「さよならの朝に約束の花をかざろう(アニメ映画)」

総合得点
88.9
感想・評価
651
棚に入れた
3478
ランキング
93
★★★★★ 4.2 (651)
物語
4.2
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

Fanatic さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

散文的で焦点がぼやけている印象

いかにもなタイトルに、「あの花」「ここさけ」などで脚本を手がけた岡田麿里さんの初監督作品……となれば、間違いなく泣かせにくるのだろうと、ティッシュの箱をスタンバイして視聴開始。

冒頭からイオルフの里の美しい風景や、アニメではもっとも難しいと言われる水の表現の完成度に息を呑みます。
ヒビオルの塔で、マキアがレナト(ドラゴンのような生物)に追われるシーンも迫力抜群!劇場で観たらかなりの迫力だったでしょう。

王宮の石床の質感、奥行きを感じさせるスケール感たっぷりのパレード風景、画面の端まで意思を持って動く酒場の客たち。
作画には定評のあるP.A.WORKSですからそれなりの物を見せてくれるだろうとは思っていましたが、美術に関しては予想以上のクオリティで、思わず見惚れてしまいます。

で、肝心の内容はと言うと……。
ん? あれ? なかなか泣けないぞ?

十代半ばで成長が止まり、悠久の時を生きるイオルフの少女マキアが、人間の赤ん坊(エリアル)を拾い、育てていくというストーリー。
幼いエリアルを、母親として一生懸命育てようと頑張るマキア健気さに、思わずこちらも応援したくなります。
赤ちゃんから幼少期にかけて、エリアルもとても可愛らしく描けていて、この辺りまでは先の展開にワクワクしながら観ていました。

{netabare}しかし、成長するにつれてエリアルは、一向に外見の変わらないマキアが自分とは別の種族であると感付きます。
マキアとほぼ同年代にまで育った時点では、完全に自分とマキアの境遇を理解し、マキアへの接し方に戸惑いを見せるように。

そこまでの間、二人の間で様々な出来事や葛藤があったのだろうと想像はできますが、幼齢期から少年期へ至る、恐らく十年程度の描写が丸々カットされているため、かなり脳内補完が必要です。
ほんの数分前までは、目を輝かせながら「早く大きくなってお母さんを守りたい」と語っていたエリアルとあまりに落差が激しすぎて、頭を切り替えるのに苦労しました。

やがて、エリアルはマキアの元を離れて、イオルフの里を襲ったメザーテ軍に入隊します。
あれだけマキアを慕っていたはずのエリアルが、種族に違いに戸惑い、マキアの元を離れる決断を下したことには、どうも納得がいきませんでした。
それまでに培ってきた絆って、所詮そんなものだったのか?みたいな。

マキアから離れる決断に至るまで紆余曲折はあったのだろうと理解はできますが、その過程が一切描かれていないので、「なぜこうなった!?」と、モヤモヤしながら視聴を続けることに。
キャラへの感情移入しながら観るような物語ではなく、一歩引いたところから、淡々とマキアの叙事詩を見せられているような感覚でラストまで辿り着きました。{/netabare}

最後に、年老いたエリアルとマキアの再会のシーンで私が感じたのは、だいぶスケールは矮小化しますが、なんとなく飼い主とペットの関係に似ているな……と。

残念ながら私は「死ぬと可哀想だから」というストレート過ぎる理由で、子供の頃から大きなペットは飼わせてもらえませんでした。
ただ、子犬や子猫の頃から飼い始めたペットが、いずれ主人よりも年老いて亡くなっていく構図は、この作品のイオルフと人間の関係に似ているような気がします。

エリアルはペットじゃね――!と怒る方もいらっしゃるかもですが、飼われている方の様子を見ていると、まさに家族に対するのと同じような愛情を注いでらっしゃる方も少なくないですし、ペットを亡くした時の喪失感も相当なもののようです。

人間と動物という構図で世の中には数多くの物語がありますが、そういった物語の多くは、人間と動物の交流パートをじっくりと描き、また、動物側からの視点も多く取り入れて感情移入させながら、クライマックスの感動シーンに繋げる、という構成がテンプレートだと思います。

ところが本作の場合、マキアとエリアルの交流は幼少時代のものだけで終わり、視点もほとんどマキア側からの描写となっています。
感情移入しながら観れたのは序盤だけで、中盤以降は悠久の時を生きるイオルフの少女の、人間界での数十年の生活を俯瞰的に眺めるような、ドキュメンタリー作品のような心持ちで鑑賞することになりました。

なんとなく、癒し系の良い話っぽい雰囲気は漂っているのですが、親子愛を見せたいのか、もっと普遍的な愛の叙述詩を見せたいのか、或いは、神のような視点から人間を眺めた抒情詩のようなものを作りたかったのか……どこか散文的で、焦点がぼやけています。

最後に「長老様、私はエリアルを愛してよかったと思っています。愛してよかったと……」とマキアのモノローグで締めくくられるわけですが、なぜ愛してよかったと思えたのか、その理由が私にはよく分かりませんでした。

こういう作品は、右脳で感じるタイプの人はいいかもしれませんが、私のように左脳で観るタイプの人間にはあまり響かないのかもしれません。

投稿 : 2020/11/17
閲覧 : 307
サンキュー:

11

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