「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~(TVアニメ動画)」

総合得点
79.3
感想・評価
513
棚に入れた
2041
ランキング
497
★★★★☆ 3.6 (513)
物語
3.8
作画
3.4
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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oxPGx85958 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.6
物語 : 1.0 作画 : 3.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.0 キャラ : 2.0 状態:観終わった

完成度が高いが話が面白くない

追記

見ていて気になっていたことを思い出したので、追記しておきます。本作は現代日本から中世ヨーロッパ的な異世界に転生するという異世界転生アニメの典型的な枠組みにありますが、主人公が「本好き」で、本に関する知識を活用して立ち回るという仕掛けを使っていることもあって、現代日本と中世ヨーロッパ的異世界の間の文化面での違いについて若干意識的です。中世ヨーロッパ的なハイ・ファンタジーの世界なのに、登場人物たちがなぜか日本式のお風呂にしょっちゅう入る、みたいな世界観ではない、ということです。この点を強調するために、前世での社会習慣を引きずって、謝るときに「土下座」をしてしまうが、この世界にはそんな習慣はなかった、と反省するシーンが用意されていたりします。

私としてはその心意気やよし、なんだけれども、それ以前のところにある大問題は「言語」なんですね。本作では、主人公が転生した当初は、周囲の人間が喋る言葉を理解できなかったが、転生先の肉体の持ち主の記憶が入ってきて(!?)理解できるようになったという状況を反映して、作品中で日本語が話されるようになるという演出が行われています。つまり、作品中で実際に話されているのはその異国の言葉であり、アニメ作品として都合上、それが日本語に翻訳されている、という建て付けになっています。

しかし、実際に作品を見ていると、もともと日本語であるとしか思えないセリフやダイアローグがけっこう出てきます。エルフが日本式の露天風呂に入ってくつろぐ、みたいなところまで開き直っている作品であれば気にならないような点が、本作では気になってしまうわけです。

この問題が象徴的なんだけど、本作は「本」という題材を軸に据えている割には、物語世界の設定全般に関する考察・考証がヌルいんですね。

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「小説家になろう」発の異世界転生ものということでなかなか手が出なかったが、お試しに見てみた第1話の丁寧な作りに感動し、そのままシーズン1の最後まで見通しました。絵、音、演技、演出などのいろんな面で、本作はアニメとしての完成度が高く、見ていて心地よかったです。

しかし、最後まで見ておいてなんですが、語られる物語は面白くありませんでした。結局のところ、本作は私がこれまで見てきた異世界転生ものの多くに共通する、主人公の心情や行動の動機がわからないという問題を抱えています。そして、物語や世界の枠組みが重厚に描かれている分、これが致命的な欠陥になっていると感じます。

主人公は(おそらく現代日本で)司書としての就職が決まった大学生が、中世ヨーロッパ風の世界に幼女として転生したわけですが、その心情や行動が「大人」のそれに見えないのに加えて、司書にまでなろうとする本好きという側面にまったく説得力がありませんでした。転生時に心も体も幼女のそれになったが、本好きという要素がぼんやりと残った、というような設定だったらまだ説得力を持たせられたかもしれないが、本作は前世での(アナクロニスティックな)テクノロジーについての知識を使って「俺TUEEEE」をするという話なので、そのような逃げ方ができません。

せめて、「司書を目指していた大学生」ではなく、「世の中のさまざまな事柄のうち、製本技術だけに強い関心があった中学生」みたいな設定にしていれば、まだ何とかなっていたかも。本作で描かれる主人公はそれぐらいに無知でナイーブです。

本好きという特異的な要素を度外視したとしても、「大人がこどもに転生する」という物語一般の問題として、「成長の物語」に制約が出てくるという問題があって、本作はこの点でもうまく処理できていたとは言いがたいと感じました。前世での記憶が残っている以上、こどもである主人公の、「こどもとしての成長物語」は機能しないわけです。

「こども時代を再体験する物語」は機能しえたでしょう。たとえば、前世ではこうだったが、こども時代の再体験を通して新しい何かを学び、このように変わった、みたいな。しかし本作では、主人公が前世でどんな人だったかという手がかりもほとんど与えられないため、現世でのどんな体験が本人にとって新しいものなのか、それがどんな意味を持ったのかもわからないままです。

このように、根本的な部分で致命的な問題を抱えている物語なのにも関わらず、楽しく見られたのは凄いことです。監督の本郷みつるは、似た印象を受けた『ワールドトリガー』にシリーズディレクターとしてクレジットされています。『ワールドトリガー』も、本質的には退屈な話がゆっくりしたペースで展開しているのに、なぜか気持ちよく見続けられる作品でした。

諸星すみれによるオープニング曲、中島愛によるエンディング曲が、どちらも女性ヴォーカル曲愛好家としてはコレクションに加えたくなるほど気に入りました。

投稿 : 2020/05/17
閲覧 : 538
サンキュー:

5

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