「竜とそばかすの姫(アニメ映画)」

総合得点
68.9
感想・評価
87
棚に入れた
272
ランキング
1585
★★★★☆ 3.7 (87)
物語
3.1
作画
4.2
声優
3.4
音楽
4.3
キャラ
3.4

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

哀しみのなかの声。心をささえる歌。

本作は、いつもの見えやすい "家族愛" というよりも、なかなか見えにくい {netabare}"人間愛への信頼"{/netabare} にググっと寄せて描かれています。

ただ、鑑賞するには、とてつもなく苦々しく、そして若々しい感性が必要。

そこに立てたなら、あとはもう、どんなふうでもいいです。

わたしは、嬉し恥ずかしの気分で楽しみました。
 

~    ~    ~


気をつけておきたいのは、過去作品への評価に拘りすぎて、バイアスをかけて鑑賞してしまう "勿体なさ" です。

そして、なおそう思えるのは、長いコロナ禍で、多くの体験を失ってしまった、特に子どもたちの心情にシンクロする大人でありたいと思います。

好転する兆しが見えにくい環境下で、大人の心身も十分に傷ついています。
でも、ささやかな願いさえも叶わなかった子どもたちの心だって大事にしてあげたい。

本作が、そのケアに寄与するのなら素晴らしいことだと感じました。


~    ~    ~


クライマックスシーンには、身のほどもなく震えました。

まるで衆生済度を発願する慈母の仏性に触れたかのようでした。

あたかもそれは、愛による救済を願うマリアの姿のようでもありました。


~    ~    ~


一つだけ申し上げるなら、このひと夏のオリンピアンは、日本のすべての国民だということです。

身のうちの、胸の奥の "愛の共鳴と、歓びのともしび" 。

それは、オリンポスの神々の誉れに適う "メダリストたる資質" なのです。


おまけ。
{netabare}
本作は、すずの心情を捉えることが重要です。

特に、次のふたつの言葉の動機や背景の掘り下げが、かなり大事です。

「あなたは、誰?」

「あなたに、逢いたい。」

どうぞ、すずに寄り添うベルのように、思いを深く巡らせてみてください。
{/netabare}


おまけ2。
{netabare}
クライマックスシーンで、アンベイル(*1)されたすずが、シンボライズされた三日月に、表情をふと変える場面があります。
*1、現実の姿をUの世界に描画すること。

すずの心的世界は、10年以上にわたって、ひとつの思いに憑りつかれ、縛られ、閉ざされています。
「お母さんは、なぜ赤の他人の女の子を選んだのか。どうして私は独りぼっちなのか。」
お父さん、幼馴染の忍くんやヒロちゃん。誰にも明かせない深い胸の疼きです。

あの日、仁淀川の清流は一変して、ささやかな未来を根こそぎ奪い取る。
涙を涸らせ、喉を掠らせ、足元の橋は心もとなくて、青春に謳う時を虚ろに流していく。
誰とも知らぬネット市民の声は、日夜に濁流を注ぎ込み、すずを無常感に溺れさせるのです。

すずにとって「独り」とはそういう意味なのです。
何度も自問し、何度も反駁しただろう先に、ひとつの気づきを得るのが、視線の先に輝いている三日月なのです。


「一人で生きてゆけると、あなたは言い放つけれど」と、ラブソング(すずはそう思っている?)に込める切ない想い。
彼女にとって、竜が「独り」でありつづけようとすることは、耐えがたい痛みを共有することです。

「ボクが耐えればいいことだから・・」と言う恵くんは、「助ける?、助ける!、助ける!?」とすずに怒号を浴びせます。
それは、かつて濁流が分かつ先に、ひとり残された女の子の「助けて!」の叫喚にもつながります。


モラルジレンマ。

現実世界の常識、価値観、世論、多数意見、流行りのムーブメント・・・。

その同一性はヴァーチャル世界ではリアル以上に牙を剝く。

表向きは清らかな流れを見せながら、勝手一方に濁流・激流に狂奔し、一気に炎上させる非情と無情こそ、正義面の下に隠された正体。

それに乗じて衆目を集め、集客と利益、快楽と名声を追求するのは、個人の欲心やスポンサー企業の思惑にも通じるものでしょう。

ネット情報リテラシーは、情報を自己の都合や目的に適合するように使用・活用できる能力のことです。(Wikipediaより一部加工)

経済力、資金力のある側にとっては、意図的に演出できるもの、印象を操作できるもの、さも本当のように価値づけられるものです。

でも、その場その時だけの "ノリの軽さ" 、モラル破壊の "浅ましさ" 、普遍的な価値追及の "空々しさ" も、氾濫し席巻しています。

いい加減、そんなエゴに辟易としています。


それでもなお、現実の歪みは、厳然として立ちふさがっています。
懼れながら身を削り、震えながら心を焼いて、日々を暮らしている人たちは幾万人といます。

そんな彼ら彼女らに「竜とそばかすの姫」で細田さんが伝えたいメッセージは何でしょうか。

すずは、優しさと強さを体現するキャラクターです。
その名は、涼やかで、清らかで、遠くまで響く心のありようを表わしています。
その振る舞いは、情愛に満ちたお母さんの意志にたどり着き、自己の主体性を慄然と体現するありさまを示しています。


"U" は、底なしに拡大し続ける仮想空間の "海" 。

"三日月" は、ネットの海に漂い浮かぶ "救いの舟" 。

"シロナガスクジラ" は、名もなき人々の想いを強く押しあげる "潮のうねり" 。

・・・そんなくみ取りかたなどが、できようものでしょうか?
{/netabare}

投稿 : 2021/09/22
閲覧 : 137
サンキュー:

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