「新世界より(TVアニメ動画)」

総合得点
87.4
感想・評価
3340
棚に入れた
15913
ランキング
149
★★★★☆ 3.9 (3340)
物語
4.2
作画
3.6
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

fuushin さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

少しの勇気と、ある限りの親愛を。

原作は未読、今回が初見です。
キャッチさんのご紹介です。
なかなかに骨がありました。

主人公の早季の演じ語りのすべてが、"問いかけ" になっています。
その問いがこの上なく重い。重すぎます。

重さの中に、二つの意図を感じました。

一つめは、業苦に抗うことの叶わない "哀哭" と、未来への "絶望" です。
二つめは、最高知に想いを寄せる人びとへの "期待" と、現代への "希望" です。

私は、この "四つの言葉" を如何にレビューに語るべきか、思いを淀ませています。
早季の行動に寄り添うことは、彼女の想いの糸を縒り、絆を紡ぐことに向き合うことなのに。

ああ、想像力が全く足りていないなあ・・・。



そこで、ナウシカに登壇してもらって、彼女の世界観を頼りに思いを巡らせてみたいと思います。

2人とも、今から1000年後に生きるリーダーです。
遠い昔の大過の責めを背負い、か細い平和に心を曇らせています。

伝説の火の七日間と、ミノシロモドキの語る核戦争。
それは、神の啓示でも何でもなく、人間が引き起こしたもの。
だからこそ、為された事実を受け入れ、肯定する2人です。
私も等身大の人間として、2人の世界を見る目線に合わせてみました。


ナウシカやクシャナらは、地球再建のためのプログラムの渦中にあり、浄化と再生に組み込まれた "穢れたパーツ" でした。
しかし、彼女らの "血統" には、過去からの柵(しがらみ)は内在しておらず、"思索" はそれに縛られるものではありませんでした。

彼女らの導(しるべ)は、古い予言にある "青き衣の者" の出現。
昇る朝日と、金色に輝く野に、新世界への限りない友愛が象徴されています。
それゆえに、未来を切り開かんとする清明の風を馥郁(ふくいく)と感じさせるものでした。



早季は180度違います。

彼女らは、地域の安定のため、念動力を武器にして、排斥と支配の仕組みを自ら創り上げてきた人々でした。
当然、彼女らの "血統" には、選民思想が正当化され、家族の "処分" さえも受忍してきた悪夢を内包しています。

彼女らの寄る辺は、注連縄に囲まれた結界と、胡乱な不文律。
遠き山に落日するさまは、浮き上がる闇に紛れ込む憂いを印象づけます。
それゆえに、呪力に妄信する特異性を看過するなら、本質を見落とすことになるでしょう。



ナウシカと言えば、トルメキアはもとより、腐海や王蟲らとさえ、共生の道を選びます。
早季と言えば、バケネズミはもとより、人間でさえ、粛清の枠組みの対象とするのです。


両者の違いは、リーダーによる社会規範の作り方です。

子どもが(地球上のあらゆる生物が)健やかで安寧であることは、社会環境の多様性に、健全性があることを示すバロメーターです。

しかるに早季の選択をみると、おとな社会の歪みと偏りはますます鮮明となり、圧倒的少数派でもある異能集団の絶対的優位性を確固とさせます。

同時に、数多の弱者への問答無用の服従と、業魔・悪鬼と呼ばしめる、かつての友人知人、あるいは家族や身内の抹殺を遂行させるでしょう。

彼女の目指すコミュニティーのありようは、人間の内面性に宿る "自己欺瞞" を固着させ、さらに自縄自縛に陥るだろうことを推測させます。



最も愚かで、馬鹿げているのが、人が人間に為す恣意的で排他的な差別の思想であり、その最たるものが、無責任なポピュリズムと国のもつエゴイズムです。

それは、かつての大戦で荒れ狂った思想であり、それゆえに6000万人もの軍人と民間人が命を落としているのです。
この得体のしれない空気感の再発に、発火点を隠すようであれば、とても恐ろしいことです。



寓話的にそれを示唆するのが、終幕の早季の行動です。

つまるところ、早季は、{netabare} 掟を絶対のものとして、表向きはリーダーたる立場を執っていながら、ひそかに手ずから "私刑" を執り行なうことで自己の正義を正当化してしまったのです。

それでありながら、現実に対する責任を放棄することで、リーダーたるアイデンティティーからも目を背け、泥を塗り、蓋をしたのです。

彼女の姿に、どす黒く呻(うめ)く二律背反性が垣間見えます。

弱者を慈しみながら、強者の倫理に埋没する早季。

自己欺瞞を呑み込み、自らに免罪符を与える早季。



彼女の行為は、何に対する反駁だったのでしょう。

たぶん、かくある新世界そのものへの反発なのでしょう。
たぶん、身の内に宿っている異質なDNAへの慚愧なのでしょう。
たぶん、人類知を否定し、歪んだ生命環を生みだした核戦争への憤恨なのでしょう。



しかし、彼女の現実は、わが子の未来にも、それを貫徹するのでしょうか。

母と子という不即不離のアイデンティティーが一つの現実なら、
リーダーという負託されたステータスもまた、もう一つの現実。

二つの難しい選択の中で、彼女は何に向き合い、何を考え、どう自覚していくのでしょう。

物語は、そこまでは早季に、演じ語りはさせていません。
想像する核心を、私たちに委ねようとしているのでしょうか。
{/netabare}



ナウシカと早季。

2人の時間軸は、今を初めて同じ延長線上にありながら、わずかにズレたパラレルワールドを見せています。
ですが、すでに私たちは、極めてリアリティーを帯びた分厚いシナリオを手にしているのかもしれません。



そのシナリオに、誰が書き込んだのでしょうか。

「偽りの神に抗え。」

「想像力こそが、すべてを変える。」と。


神など、何処にもいない。
いるのは人間です。

なれば、" 人類知をこそ、疑え " 。

1000年先まで見通して " 業苦を作りだす道筋に、抗え " 。



2人のリーダーが見せる "共生する世界" と "排斥する世界" 。

生きづらさの相似性にあって、全く相反する人間性の資質を、どれほどに深く、広く、緻密に想像すれば、その望ましさに向かって、今日の一歩を踏み出せるのでしょう。

あなたは、傍観者のまま、地図も羅針盤も見ないのでしょうか。
あるいは、どちらかの航路に、主体性の舵を切るのでしょうか。

新世界に住まう2人のリーダーからの重すぎるメッセージです。

本作に出会うことに、何かのご縁があるのかもしれませんね。



長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本作が、皆さまに愛されますように。

投稿 : 2019/05/15
閲覧 : 353
サンキュー:

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