「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 Final Season 浅き夢の暁(TVアニメ動画)」

総合得点
68.6
感想・評価
92
棚に入れた
400
ランキング
1979
★★★★☆ 3.6 (92)
物語
3.2
作画
3.8
声優
3.8
音楽
3.8
キャラ
3.4

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 2.5 状態:観終わった

自分の正しさを信じ込んで意固地になればなるほどに、幸せは遠さがっていくものだ

先ず結末を先に書くと、未だアニメ化されていないし恐らく今後もされることはない『魔法少女かずみ☆マギカ』や『魔法少女すずね☆マギカ』と同じビターエンドであった。他外伝も網羅した私好みな結末ではあるんだけども本作に関しては、なんというか徒労感がすごい(笑)
「お前シーズン1も2も酷評してるのに最期まで観るなんて実は好きだろ(笑)」とか煽られそうではありますが、いきましょうかマギアレコードシリーズ最期のレビュー。

【ここが熱い!:毒を食らわば皿まで】
前作は柊ねむが里見灯花に隠し事を打ち明けようとしたところで終わったのは覚えているだろうか。まあ忘れていても冒頭10分は1st~2ndの総集に充てられていたので思い出しやすい。柊ねむによりマギウスという組織の誕生とそれに関わる灯花とねむ、そして環いろはと環ういの過去が明かされる。
{netabare}いろはは不治の病に侵された妹のために、ういはそのために魔女との戦いに身を投じなければならなくなった姉を救うためにインキュベーターと魔法少女の契約を結んでいた。そしてういの病室仲間だった灯花とねむはとても頭が良く、願いごととしてこんな策略を思い付いていた。
「私たちの願い3つでキュウべえの機能を奪えばいい。魔法少女の穢れを“回収”して魔力に“変換”し、その魔力をエネルギーとして“具現化”してさらに回収と変換を行う。そうすればいろはお姉さまだけでなく全ての魔法少女のソウルジェムに穢れが溜まることはない」と。
しかしその目論見は失敗した。「穢れの回収」を担当したういは2人の想定を外して急速に穢れを溜め込み、魔女になってしまう。その魔女こそがエンブリオ・イヴでありマギウスの魔法少女救済計画の中核。灯花は因果が切れた影響で忘れていたが、彼女らは自分の友達を贄に全ての魔法少女を救おうとしていたのである。{/netabare}
かなり面白い過去話だ。キュウべえの能力をそんな風に捉えて利用し、『魔法少女まどか☆マギカ』の円環の理以外で魔法少女を救う方法を示すとは……素直に感心してしまった。まどかマギカのスピンオフ、その物語の発起として不足ない舞台設定であろう。
ただそれも友達────{netabare}環うい{/netabare}を犠牲にしていたことを思い出すことで改心して止まるんだろうな、とタカを括っていた。
{netabare}しかし2人は止まらなかった。灯花が環姉妹の記憶を喪っていたからこそ彼女らの所業は環姉妹の安否関係無く全ての魔法少女を救うためであり、その信念に嘘偽りも勘違いもない。他の犠牲が出るという過ちを、そして友達を犠牲にしているという過ちを背負い、改めて魔法少女救済計画の完遂を誓ったのである。{/netabare}
異なる正義が対立する熱い展開。それがシリーズのトータルで考えれば2クール終盤という遅さでようやく拝むことができる。

【ココも熱い:「わからないよ」を貫いた主人公】
{netabare}そんな2人を止めようとする環いろは。前作レビューにも書いたが彼女はマギウスの計画を阻むに相応しいエビデンス(根拠)が無い。しかしパッション(情熱)だけは最終話にしてようやく私たちに示してくれた。いろはと灯花の会話を振り返ってみる。
「持ってる時間が増えただけで、お姉ちゃんが幸せになれると思う?」
「……少ないより……ずっとマシだよ?」
「そうだよ……そうなんだよ……だからずっと一緒にいてよ……1秒でも長く一緒にいてよ……! お姉ちゃん本当は『世界中の魔法少女が救われる』とか……よくわかんないよ……もう、これ以上勝手にいなくならないでよ……お姉ちゃんを置いて行かないでよっ!! 1秒でも長く、2人の大好きなお姉ちゃんでいさせて……」
いやほんと、ようやく環いろはという主人公が理解できて胸のつかえが取れた感じだ。
いろはの「わからない」は「どうでもいい」の言い換えだ。本当は彼女のドッペル──心の闇の部分──が魔法少女救済計画の意義を理解しており、ここぞという場面で主人格を揺さぶってきた。
邪魔をしてはいけない。何もせず縋れば自分だけでなく皆の寿命が延びるのに、と。
しかしそれ以上に妹のういや妹分の灯花やねむと共に過ごすことの方が大事で、そのためになら魔法少女全体の問題なんて捨てられるし妹たちにも捨ててほしい。「妹のういの病気を治す」という願いは「妹たちと共に過ごす時間を延ばしたい」からこその願い。そのために魔法少女になった主人公だと解るからこそ“魔法少女の救済よりも妹”という最初は不気味にさえ思えたスタンスに初めて共感できる。
そして灯花とねむも大好きな姉────いろはと一緒にいたいのが本音だ。魔法少女救済計画はイヴとワルプルギスの夜を融合させ、その余波で神浜市を吹き飛ばすことで達成されるものだ。そんな多くの犠牲を出した者と出さない者とでは大きな隔たりが生まれ、共に道を歩むことは叶わなくなる。その本音を主人公が引き出すことで異なる正義の対立────いや、姉を想う妹と妹を想う姉の対立に決着が着くのである。 {/netabare}

【でもココがひどい:皆の総意が感じられない】
{netabare}しかしいろは以外の魔法少女の「救済を蹴る理由」は遂にハッキリと示されることはなかった。
「妹たちと1秒でも長く一緒にいたい。救済という悪業で遠くにいかないでほしい」という気持ち・意見は飽くまでも環いろは唯1人のものであり、それが皆の総意というわけでは絶対あり得ない。
七海やちよ。貴女は「誰も犠牲にしたくない」と言ってここまで来たが、マギウスの計画を阻止して元鞘に納めるということは今後もメルやかなえのような魔法少女システムによる犠牲者を出すことになる。その容易に考えられる未来から目を背けてはいないだろうか?
由比鶴野。君は一度は魔法少女そのものに絶望し、マギウスの野望を叶えるためにいろはたちと戦った。それは確かに不本意なことだったかも知れないが、その絶望は正直なものだったのではないのか?その不安や焦りはいろはたちと手を取り合うだけで解消されるものなのか?
フェリシアとさな。君たちは「運命が変えられなかったとしても最後にいたい場所はマギウスじゃない」として、いろはたちの下に帰ってきた。そして鶴野も取り戻した。そこで止まらないのは何故だ?いろはが望まなくとも君たちは少しでもいろはややちよと共に過ごす時間を延ばしたいとは考えないのか?
主要なキャラクターだけでもこのくらい問いかけたいことがある。それらが解消されないくらい、やはりキャラクターの掘り下げに乏しい。
このシリーズはタイトル通り今作が最終作だ。1stから2ndまで登場した全ての魔法少女が物語を締め括る最期の戦いに臨む。しかし主人公以外の魔法少女の戦う理由が曖昧なことで、その展開がなんだかバトルヒロインアニメの最終話の様式にただ従っているだけのように思えていまいち盛り上がらない。
モブに至っては事情も知らずにやちよたちの味方をしてしまっている。恐らくエンブリオ・イヴは只の魔女、両脇に乗ってる灯花とねむはその口づけを受けて操られた被害者か何かだと思って戦ってくれたのだろう。事情を細部まで知ればマギウスの方に味方する魔法少女も必ずそれなりに出てきたと思われるが、尺の都合上、そこまで事態を混迷させるわけにはいかなかったようだ。
皆の気持ちが1つにまとまっていないのにあたかもまとまっているかのような、そんな違和感も感じさせるラストバトルになってしまっていた。 {/netabare}

【ココもひどい:雑に積み上がった死体】
{netabare}最期にこの作品に対して嫌悪した部分は登場人物を7人も殺してしまった所だ。
「おいおい、以前に『シナリオが生温い』って書いたのお前だろ」とつっこまれるかも知れないが、あれは飽くまでも『魔法少女まどか☆マギカ』と比較した場合の所感であるし、比較した上で書いていいなら殆ど死に方が雑なのだ。まるで佐倉杏子の自爆魔法が魔法少女間で流行ってるのかとツッコみたくなるくらいにソウルジェムがよくわからない理由でパリンパリンと自壊していく。確かに神浜市内では魔女化で死ななくなっているためもう1つの死因であるジェムの破壊を描くしかないのだが、1stも2ndも劇中で死者を描かなかったのに3rdで急にそこまでして「犠牲」を描く意味があったのか私には些か疑問である。「魔法少女が死にまくるのがまどマギらしい」と勘違いしている輩が制作に入っていたのだろうか?
とくに酷いのが灯花とねむであろう。最終話Bパート、アリナの唐突な再登場からの「全人類魔法少女化計画」。そのためにせっかく止まったイヴがアリナと融合して再起動してしまう。そんな雑な展開を止めるために「1秒でも長く一緒にいる」と誓い合ったばかりの姉妹が爆速で引き離されることになるのである。
しかも2人の犠牲で死なない(笑) 再生して再び飛翔しワルプルギスに向かうアリナイヴ。彼女を倒すのはういの「回収」の力で魔力を集めたいろはと自身の固有魔法が「仲間の希望を受け継ぐ」魔法だと気づいたやちよによる合体魔法だった────これ、どうして灯花とねむが特攻した後だったんだろうなぁ……?{/netabare}


【他キャラ評価】
黒江
彼女はいろはたちの歪んだ側面を露にするキャラクターだったのかも知れない。
魔法少女は正義の味方。魔法少女は弱い人々を助ける。魔法少女はお互いに助け合って強い敵に立ち向かう────これが環いろはを始めとする「善」の魔法少女の基本的な考えだ。だからこそ自分たちが助かるために他者を犠牲にするマギウスを許せず戦う、というシナリオにこのシリーズはなっている。
しかし当然、そんなことが出来ない魔法少女もいる。いやむしろそれが『魔法少女まどか☆マギカ』では大半を占めていると言っていい。それが解っているからこそ私はいろはたちの行動に不満があるし、制作陣もそんな彼女らに花持たせるばかりはしたくなかったのだろう。
{netabare}「黒江さん、私と一緒に魔法少女になろう」
いろはが紡いだこの言葉は「善」になりきれてない魔法少女に響き、善に目覚めさせる希望・救済の言葉だ。
しかし絶対に「善」になれない魔法少女には一転、呪いの言葉となる。{/netabare}
{netabare}「……ねぇ環さん。私はいつまで魔法少女を続けないといけないの?」
綺麗事では救えない命がある。彼女はそれを自らの魔女化で示した。
これ自体はとても良い悲劇なのだが、その後すぐにやちよたちに励まされて復活するいろはも合わせると色々な意味を込めて「黒江ェ……」と呟かずにはいられない。 {/netabare}

【総評】
1st、2ndとやる毎に評価を落としてからの最終作。これ以上どんなク◯アニメになってしまうのかとヒヤヒヤしたものだが、観終わってみればそんなに悪くなかったのが驚きだ。
作画がややヘタれていること、前作から続くキャラクターの掘り下げ不足を引きずったことを除けばちゃんと物語のクライマックスとして「異なる正義の対立」を持ってきていたのが良点。マギウスの圧倒的ともいえる功利主義に対抗する「意見」や「気持ち」を主人公にはようやく持たせることも達成し、ある意味で気持ち良く終幕した作品だと言えるだろう。最終話Bパートが余計な内容にも感じたが。
それだけに本作そのものの評価ではないのだが1st、2ndの不出来が痛い。とくに1stは本作と比較してもやはり尺をムダ遣いしているようにしか見えず、終わってみれば要らない登場人物が多すぎた。まどかたち見滝原の魔法少女がその最たる例だろう。
{netabare}本作ではワルプルギスの夜と戦っていたまどかたちだが、その場面はほんの2、3カットを描くに留まっていた。そしていろはたちの戦いが終わる一方で暁美ほむらが紫の光に包まれて消える。時間遡行だ。まどかたちは5人が揃い、神浜市の新魔法少女と関わるという奇跡の巡り合わせを起こしても最終的には彼女らの援助を一切受けられずにワルプルギスに敗北してしまったのだ。結局、本作はほむらの歩んできた時間軸の1つに過ぎないものとして描かれている。原作ファンにとってはあまりにも無意味な描写だ。このような扱いをするくらいなら初めから登場させずにオリジナルキャラを掘り下げた方が物語としてより完成していた筈である。{/netabare}
{netabare}一方で神浜魔法少女も深刻だ。マギウス側にアリナ・グレイというとんでもない反乱分子がいたことで結果的にマギウスと戦った魔法少女が正しいことが証明されたが、それでも彼女らにドッペルシステムに代わるような術はない。「手を繋ぐ」「弱い者は弱いまま支え合う」といった曖昧な精神論で魔法少女は今後も魔女になるその時まで戦い続けるしかないという、他外伝と同じような結末を辿ってしまった。{/netabare}
『魔法少女まどか☆マギカ』ではまどかの母・鹿目詢子がこんな台詞を言っていたのを覚えているだろうか。
「悔しいけどね。正しいことだけ積み上げていけばハッピーエンドが手に入るってわけじゃない。むしろみんながみんな、自分の正しさを信じ込んで意固地になればなるほどに、幸せって遠ざかってくもんなんだよ」
この忠告・教訓を体現したかのようなアニメ『マギアレコード』のシナリオ。成し遂げられなかった魔法少女システムへの「叛逆」、考え無しな正義を貫いた結果「死ぬしかない」というやるせない結末は悲劇としては中々の良作に仕上がっていて、全体としては2クールの冗長さ・低クオリティによる失望感もあったが、それでも完走した甲斐もあったと感じさせてくれた。

投稿 : 2022/04/11
閲覧 : 300
サンキュー:

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