「結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-/-勇者の章-(TVアニメ動画)」

総合得点
76.8
感想・評価
409
棚に入れた
1767
ランキング
658
★★★★☆ 3.8 (409)
物語
3.7
作画
3.9
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ゆゆゆシリーズの必要悪

『結城友奈は勇者である』の前日譚が前半6話、跳んでその続編が後半6話。前半には文句のない反面、後半のひたすら鬱屈とした雰囲気と駆け足気味だった最終話にはファンとしても頭を悩ませてしまった。
ただそれを差し引いても観て良かったという結論に持っていく1ファンの甘言をお手隙であれば是非読んでいただきたい。
ちなみに前半6話の内容は『結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第1章~ともだち~』、『結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第2章~たましい~』、『結城友奈は勇者である 鷲尾須美の章 第3章~やくそく~』と同じでそれらのレビューも挙げたので割愛。向こうも読んでいただけると幸いです。

【ココがすごい!:東郷さんがいなくなった!?】
のっけからネタバレさせてもらうが、この大事件から始まるのが勇者の章の惹き込まれる部分だ。
御役目から解放されて喪った身体機能も戻り、勇者部は元のボランティア部(助っ人部)として再始動。1期で衝撃的な姿を見せた乃木園子も健康体で新たに加わり、友奈たちは平穏な学校生活を過ごしていた。その中に東郷美森がいないのである。
そのまま進む第1話のAパートといったら不気味でならない。結城友奈の傍らには(それはそれでいいのだが)三好夏凜がいて何事も起きてないかのように日常が進む。1期最終話で友奈は「東郷さんのこと忘れない」と言っていた手前、その誓いを早速破らせるようなシナリオにするとは思いもしなかった。
勿論、すぐに東郷がいないことに勇者部一同は気づく。何か悪い魔法にかけられたかのように全員が東郷のことを忘れさせられていたのだ。彼女が壁の外にいることがわかった一同は再び勇者となる端末を手に取る。
大赦への疑念や力の代償への恐怖が全くないわけではない。それでも唯一無二の大親友を助ける力を得るために、友奈は──勇者部は勇者に戻る。
『新日常系』が帰ってきた。第2話まではそう思っていた。

【ココが変わってしまった……:日常の陰で苦しむ友奈】
{netabare}東郷を取り戻し、勇者部は真の平穏を取り戻したかのように見えた。しかし直接助けにいった友奈の胸元には謎の刻印が……
それはバーテックスの親玉でもある天の神の祟り。友奈が天の神の所有物であることを示し、そこから生命力をジワジワと吸って遂には殺してしまうという代物だ。“生け贄”という御役目は東郷から友奈に引き継がれてしまった。
神が与えた祟りは簡単に伝染する。ホラー映画の『呪怨』並みと考えてくれればいいだろう。友奈も最初は勇者部五ヶ条の一つ「悩んだら相談!」の下、皆に刻印のことを話そうとするのだが、それだけで皆に不幸が降りかかってしまう。特に風は交通量の少ない場所で不自然な交通事故に遭い大ケガを負ってしまう。勇者に戻れば常に身の危険は精霊が守ってくれる筈なのに。
その一連を垣間見た友奈は────隠すことにする。話そうとするだけで大事な仲間が死にかけるのだ。もう二度と口にしてはいけない。心優しい彼女の決意と、その辛さに1人雪道で泣き崩れる姿は大変、痛ましい。
かつて風と東郷とで一緒に定めた勇者部五ヶ条をよりにもよって友奈自身に破らせるという展開。東郷との約束に続いて2回目だ。本作のシナリオはとても邪悪に満ちている。
正月、勇者部一同で初詣に行った際も友奈の笑顔は控えめでしかない。全てが終わったと思い込んでいる他の部員をよそに友奈は精神的にも肉体的にも苦しめられている。
正直、全く楽しくない。バーテックスは襲来せず1期と遜色ない冬の日常やネタは挟まれるものの、主役の笑顔が少ないだけでこんなにも不穏な気持ちになるとは思いもしなかった。散華で1つずつ身体を喪っていた時の夏合宿とは比にならない鬱展開だ。私の求めていた『新日常系』は何処へいってしまったのか?(泣)
{/netabare}
【ココがすごい!:1期の伏線回収】
『結城友奈は勇者である』は最終話でご都合主義を入れて評価を落とした。こう評するレビュアーはまだまだいるようだが、その人はやはりこのシリーズを見限って本作を観ることはなかったのだろうか。
{netabare}友奈が書き遺していた勇者御記。そこにはなぜ散華で喪われた身体機能が戻ってきたのか。なぜ友奈はずっと意識を喪い、戻ってきたのか。なぜ戻ってきた自分の身体でリハビリを要したり上手く歩けない時期があったのか──1期最終話で残された小骨のような謎が遂に取り去られる。
やはり喪われた身体が元に戻るなんてご都合はなかった。そして神樹の人類に対する慈しみを知れた。まさか神樹が自分の力を使って新しく彼女らの身体を作っていたなんて……。
しかしそのせいもあるのか、神樹には寿命ががあったことが明かされ、それが今まさに尽きようとしていた。1期の激闘によって肉体の全てを神樹製にすげ替えた友奈には新たに“神婚”という御役目を言い渡されていたのである。{/netabare}

【ココが変わってしまった……:勇者部の大ゲンカ】
{netabare}神婚──その言葉の響きは華やかだが、実際は只の生け贄だ。人類全てを救うために友奈1人を犠牲にする。功利主義で考えれば迷うことなくとれる選択肢だろう。
しかし……あの結城友奈である。この物語の主人公であり勇者部の太陽のような存在。彼女の笑顔が曇るだけで部で過ごす日常が不穏になる。そんな彼女を犠牲にして人類全てが救われましためでたしめでたし──なんて結末で「あーいいお話だった」と済ませられるわけがない。
そんな視聴者の気持ちを代弁するがごとく他の勇者部員は猛反対をする。しかし肝心の本人は受け入れる気満々だ。自分の命で世界が救われるなら嫌でも引き受ける。ましてや祟りで短い命。この時の友奈は功利主義と勇者としての在り方に完全に呑まれていた。
そこからの友奈と勇者部の言い争いはもう見ていられないし聴いてもいられない。お互いを想うが故にお互いの説得を聞き入れられず泥沼化、遂には樹が泣き出してしまうという地獄のような描写だ。1期でも東郷と勇者部が争ったが、戦場である樹海と日常の一部である部室とでは凄惨さが異なる。
祟りの伝染のせいで想いを吐き出しきれない友奈。誤解して友奈を傷つけてしまったため、語気に強みがない夏凜など細かな描写が際立つ。しかしそれらを吟味することは心情的にとても難しい。あの仲の良かった勇者部がケンカをしてしまうのはとても衝撃的だからだ。 {/netabare}

【でもココが熱い!:犠牲を出さない世のために】
思えば『結城友奈は勇者である』の世界観は歪だ。年端の行かない少女たちを戦いの前線に出し、大人がその陰で更なる犠牲を強いていく。他のバトルヒロインアニメとは一線を画す、人間が同じ人間を捨て駒にすることで成り立たせている邪悪な世界を描いてきた。そこに惹かれた部分も正直あるが、今回ばかりは肯定するわけにはいかない。
{netabare}「(御役目は)やるわ……でも、友奈は返してもらう!」
勇者部は友奈と世界の両方を救うため、二手に分かれて戦いを始める。
片やバーテックスの親玉である天の神、片や勇者に力を与える神の集合体・神樹と相対するので満開を駆使しても優勢にはならない。勇者部は間違った判断をしてしまったかも知れない。しかし救われた世界に友奈がいなければ、勇者部にあの日常は訪れないのだ。言わば「世界か友奈か?」という選択肢にはどちらも“彼女ら”の世界がないのである。だからこそ両取りという選択だ。
頭の中で少し「無謀じゃないか?非効率じゃないか?友奈本人が選んだのならそれを尊重してやるべきじゃないか?」という考えもよぎるものの、やはり彼女らの行動には納得がいく。世界ではなく“彼女ら”の行く末を心から応援したくなる最終話は1期での感想と遜色がなかった。{/netabare}

【キャラクター評価】
{netabare}結城友奈
1期の描写から、私は彼女を神の子か何かだと神格化していたのかもしれない。常に明るく、他者を思いやり、あらゆる困難にも前向きで立ち向かう。そんな彼女の人物像がこの2期で壊されたというべきかひっくり返ったというべきか……とにかく悪い方向に働いたのにはとてもショックを受けた。
しかし彼女も人の子。1人の時に吐露する「怖い」や「辛い」は本物であり、それを巧みに隠せる彼女に東郷たちが気づいて助けてあげなければ、彼女は苦しんで苦しんで終わるのだ。そんな危うさとその解決を本作4話にかけて描いたことで次作、元鞘に収まると同時に勇者部六ヶ条“無理せず自分も幸せであること”を目指す彼女の成長も拝めることだろう。

東郷美森
君も反省とか成長しなきゃだよなぁ(戒め)
彼女を始め、色々と高スペックな勇者部の面々が友奈の異変に気づくのが遅いように感じたり、水掛け論で友奈を追いつめているように見えてしまったのが残念。まあいきなり友達が「わたし生け贄になります」とか言ったら混乱してちゃんとした話し合いが出来ないのも仕方ないのだろうが。
とは言え、東郷も友奈と同じ選択をしたのに自分は棚上げかぁ……という失望を感じてしまったのが正直なところだ。自分の命を軽んじたのは友奈だけじゃなくて2人なのだ。そこを非とするならば明らかに足りない描写があると思う。そこも次作に期待する。 {/netabare}

【総評】
1期との明らかなテイストの違いにひたすら戸惑い、心落ち着ける回が全く存在しなかった。1期はバーテックスとの戦いもどこか“部活動”として捉えて前向きで勇敢に取り組んでおり、その戦いという非日常ときらら系のような日常シーンとの往復が楽しく、またそれらが戦いの代償で少しずつ変質していく様が面白い作品だった。
{netabare}しかし本作は初めから東郷の失踪、続いて祟りに侵された友奈と後ろ向きな要素が取り入れられ、ひたすらに不穏で鬱屈とした雰囲気を漂わせていた。ささやかな日常や小ネタもあったが完全に非日常要素に浸蝕されており、心から楽しめない作りになっている。これは『新日常系』ではない。只の鬱な変身ヒロインアニメだ。
やはり「勝ち続ければそれでいい」頃だった1期と違い、神の呪いや強制的な自己犠牲精神というのは中学生たちには荷が勝ちすぎており、事態を共有できた4・5話でも勇者部は歯噛みするしかなく、その八方塞がりな様子には「この娘たちならなんとかできるはず」という一抹の期待感すら奪われてしまった。{/netabare}
ただ、本作は必要悪だと思う。勇者に憧れ何事も他者を優先し、遂には自分の命すら投げかけてしまうのは友奈や東郷だけじゃなく、代償を知って尚満開をしたことのある園子や夏凜、勇者部の部長と新部長たる犬吠埼姉妹にも可能性があることだ。人を想うからこそ人に想われる自分も大事にする。そう学んだことが最後に見えた勇者部五ヶ条から六ヶ条への変化、その一文に「無理せず自分も幸せであること」が追記されているシーンでよくわかる。このグレードアップが勇者部そのものの成長を表しているとわかると一概に批判ばかりは描けないものである。
{netabare}なのでシリーズ全体の通過点として見ればこの鬱ばかりな構成も全然アリだ。最終話で天の神が倒され神樹も消えてしまったため、この2期でシリーズ終了と予想してた人も少なくないが、個人的には「え~、これで終わりはないでしょ」とずっと思っていた(3期情報が出た後のレビューじゃ信用されないとは思うが)。何しろ続編としては6話だけ、そして最終話の事件後日談はダイジェストという粗雑な作りだ。伏線らしきものも多く出てきた。これで結城友奈の有終の美を飾ったとは言えないだろう。{/netabare}
3期では是非とも原点に立ち返り再び『新日常系』を描写してもらいたい。何かと鬱アニメ指定されがちなシリーズであるが、このシリーズの真の強みは日常と非日常のコントラストにある。どの期が最終章になるかはもはや誰にも予想は出来ないが、締めるならやはり戦いを応援し日常に笑える作品として提供することこそがシリーズ全体に相応しい最後と言える。

投稿 : 2021/09/24
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サンキュー:

9

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