリックである。

17才は自分に何ができるか、何が好きで何が嫌いなのか、
何が向いていて向いていないのか、すなわちアイデンティティーを探る季節といえる。
それを見失えば心はとても不安になり、マイナス思考に陥る。

ものを作る人、運ぶ人、教える人、売る人。
私達の社会は分業によって成り立ち、人それぞれが何らかの役割を背負って生きている。
だから社会に出れば「あなたには何ができるか?」という評価軸の上に置かれるし、
青年期に自分の才能を育てること、長所を伸ばすことはとても大切なことだ。

瞳美は唯翔の絵から金色のサカナが飛び出すところを目撃する。
唯翔は小学生のとき金色の魚の絵を描いて金賞を取り、
その絵を父親が褒めてくれたことがきっかけで絵を描くようになる。
しかし父親を亡くしてからは絵を描く理由が薄れ、人に見せたいとも思わなくなる。
金色のサカナは唯翔の持つ絵画の才能のメタファーである。
第6話で瞳美が唯翔の絵の中に入ったとき、
魚が荒涼とした世界で死に絶えそうになっていたのは
彼が絵画への情熱を失っていたからである。
しかし瞳美の「絵をまた見たい」という言葉で、金色のサカナは息を吹き返し、
絵を描きたいという意欲を復活させる。

瞳美もまた自分の魔法は人を幸せにできるという実感を少しずつ得て、
これまで敬遠していた魔法と向き合い、家族の協力のもとに修行を始める。
自らの魔法能力を開花させていく過程と
色(=自己肯定感)を取り戻していくまでは同期している。

「色づく世界の明日から」は
モノクロの世界で泣いていた少女が色彩を取り戻すまでの物語であり、
目を逸らしがちだった少女が笑顔で世界を見つめるまでの物語である。

同じ色であっても意識の中で感じるクオリアはそれぞれ異なる。
もしこの世界が美しいと思えないのであれば、それは自己肯定感を持てないからだろう。
自己肯定感を持つには、自分が人のために役立つ能力を持っているという実感が必要。
心からそう思えたのなら、きっと世界の光は
自分の心を通してプリズムのように七色の輝きを見せる。
それが本作の作り手のメッセージではないだろうか。

見終えた後、良質の文学を読み終えたような感覚は「ああP.A.WORKSのアニメだな」と思う。
思春期のアイデンティティー 獲得を美しい美術と音楽で表現した、実にP.A.WORKSらしい作品。

投稿 : 2019/01/03
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サンキュー:

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