「紅の豚(アニメ映画)」

総合得点
86.5
感想・評価
1212
棚に入れた
8040
ランキング
192
★★★★☆ 4.0 (1212)
物語
4.1
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
4.1

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ネタバレ

Progress さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

紅の豚 レビュー

一言では言えないストーリー。飛行機乗りの賞金稼ぎで豚のポルコ・ロッソを主人公とした、空戦ロマンとノスタルジー、自由で芯のある大人達の生きざまを描いた作品。

いつも見ている作品よりも、テーマを決めづらいと感じました。恐らく鈴木プロデューサーが決めたであろうキャッチコピー「カッコイイとは、こういうことさ。」という言葉に従って、カッコイイ大人という視点で書くのでもいいのですが、それはそれでつまらないし、テーマなしで書こうと思います。


まず、ストーリーのあらすじを引用させてもらいます。
こちらはamazonの作品紹介。というかストーリー紹介(旧版)
<ストーリー>
イタリア・アドリア海で飛行艇に熱中する、4人の少年とひとりの少女がいた。彼らはともに大空をめざした。やがて少年たちは戦火の中に、ひとりは青い海に、もうひとりは荒野の果てに、それぞれ手の届かないはるか彼方へと消えていった。そして残されたのは少女と、ひとりの少年。その少年も自らに魔法をかけて、人間であることをやめた・・・。

最新版のストーリー紹介はこちら。
<ストーリー>
1920年代末のアドリア海は、ファシズムの足音と新たな戦争の予感におびえていた。それは決して「古き良き時代」などではなかった。食い詰めた飛行機乗り達は空賊となって暴れまわり、彼らを相手に賞金稼ぎたちは功を競った。その中に、賞金稼ぎとして最も名を上げていた一匹の豚、ポルコ・ロッソ(紅の豚)がいた。イタリア空軍のエース・パイロットだった彼は、自らに魔法をかけて豚の姿になってしまったのだ。ポルコをとりまく女性たち、手に汗握る空賊との戦い、アメリカからやってきた宿命のライバル、そして全編を彩る空を飛ぶロマン。誇りと金と女のために、命を賭けた戦いが今幕を開ける。

私の持っているDVDはおそらく最新版で、上記amazonの作品紹介とは微妙に違うのですが、amazonのストーリー紹介はおそらくDVDの裏表紙の作品紹介を改変したものだろうと、ところどころのフレーズから伝わってきます。

旧版のストーリー紹介は、前日譚のような文章になっています。4人の少年と少女というお話を過去において、この映画の時間において過去の時間に思いをはせるノスタルジーな作品にもなっています。

しかし、昔の私のように、ポルコがなぜ豚になってしまったのか?などという疑問に囚われる魅力を旧版のストーリー紹介には秘められています。最新版のような、「全編を彩る空を飛ぶロマン」「命を掛けた戦い」などといった煽り文句を持ったほうが、何を楽しめばいいのかを、この文章を書いた人の視点を介することによって、多数にわかりやすくかみ砕かれた文章も悪くはないと思っています。


さて、どうでもいいストーリー紹介文章の紹介はこれくらいにして、内容に入っていきましょうか。

まずは登場人物たちの生き様について考えていこうと思います。紅の豚、ポルコ・ロッソは、空賊相手に賞金稼ぎをする凄腕の飛行機乗り。性格は、表面上はスケベで、頑固者で、豚。
どうでもいいですが、周囲がどうやったらポルコが豚じゃなくなるのか、という事を考えていますが、ラストシーンでカーチスが「お前その顔」という言葉を聞いてすぐ顔を隠したあたり、ポルコの本当の顔を見たと思われるシーンからも、ポルコは豚から戻る方法を知っているのではないでしょうか。
それと、作品紹介にもある通り、自ら豚になる魔法をかけてしまったなどというネタバレを食らっており、ポルコにとって豚になる選択と、豚をやめる選択、それはやろうと思えばいつでもできるという問題なのかもしれません。
フィオがキスしたからポルコは本当の顔を取り戻したという説を聞いたことがありますが、ポルコなぜ豚変身論なぜ人間に戻る論は魅力的なテーマかもしれませんが、よしておこうかなと思います。
ただ、豚であることが彼の生き様に直結する話であり、彼が豚でなくなった時、彼がどんな生き方をするのかは、私はそこまで推測して書く勇気はありません。

話をポルコの作品中の生き様に戻しましょう。彼のビジネスに対する姿勢を見ると、義があるか、金になるかなど、正義感とシビアさを持ち合わせています。フィオに対しては、エンジニアとして接するシーンもありつつも、一人の人間に昔話を語ってしまう一面や、異性としてキスされて赤面してしまうような照れ屋な部分ももっています。


ポルコはジーナに手を出さないのは、何故でしょう。
彼は、初めて少年の時にアドリアヌ号にジーナを乗せた際に、後ろに乗っていたジーナに好意を持っていたことが描写されています。
ジーナ自身も、次にポルコが昼間にここに来たら、思いを告げようと思うと言っています。作品の時間中ではおそらく相思相愛なのです。
しかし、なぜジーナはほかの男と3回結婚しているのか、そこを描かないのが、やはり人物の深みになっています。女性の心が移り行く物であり、そんなエゴの上に成り立つポルコとの恋愛、そこに、純粋とは別の深さのある恋愛物としての印象があるのだと思います。
そして、ポルコがジーナに少年時代からずっと手を出さない理由は何でしょう。、ジーナの婚約相手の一人目は4人の少年の中の一人であり、3人目の飛行機乗りともポルコは知り合いでした。
ポルコは好きな人が婚約して失ってを繰り返すのをずっと見てきました。友人が婚約相手だったこともあり、失ったばかりのジーナにすぐに求愛するような失礼な男でもないし、彼の照れ屋という要素も、ジーナに告白できなかった大きな理由なのかもしれません。

さて、ポルコ論は、まだまだ見返せばもっといろいろ出てくるかもしれませんが、この辺で。

ジーナについて、先ほど、ポルコとかかわることで見えてくるジーナという人物は話しましたが、もう少し。
彼女はアドリア海の飛行機乗りの間では有名な美人で歌姫であり、多くの男たちが惚れていました。
ジーナ自身は、3回も結婚をしており、それが彼女の深みにつながっています。4人の少年の中から、1回目の結婚相手がいて、ポルコは選ばれなかった。その後2回の結婚をして、3回目の結婚相手の行方が分かった後、ポルコに思いを伝えたいと、ポルコに恋をしていることがわかります。一途という純粋とは真逆に非常に恋が多く、ポルコへの恋心も、いつから抱いていたのかという疑問も沸く、魅力的な人物です。
ポルコに対して思いを伝えようと機を待ちつつも、ポルコが夜にしかやってこないことを理由に、思いを伝えないジーナ。言葉を介さないコミュニケーションがそこにはあり、ポルコがジーナを思いやっている事、ジーナが昼に来ないポルコにやきもきしつつも、ポルコが心の準備ができるまで待ち続ける、その関係性に謎の魅力を感じてしまうのです。

ジーナとポルコの関係との対比がポルコとフィオの関係です。
フィオは、自分の思う事をかなりストレートに打ち明けるタイプです。
悩んでいたと思う事や、ポルコが好きだという事も。お互いに思いやって未だに好きと言えていないジーナとポルコの関係とはまるで逆なのです。お互いの気持ちを思いやる、成熟した大人の恋愛を描くのと同時に、ストレートに感情をぶつけるフィオの恋愛を描くことで、二つの恋愛のコントラストが素晴らしく、大人でも子供にもモテちゃうポルコのカッコよさを描いているんだと思います。豚なのにというギャップも込めて。
ここで、なぜ豚に変身論ではなく、何故主人公が豚なんですか論に繋がってくるのかなと思います。
中年太りであったりとか、イケメンではなかったりとか、コンプレックスを人は何かしら抱えています。ですが、生き様によってこんなにカッコイイんだぜ、ポルコは豚でもカッコイイだろと、コンプレックスの象徴かつ、やはり生き様を強調して描くための、豚なのかもしれません。

まとめます。全編において空戦シーンの気持ちよさがあり、大人達のノスタルジーをもちつつ、フィオという存在によって青春を取り戻す男を描いた、大人の男に消えかけた空へのロマンと、ポルコのような生き様への憧れを望ませる作品でした。

投稿 : 2020/12/22
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