「怪物事変(TVアニメ動画)」

総合得点
73.9
感想・評価
306
棚に入れた
1104
ランキング
948
★★★★☆ 3.6 (306)
物語
3.7
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 2.5 状態:観終わった

薄味王道和風妖怪奇譚

例えば小・中学校の教師が担任となり、1クラスを1年間受け持ったとする。終わってみて、その教師がどんな子を強く印象に覚えるかどうか考えた時、やはりクラスの問題児よりも真面目だが目立たない優等生の方が(その時は手がかからなくて助かっていても)影が薄かったなと思うのではないだろうか。本作の評価は正にそれである。

【ココがつまらない:意外性の欠如】
そもそも作品の基本設定やキャッチコピーが“薄味”と言わざるを得ないだろう。『各地で妖怪(本作では怪物(けもの)と呼ぶ)たちが起こす怪事件を解決する、探偵事務所の大活劇』とあるが、別に某少年探偵の如く華麗な推理を魅せるわけでもこの作品でしか見られない独自設定があったりカリスマ的キャラクターがいるわけでもない。「妖怪」を題材とする作品は膨大な数と悠久の歴史があるわけだが、この作品は「妖怪以外にどんな特徴があるの?」と訊かれてしまうと答えづらいくらいに凡庸なのである。
とりわけ大きく欠けているのが「意外性」だ。登場人物は当然、妖怪やその人間のハーフとなる半妖が中心となり、各々の妖怪としての能力や特技を活かして事件に臨んだり敵と戦ったりするのだが、ここにこの作品のオリジナリティがまるで感じられない。
例えば蜘蛛(アラクネ)と人間のハーフである蓼丸識(たでまる しき)は当然の様に糸を使った『スパイダーマン』染みた戦いを、『雪男子(ゆきおのこ)』(雪女の男ver.)である晶(あきら)は『地獄先生ぬ~べ~』に出てくるゆきめの様に雪や氷で戦う────といった被り具合で、歴代の作品が常にちらついてしまうようなキャラクターしか出てこないのである。主人公に至っては「不死身」と「自己再生」で非常にゴリ押しが効くスペックとなっており、とりわけ展開の読み易さと地味な絵面に拍車をかけてしまっている。
確かにあらゆる物語の主人公は脱落すれば物語が終わってしまうが故に、例え生死を彷徨う事態に追い込まれても毎度、都合良く生存してしまうものだ。これを『主人公補正』と揶揄することも珍しくはない。しかし「主人公の個性」という大事な枠を取ってまで、確固たる「主人公が生存する理由」が欲しいかどうかとはまた別の話ではないだろうか。
主人公が過酷な戦いから毎度、生存する理由を単なる不死身で付けてしまったために、次の展開への発展性が弱い。死や痛みに無頓着な部分も、ちぎった頭を投げて再生することで相手の背後を取る技なども全て『亜人』などの先達が既に描写してしまっている。

【そしてココがひどい:妖怪バトルと言うよりも……】
なんとか良点を挙げるなら扱う事件・展開の「醜悪さ」となるだろうか。妖怪を題材とすれば自ずとホラー展開とは隣り合わせとなり、視聴者の恐怖が煽られ目を背けたくなる程の映像や演出がふんだんに使われる。
{netabare}しかしこの作品、やたらと「虫」が登場しており、どちらかと言えばそちらの生理的嫌悪に頼りがちなのが妖怪物として気になるところだ。
群生のダニの様な三尸蟲(さんしちゅう)に始まり、少し間を空ければ蚊の怪物である蚊婆(かのんば)3姉妹、そしてシキの母親を孕ませ続けて産み出された蜘蛛の半妖軍団が各エピソードの対戦相手となる。1クールのおよそ半分が妖怪というよりも虫だ。アニメとはいえ虫嫌いの人には耐え難い映像が続くのだが、それとホラーとしての恐怖を混同させているようで少し狡く感じる。{/netabare}
{netabare}蚊婆との戦いも対妖怪というよりは現実にいる「蚊」の習性を逆手に取って攻略するため、妖怪バトルとは言いづらい。
さらにそれが通用しなくなるピンチが描かれると主人公が『怪物の真の力』に覚醒するという、ジャンプ作品でも現在はやらなそうなご都合でなんとかしてしまい、趣に欠ける。{/netabare}

【総評】
決して悪い出来映えではなく、初見時は肯定的な評価をしていたのだが、改めて観直してみると妖怪物としてこれといった「強み」がない作品だ。
左手に地獄の鬼を封じた霊能力教師が日夜、学校の怪談や妖怪と対決する『地獄先生ぬ~べ~』、妖怪の総大将・ぬらりひょんの孫を主人公とし任侠物も織り交ぜた『ぬらりひょんの孫』、そして様々な超能力や妖怪能力で悪を挫き人と妖怪の共存の道を探す『ゲゲゲの鬼太郎』などの傑作・人気作も多いジャンルの中で只の不死身、只の怪力な半妖の主人公というのはどう取り繕ってもパンチが弱い。アニメ歴が浅い私でも主人公や周りのキャラにはどうしても既視感が拭えず、もっと歴が深い皆様方にとってはその感覚も凄まじいものになるだろう。
{netabare}キャラクターとして期待できるのが諏訪部さん演じる化け狸・隠神鼓八千(いぬかみ こはち)なのだが、主人公らの保護者というポジションのためかアニメ化範囲では目立った活躍は無し。せめて『NARUTO -ナルト-』のカカシや『呪術廻戦』の五条悟くらいの活躍をオリジナルでも差し込めれば良かったのだが。{/netabare}
ジャンプ作品らしく友情・努力・勝利を押さえて物語が丁寧に描かれた、作者の真面目な気質さえも伺える作品ではある。それをアニメ制作会社・亜細亜堂が本作で監督を勤めた名高きアニメーター・藤森雅也氏の絵コンテを基にかなりの良作画でお届けしているものの、それらと同等にジャンプ黄金期時代の作品を見本にして作ったのかな?という邪推が鬼滅や呪術以上に捗ってしまう無個性ぶりが際立ってしまったように感じられた。
巷では『ショタハーレム』として希少価値を見出だす謎評価やネタ扱いもあるが、そういった性癖を持ち合わせていない視聴者にとっては目だってありふれた作品にしか映らないのである。

投稿 : 2023/10/15
閲覧 : 79
サンキュー:

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