「どろろ(TVアニメ動画)」

総合得点
80.1
感想・評価
528
棚に入れた
2172
ランキング
461
★★★★☆ 3.8 (528)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.7
キャラ
3.8

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fuushin さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

人間賛歌

オリジナルをリアタイ視聴していましたので、放送開始の告知に、小躍りするやら、ホッとするやらでした。

ようやく視聴を終えましたので、ちびっと記し残しておきたいと思います。

オリジナルの世代ですと、"本作"、"ゲゲゲの鬼太郎"、"妖怪人間ベム" の3作品が、心を捉えて離さない、まさに夢中になって(苦悶しながら)視聴した "関連作品" になっているのではないかと思います。

なかでも "鬼太郎" は、書物でしか知りえなかった妖怪や、見たこともない八百万の神々を、目の前に生き生きと躍動する存在として十二分に魅せてくれた秀作でした。
もちろん、当時のことですから画はモノクロでしたし、サウンドもモノラルスピーカーでした。
それでも、作品から得た知識と体験は、町の辻に、海山川野に、たそがれや闇夜に、たちまちに霊妙にして怪奇なる主人公たちを出現させました。
学校で語られ、塾で話され、祖父母との会話でさえ楽し怖しの時間になりました。
まさに、当時の大ベストセラーの "化物語" だったのです。

"妖怪人間ベム" は、まだ目新しい洋物の設定のお話で、名言「早く人間になりたい」に集約されます。
人造人間なので、人間に憧れるわけなのですが、その異形の姿から人間に疎まれます。
同類?の悪霊からも異分子と叩かれ、抹消されるべき邪魔者扱いをされるのです。
ベラ、ベロは、同時期に造られた女性型、子ども型の人造人間で、3人は家族でも何でもないのですが、家族の一つの形を取りながら、お互いに助け合う姿を見せます。
その作品性には、少数者差別、異文化排除、希望への暴力が、過激なまでに描かれています。
3人は、何度も涙を流します。流して流して悔しくて、吠えるのです。
「早く、普通の人間と同じように、普通の暮らしをしたい」と。


オリジナルの "どろろ" は、藩の体制の維持、村民の暮らしの向上という幸せの追求のために、人身御供にされた百鬼丸の物語です。
同時に、どろろという一人の少女が、ありとあらゆる知恵と行動で、百鬼丸でさえ使い倒して、生き抜くためにたくましく行動する姿が描かれました。
シナリオは、いくつかの媒体で分かれて存在しており、それぞれに別々の味わいを出しています。
いずれの作品にも深いメッセージが込められており、私はそこを高く評価しています。


さて、今回、カラー化されるにあたり、故手塚氏の遺志がどのように描かれるのか、私は興味津々でした。
結論から言えば、1期の出来上がりは、率直に素晴らしいものだと思いました。
改めて確認できたことですが、どろろの作品性の核は、"人間賛歌" だと思っています。
これは、ゲゲゲの鬼太郎や妖怪人間ベムには見つけられない要素で、故手塚氏ならではの時代性を超えた "慧眼" が確かに本作にも引き継がれたものであると感じています。


本作を観るにつけ、近しいことばに "リハビリテーション" を思い浮かべます。
語源はラテン語で、re(再び) + habilis(適した) です。
「再び適した状態になること」、「本来あるべき状態への回復」の意味があり、この他にも、① 権利の回復、② 犯罪者の社会復帰、③ コミュニティへの適応、④ 今できる範囲での能力の受容、⑤ 役立てる働き方の再発見、⑥ 生きること自体の肯定感の確認、などの広範な意味を持っています。

つまり、本作品の通底にあるのは、自分の意に反して障害を負ったり、女性であること、子どもであること、高齢であることが、時代ごとの構成要因から低く見なされたり、軽く扱われたりすることなく、合理的配慮が必要であること。そして、今現在において、それが機能していないこと。しかも、さらに悪化しつつある状況であることを直視し、イジメ、差別、虐待、子殺しなど、ありとあらゆる四苦八苦が跋扈する地獄の様相に突入しつつある世相をありやかに映し返しているように思えます。

ましてや、ひとり一人が主体的に生きることが難しくあるような社会構造にこそ、重大な瑕疵(かし=法律上の欠点)があることを、鋭く指摘しているものとして受け止めています。
具体的に言えば、人類が発祥して以来の、相も変らぬ "力の論理" が、法律の中に根強く残されており、"悪法もまた法" としての体(てい)で、"知" という風采をとって、図々しくのさばっていることへの批判と警鐘です。

このままの法理と力で、雁字搦めのままに進んでいけば、やがて世界情勢は息も絶え絶えになり、どのような形で軋みが亀裂を生み出すか分かりません。
"鶴は千年、亀は万年" と申します。
長寿はめでたく、誉であることの喩えではありますが、人間賛歌の方向性が、吊りあわねば千年、噛み合わねば万年にも渡って、地球規模で災いが起きかねません。


かつてオリジナルが途中回で打ち切られたことは、その作品性が時代に合わなかったのではなく、時代が作品のメッセージを受け止めきれず、排除に動いたものと理解しています。
幸いにして、今回のカラー化で、そのメッセージはいかんなく発揮されており、映像美、音楽性、声優の演技などと相まって、極めて上質な作品となっており、今般の娯楽性をアピールする作品とは一線を画する稀有な立ち位置を得るものであると感じています。


昨今においては、人種、国家、宗教を冠した社会問題が溢れかえり、貧困、差別、暴力といった事象が後を絶ちません。
日本は、150年前に江戸城を無血開城した知恵と勇気があり、廃藩置県を成し遂げた行動力を持ったお国柄です。
もちろん、強烈な外圧があっての必死の学問と、内圧を撃ち抜くための決死の行動と犠牲があったのも事実です。
その尊いノウハウとキャリアを世界に活かし、確かなリーダーシップの旗を振る気概を、ひとり一人の魂に宿らせておくことも必定でしょう。


今後、2期において、どのようなメッセージが発信されるか、とても興味深い思いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作が、皆さまに愛されますように。

投稿 : 2019/04/03
閲覧 : 291
サンキュー:

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