「翠星のガルガンティア ~ めぐる航路、遥か ~ 前編(OVA)」

総合得点
65.7
感想・評価
255
棚に入れた
1560
ランキング
3113
★★★★☆ 3.8 (255)
物語
3.7
作画
4.0
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 3.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

クオリティは上がったがボリュームに難あり

発売前の先行上映に足を運んだのは良い想い出。その限定要素としてチェインバーによるTVシリーズの回想が冒頭に描かれた。配信版には無いようであり、今でもちょっとした優越感に浸れる(笑)
時間こそ10分もない程度だったが1クール13話の内容が非常に良くまとまっていた。本当に重要だった要素を抜き出して淡々と語るのはロボらしさが、そして彼もまたレドと同じく人類銀河同盟から孤立し、たどり着いた翠星の地球で自らの存在意義を探究し、「知性を持ち思考を続ける人類を支援する」と結論づける場面では心なしか台詞に熱が入っていて、正に「チェインバーの心理描写」ともいうべき面白さを含んでいた。
そんなシリーズの中核を担っていたチェインバーはもういない。TVシリーズ最終話のラストで上位機のストライカーを道連れにその機能を停止した。
地球にとってのオーバーテクノロジーが対消滅した後の物語。その内容は────

【ココがすごい!:劇場上映を見越した圧倒的な作画・音楽】
TVシリーズでも画力は十分に高かったのだが本作はそれが更にパワーアップしている。きっと映画で先行上映されることを見越して丁寧に作ってきたのだろう。
単純に画が上手いのではなく構図というべきか“力を入れて描写する部分”も変えてきているようで、とくに細かい部分にあたる船の傷や錆びの描写などが印象深い。これまでガルガンティアというのは船団というよりも海が至近距離にある1つの「街」のような印象であったが、この繊細さに加えて「あの嵐の夜」で描かれた荒波に揉まれる船の描写で改めて数々の船が寄り集まった「船団」だということを再認識できる。
そしてOP。前作の『この世界は僕らを待っていた』も本作の雄大な世界観を茅原実理さんが歌う良曲であるが、今作の『はじまりの翼』がそれを超えている。唐沢美帆さんの歌声は大空を高く飛び立つような疾走感と透明感があり、ガルガンティアの世界観と非常にマッチしている。あまりにも雄大さが出ていてTVアニメのOPには勿体ない、正に映画でやることを想定して作られ歌われた神曲である。
これらの要素がOVAでしかない本作にかつて劇場上映まで至った理由・意義というものを持たせている。

【変わらない魅力:キャラクター描写も素晴らしい】
TVシリーズでも可愛らしいキャラクターとロボットの描写が好評であったが、OVAではそのキャラクター描写に更なる力が入っているようだ。とくに鳴子ハナハル氏がデザインを手がけた女性キャラクターの可愛さや色気には磨きがかかっており、それを活かした大浴場のサービスシーンやレドとエイミーの恋愛描写が素晴らしい。彼女はTV版の最終話で想いを打ち明けたものの、結局ハッキリと「好きだ」とまでは言ってないのでレドへの好意をまだ誤魔化そうとする。その時の目の泳ぎ方や照れの表情にきっと私は気持ち悪い笑顔を浮かべたことだろう(笑)
TVシリーズで描かれなかったチェインバーとの秘話などもあり、エイミーが好きな方にはたまらないシーンが詰め込まれている。

【でもココがひどい:内容がちょっと……】
基本的なストーリーはTVシリーズからの続きである。
クーゲル船団との戦いから半年、チェインバーを喪ったレドはすっかりガルガンティアでの生活に馴染み、仲間たちと平和な日々を送っていた。喪ったチェインバーの代わりにユンボロの操縦も難なくこなし、ベローズたちと共にサルベージ業に勤しんでいる。
冒頭では人類銀河同盟の祖と言える「コンチネンタル・ユニオン」の沈没船を発見、引き揚げるための大掛かりな作業が始まった────と言った内容となっている。
{netabare}正直、1本の映画として観ると内容が薄いと言わざるを得ない。
一応、新キャラのリーマがメッセンジャーガールズに加わり、彼女の案内という名目で前作では観られなかったガルガンティアの新たな生活模様を写し出していたり、彼女がレドやチェインバーに興味を示し機械にも強い謎といった部分も描写しているが、最終的に山場と言える部分はレドの海難事故ただ1つだったりする。PVでは嵐に揉まれるレドやエイミーの姿があり期待感も煽られたが、あれは飽くまでも既に乗り越えた「過去」であり、それがわかってしまえばもう緊張感も何もない。
こういった過去話の2つ3つで本編は肉付けされており、TVシリーズの後日談────「現在」を観たい人にとってはちょっと期待を裏切る内容になっていたな、と感じた。{/netabare}

【総評】
作画・音楽ともに劇場レベル以上の高いクオリティーを誇ってはいるのだが、ストーリー的にはあくまでも後日談を語ったOVAであり、TVシリーズを見た人向けの作品である。
ガルガンティアの生活とサルベージ業だけでは60分の尺をフルに使えるわけもなく、チェインバーの出番と尺を稼ぐための過去シーンが多くなってしまい、やや冗長な作品に仕上がっているのは残念な部分だ。
{netabare}しかし「山場はレドの海難事故ただ1つ」と書きながらもチェインバーを喪ったガルガンティアにとってはとても大きな事件であり、エイミー役の金本寿子さんの泣きの演技で一大事の雰囲気がきちんと作られてやっぱりハラハラさせられた。
やはりマシンキャリバーが無ければ人は無力なのか……?
そう思い始めたところでガルガンティア船団が立ち上がり、レド1人を助けるために全員が一丸となるシーンには素直に感動した。「チェインバーを喪ったレド」の成長もしっかりと感じることができ、さらにリーマが暗がりで語りかけるチェインバーに似た「謎のロボット」の登場で締めることで後編への期待感が非常に強い引きで終わっているのは好印象と言えるだろう。{/netabare}
前編後編合わせて1本の作品にしてくれた方が作品評価的にもこちらのおサイフ的にも遥かに良かったのだが(笑) まあアニメは芸術ではなくビジネスですし、2本に分けて展開する方が潤う人もいたのでしょう。
現在は配信で前後編を一気観することもできる。テレビ版『翠星のガルガンティア』を観て、あの世界観にもう少し浸りたいと思った方には観て損はない作品だ。なにせOVAなのだから。

投稿 : 2022/02/26
閲覧 : 194
サンキュー:

4

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