「結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第2章 「たましい」(アニメ映画)」

総合得点
71.0
感想・評価
75
棚に入れた
573
ランキング
1396
★★★★☆ 3.9 (75)
物語
3.9
作画
3.8
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
4.0

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

まるでジェットコースターだぜ!

「勇者である」シリーズの強みである日常と非日常のコントラストは、本作で最大の振幅を見せてくれる。前半は小学生らしい純粋さとバイタリティに溢れた日常。そして後半は……

【ココが面白い:束の間の休息、はっちゃけるわっしー】
バーテックス撃退のため、道場で戦闘訓練に励む3人の小学生勇者たち。きっと放課後の時間を使っているのだろう、普通の小学生とはかけ離れたルーティンに哀しさも感じる。
そんなある日、彼女らを監督する教師・安芸は次の任務として「訓練を休み、休息をとること」を言い渡す。短い間だが彼女らが普通の小学生に戻れるのである。
ここからが本当に面白い。劇場でも笑いを堪えきれなかった。
{netabare}何せ真面目で頑固な主人公である筈の鷲尾須美が即堕ち2コマ風に音楽に乗り出すわ、銀のおめかしに鼻血を吹き出し一眼レフを連写するわ、国防仮面という謎のヒーローに扮して新入生を護国思想(というより右傾思想)に染め上げようとするわと暴れ放題。第1章からは想像もつかない程の変貌ぶりは「キャラ崩壊なのでは?」と怪訝に思う人もいるかも知れないが、その変化は親友となった乃木園子や三ノ輪銀の前で初めて見せるものなのだから全然納得がいく。カチカチだった気質が柔らかく解された“良い変化”としか言いようがない。
その後の遠足のシーンも非常に良い。やや大きな公園という特別感に欠ける場所でも全力で楽しむ小学生たち。その中で運動神経のピカイチな銀やマイペースな園子が一際輝く。3人の微笑ましい姿がバランス良く写し出され、こちらの父性を刺激してくれる。
他にもネタは沢山あり、およそ30分強は笑いと癒しにどっぷりと浸かされる。 {/netabare}

【そしてココがすごい!:三ノ輪銀vs3体のバーテックス】
{netabare}夢のような日常は突如として終わりを迎え、バーテックスという非日常がノシをつけてやって来る。本作はたった一度の襲来だがキャンサー、スコーピオン、サジタリウスの3体が同時出現する厳しい闘いだ。3VS3でも小学生と怪獣の体格差が明らかに不公平である。
しかも最初は2体にみせかけるという奇策も講じられ、対応しきれない勇者側から鷲尾須美と乃木園子が重傷を負ってしまう。3分の2の壊滅。敗色濃厚である。
「動けるのはあたし1人……ここは、怖くても頑張りどころだろ」
確かに勇者がバーテックスから逃げてしまえば神樹が破壊され、世界が滅んでしまう。勇者はその身体が動く限り、戦い続けなければならないのだ。例えそれが小学生でも……奴らに対抗できる装備がなくても……
「あたしに任せて須美と園子は休んどいて。またね」
ここで結城友奈の章でなぜ銀が登場しなかったのか、わかりたくなくてもわかってしまう。「またね」が永遠の別れの挨拶に聞こえてしまう。
気を喪った2人を尻目に銀は再び3体のバーテックスの前に立ち塞がった。
「ずいぶん前に進んでくれたけどなぁ……ここから先は、通さないっ!!」
神樹の根にデッドラインを引いて突撃する銀の表情に鳥肌が立つ。そこからのアクションシーンも壮絶だ。何度サジタリウスの矢に貫かれても、2人を戦闘不能にしたスコーピオンの尻尾に叩きつけられても、彼女は立ち上がり文字通り千切れそうな腕で両斧を振るう。
2人の親友のために──幼い弟を含む家族のために──みんなと過ごし、これからも続くだろう日常のために──
「させるもんか……絶対……させるもんか。絶対、帰るんだぁ…!! 守るんだぁ…!! 化け物には分からないだろ、この力!!  これこそが、人間様のぉぉぉっっっ気合いとぉぉぉっっっ!!! 根性とぉぉぉっっっ!!!」

「“たましい”ってやつよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!」


こうして、三ノ輪銀は3体のバーテックスを見事、撃退した。須美と園子が動けるまでに回復し戻ってきたとき、銀は樹海に佇んでいた。一抹の安堵。それは直ぐに砕かれる。
おびたたしい出血とはためく右袖……有るべき場所に右腕が無く、サジタリウスの矢で出来ただろう袖の穴が向こう側の景色を写す。
銀は死んだ。かの武蔵坊弁慶のように、敵を押し戻して進めはすれど退くことは決して赦されず、鎮花の儀で敵が追放されるのを見届けるまま──立ったまま。
劇場に須美と園子の泣き声が響き渡る中、私も俯いて涙を拭き、鼻を啜っていた。 {/netabare}

【総評】
「上げて落とす」。この単純な手法をここまで尖鋭化させたアニメは本作のみではないだろうか。日常は我々を最高点に上げるチェーンリフト、戦闘はそこから最下点に突き落とす滑走路のようであり、本作は全体を通してまさにジェットコースターのような構成だ。
{netabare}銀の戦死は目を背けたくなるほどの惨たらしさや悲しさもあるが、それらよりも“勇者”と名乗るものの誇らしさと格好良さが少しだけ勝っているのがニクらしい。それを目当てに何度でもこの悲しい物語を再生し、観ることができる。その都度、大橋の風鈴が鳴る度に再生時間も一旦止めてしまうのだが(笑)
花守ゆみりさんの熱演も素晴らしかった。現在となっては彼女の代表キャラは『ゆる△キャン』のなでしこだが、その数ヵ月前までは女子であり漢でもある三ノ輪銀だったことに異論は無い(ある人は観ろ)。本当にキャラ共々、途中退場が惜しまれる。
バーテックスは残り半数。しかし近接担当という大きな要を喪った勇者側に勝利はあるのか。前日譚とは言え、ここまでの描写では信じきれない部分もある。ただ1つ、鷲尾須美の章と結城友奈の章を繋ぐものに心当たりがが──いや、その続きは次章のレビューに持ち越そう。{/netabare}
1時間未満、話数にして1~2話程度の尺でしかないが、変身ヒロインモノとして笑いも泣きも用意してくれる最上級のエンターテイメント作品だ。前章『結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 ~ともだち~』と合わせて是非ともご覧いただきたい。

投稿 : 2021/08/27
閲覧 : 285
サンキュー:

3

結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第2章 「たましい」のレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第2章 「たましい」のレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

ナルユキが他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ