「キズナイーバー(TVアニメ動画)」

総合得点
71.4
感想・評価
773
棚に入れた
3691
ランキング
1310
★★★★☆ 3.5 (773)
物語
3.4
作画
3.6
声優
3.5
音楽
3.5
キャラ
3.5

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

マリーとトリガーのタッグも悪くない

罪無き少年少女を現在風「七つの大罪」に当てはめて、拉致し手術し、非道に近い実験に強制参加させる──序盤は視聴者へのストレス負荷がかなり大きな構成となっている。知らない人間同士を無理矢理に“繋げる”という点では奇しくもホラー映画『ムカデ人間』と部分的に通じるものがあり、故の視聴者からの嫌悪・批判はどうしたって避けることの出来ない導入だ。
そんな実験の首謀者と思われるメインヒロインの1人・園崎法子(そのざき のりこ)の理想も一抹の狂気を孕んでいる。
「人は痛みを分かち合うことで真に他者を思いやることができます」
こうして“痛覚”を繋げられた被験者たち=キズナイーバーの青春群像劇と実験の行く末が、少しずつではあるけども尻上がりに面白くなっていく。

【ココがひどい?:絆システムと理不尽ミッション】
キズナイーバーの誰かが痛みを受けると、他のキズナイーバーにも痛みが伝わるという状況下で、彼らは園崎法子ら「絆の会」による“人間関係を築く”ためのミッションをこなしていく。このミッションが本当に強引で理不尽なものばかりで視る人が腹を立てても可笑しくない。
{netabare}最初のミッションは《自己紹介》なのだが、これは単に名前とクラス・趣味嗜好を言い合うものではない。クリアの条件は「自分の一番知られたくない秘密を明かす」。これに気づかない限りはキズナイーバーの1人にスタンガンを当てて全員に電撃のお仕置きが与えられる。透けて骨が見えるアニメらしい演出で誤魔化してはいるが、やってることは相当えげつないものだ。{/netabare}
誰だって痛いことは回避したい。キズナイーバーたちは強制的に自分の身体だけでなく他者──それも赤の他人や性格の不一致で話したくもない相手の身体をも気遣う羽目になる。
この理不尽感を受け入れるために先ずはこの作品をデスゲームものとして観てみるといいかも知れない。「死」を回避して動くデスゲームの参加者たちと「痛み」を回避して動くキズナイーバーたち。似通ったものを感じないだろうか。

【ココが面白い:痛みを感じない主人公・阿形勝平、他キャラクターの変化】
そんなキズナイーバーたちの中で異彩を放つのが主人公・阿形勝平(あがた かつひら)だ。無痛症で何事にも無頓着な彼は不良から執拗なカツアゲを受けている。お金があればアッサリと渡し、無くても「殴って済ましてくれるならいいや」と考えて何も抵抗しない。心配する幼馴染み・高城千鳥(たかしろ ちどり)への態度も素っ気ない。そんな主人公の冒頭の姿にイライラしてしまう視聴者は続出したのではないだろうか。
そんな男が絆システムと絆の会のミッションで「他者への興味・関心」を呼び覚ましていき、牛の歩みではあるが魅力あるキャラクターに変わっていく所が感慨深い。{netabare}勝平に好意を寄せる千鳥が自分がカツアゲを受ける度に心を痛めていたことを知り、件の不良に「お金を返してください」と言うシーン、牧のトラウマをミッションに利用した法子に向けて「軽蔑しました」と怒りを顕にするシーンなど、痛覚を繋げた絆システムが「心の痛み」も繋げたことで主人公の血が勢いよく通い始める。
勿論、他のキャラクターも絆システムとミッションでより良い方向に変化していった。千鳥は勝平への想いを何度も本人にぶつけることができたし、牧はキズナイーバーの皆の尽力でトラウマを克服しようと変わった。{/netabare}普段の学校生活では決して接点の出来ない人種がかけがえのない友達になっていく様に視聴者が「絆システムがあって良かった」と考えられるようになっている。

【でもココがひどい?:キズナコネクト】
本作の心無い評価の1つとして『ココロコネクトのパクり』があるようだが、確かに第9話で絆システムは《感情伝導》もしくは《サトラレ》の領域に達した。当然、それで描くのは自分の秘めた想いを人に知られるという悲劇である。
だがこれと脚本家・岡田麿里氏の得意な“片想いの連鎖”が合わさって第9話はとても凄惨な内容となっている。俗に言う「マリー節全開」というやつだ。
そして興味深いのは、「心の声が聴こえれば人は理解しあえるのか?」にある。
{netabare}勝平が法子を抱きしめるのを見た千鳥の心の声は『私のことも抱きしめて』。それを受けて勝平は千鳥も抱きしめる。しかし千鳥の声は『抱きしめるなんてひどいよ』に変わるのだ。
端から聴けば「めんどくさい女だな……」と思うかもしれないが、少し考えれば千鳥の心情変化は当然だ。好きな人に抱きしめられる娘を羨ましく感じての『抱きしめて』に後から応えられても「私のこと好きじゃないくせにそんなことするな」と思うわけで、傷つくのである。それをシステムが拾いきれていないのだ。{/netabare}
痛みの共有から発展した心の声の筈なのに、それが聴こえても真に他者を思いやることはできない。そんな様を見せられて、視聴者は「人を無理やり繋ぐのはやはり違うんじゃないか」と掌を返すようになる。

【それでもココが熱い!:絆システムは要らないんだ!】
絆システムの実験台として出会い、絆システムで互いを想いやれる友達となり、絆システムの発展で互いを傷つけ合ったキズナイーバーたち。良くも悪くも絆システムに振り回された彼らだからこそ、終盤に1つの結論に到達する。
人と人とが繋がるのに、そんなシステムは要らないんだ、と。
しかし、そんな彼らの環に入らなかった法子は違う。頑なに痛みを分かち合うことで人は真に解り合えるんだと信じている。
{netabare}逆に法子ってそれ以外は要らないと思ってるんだよねきっと。だから合宿に参加した時のしりとりでわざと「ん」をつけてゲームという馴れ合いを断ち切ったり、人のトラウマや秘密を遠慮なくつつき回したりする。実験が成功して世界中の人が絆システムで繋がればそんな些細な不和も帳消しにできると思ってるのだから。{/netabare}
最終話はそんな2つの主張をぶつけるラストシーンが地味で青臭いながらもクライマックスに相応しい。元キズナイーバーとなった7人が思いの丈を打ち明けて理路整然とする法子に肉薄していく。システムとミッションを実際に体感した7人だからこそ堂々と法子を否定し、盲信から救いだそうとする描写はちゃんと根拠(エビデンス)と情熱(パッション)が乗っていて感情移入しやすいようにできていた。

【総評】
あまり良い評価が見られず、U-NEXTでも☆4.0と低めだったので不安視はしていたのだが、意外と良かった。確かに序盤はピンと来なかったけれども中盤以降はグングンと面白くなり、終盤も綺麗にまとまっていたと思う。
岡田麿里氏はやはり青春モノが強みなんだな、と再認識した。キズナイーバーは“七つの大罪”に当てはめられたこともあって個性がハッキリとしており、ガイナックスの魂の独立たる制作会社トリガーの画力によって動きや表情が活き活きとしていて見ているだけで面白いのが相変わらずだ。そんなキャラクターたちの“友情”への固執又は忌避、そして愛憎劇は他の作品とは一線を画す所にある。{netabare}《サトラレ》愛憎劇だと「それココロコネクトやないかーい」と言われがちではあるが、その作品にケンカの仲裁をしながら『要らないなら天河くんちょうだい…』と心の声を漏らすニコのような演出があったのか?と問いたい。いやーほんとアレはゾゾゾと鳥肌が立つような演出だった。言ってることと思ってることがまるで真反対なんだもの。{/netabare}
それでも評価が芳しくないのはやはり序盤のストレス構成と一貫して悪役に片足突っ込んでいた法子・漆原・山田の制裁が全く描かれなかったことによる不満だろうか。この3人は10話以降で見方が180°変わる展開が描かれており、それが使える岡田氏も流石プロと褒め称えるべきなのだが、「いくら辛い過去があっても、勝平以外の何の関係も無い6人を巻き込んでおいて何のお咎めもないのか」と訊かれれば「確かになー」と同意してしまうくらい本作の事件は何気に酷かったりもする。
とはいえ、過去の実験によって痛み=自己を喪った主人公・勝平とヒロイン・法子がそれを取り戻す話として綺麗に描き切っており、事件の事後処理も、元キズナイーバーたちの暴かれた恋慕への決着も含めて「勝平たちのマトモな青春はこれからなんだ!」という余韻すら感じさせるいい投げっぷりだと私は思った。
近づけば痛い。遠下がれば寒い。では適切な距離はどこや?という“ヤマアラシのジレンマ”というテーマを突き詰めるにあたって、奇抜ではなくとも面白い設定にキャラバランスが光る。勢いとアクションが売りのトリガーという印象よりも、テーマを深堀るのに適した設定という岡田麿里氏の良さが存分に出ているアニメである。

投稿 : 2021/11/05
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サンキュー:

8

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