「すずめの戸締まり(アニメ映画)」

総合得点
77.3
感想・評価
246
棚に入れた
871
ランキング
616
★★★★☆ 4.0 (246)
物語
3.9
作画
4.5
声優
3.8
音楽
4.1
キャラ
3.8

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ネタバレ

カール さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

死んだ人は仕方ないので諦めよう

昭和三陸津波にて、
とある家族の父と息子たちは、
末っ子を置き去りに一目散に逃げていた。

奇跡的にその末っ子もみな助かったが、
母親は独りで逃げた父親を責め立てる。
その度に父はこう反論していた。
「てんでんこだ」


本作品は、日本を脅かす存在として、
地震が用いられています。
昔はでかいナマズの仕業でしたが、
この世界では、でかいミミズが地震の元凶。

そのミミズを閉じ込めるのが、
ヒーローである「閉じ師」の宗像草太。
そのイケメン草太に惹かれたのが、
ミーハー女子高生、岩戸鈴芽がヒロイン枠。

この2人の活躍により、
日本の生活は守られています。

一見すると鈴芽は、
行動力のある元気な少女に映りますが、
それが次第に危ういものだと気付かされる。

正義感や責任感ではなく、
自壊衝動に近いもので、
彼女は生への執着が無い。

「生死は運だと思っていましたから、
 死ぬのは怖くはありません」

屈強な兵士のような言葉。
この死生観に至った原因は、
母親の喪失なのでしょう。

鈴芽は4歳の頃、震災で母親を失います。
その死を確認したわけではないので、
必死に小さな歩幅で母を探し回る。
足を止めれば母の死を認めてしまうから。

やがて不思議な世界に迷い込む。
それでも足を止めない鈴芽の前に、
母親が現れる。
何かを言ってはいるが、何も思い出せない。

そこで目が覚める。
これは夢か、それとも過去の出来事か。

母は一体、何を伝えたいのか。
励ましか、この世の未練か。
それとも恨み辛みか……。

母親は見つからず、死も認めず、
生と死の境界を往来する事で、
鈴芽の命は軽くなっていく。

災害は命や財産、
記憶を奪っていくのと同時に、
生存者に爪痕を残す。

「自分だけが助かった……」
罪悪感の植え付け。


そんな多くの犠牲者を生む災害において、
東北地方にはある言葉が継承されている。
「てんでんこ」

最近は、「津波てんでんこ」と呼称され、
津波の際は、各自自ら任意の経路で、
「てんでんばらばらに急いで逃げろ」
と、いう意味で伝わっています。

普通の避難訓練は、全員足並み揃えて、
指定された場所へ退避するものです。
ばらばらに逃げるなんてありえません。

ところが、岩手県のある中学校では、
この「てんでんこ」を
実際に避難訓練に導入していました。

そしてこの中学校に、
3月11日、津波が襲います。
当初、指定の避難場所へ向かう生徒たちに、
教師が叫ぶ。

「てんでんこだ!」

生徒たちは即座に反応し、
指定の場所を越え、更に高い場所を目指す。

教えられた「てんでんこ」どおり、
生徒たちはばらばらに逃げた。
全員同じ経路を辿れば渋滞し、
最悪、津波に飲まれていたでしょう。

彼らの英断により、
この地域の小中学校の生存率は、
99.8%だったそうです。

まさに「てんでんこ」は、
実用的な避難方法ではあるのですが、
その反面、
とても非情な一面を持っています。

みんなばらばらに逃げるとなれば、
みんなで誰かを助けたりはしないのです。
例え、足に障害がある者がいても、
手を貸したりせずに構わず逃げる。

つまり、切り捨てです。
非難される方もいらっしゃるでしょう。

だからこそ、信頼を構築するため、
日頃から大切な人と、
「津波の時はてんでんこしよう」
と、約束しておくのです。

「一緒に逃げよう」ではありません。
ばらばらに逃げる事を互いに誓うのです。
この合意が、生存者の罪悪感を低減させる。

ずっと約束していたのだから、
「死んでしまっても仕方がない」

自分が死んだ時に、
生き残った人の重みにならないように。
自分もいつかは、
切り捨てられる側になるのだから。

災害から逃げるあなたに、
子や孫が手を差し出すかもしれません。
でも、その手を決して握ってはいけない。

「てんでんこだ!」
あなたの役目は叫ぶ事。
生きる人々に前を向かせる事。


本作品の終盤、
鈴芽は夢の、常世の真実を知る。
目の前に現れたのは母親ではなく、
未来の自分だったと。

そして、鈴芽は4歳の自分に伝える。
「あなたはちゃんと大きくなる。
 光の中で大人になっていくよ」

生きる希望を与えたのは、
手を差し出したのは、
母親ではなく自分自身。

誰かの手にすがってはいけない。
最後に自分を支えるのは、
自分自身の手であるのだから。


ありがとうございました。

投稿 : 2023/10/02
閲覧 : 66
サンキュー:

8

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