「風の谷のナウシカ(アニメ映画)」

総合得点
90.6
感想・評価
1959
棚に入れた
12592
ランキング
51
★★★★★ 4.2 (1959)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.0
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

みかみ(みみかき) さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

漫画版とか、ラストシーンとか、腐海とか

 ナウシカは、なんといっても、漫画版だろう。話はそれからだ。
 少なくとも、ある種のタイプの人種は、映画版はそこそこにしておいて、漫画版だけを、何度も繰り返し読む。そういう作品である。漫画版には、宮崎駿の偏りもありつつも、彼なりの自然論/生態系論のなかでは、世に出た作品のなかでももっとも高い水準の議論ができている。
 『もののけ姫』では、ナウシカ漫画版よりも、議論の水準が後退してしまっているのが、一体何があったのか、という気分を呼び喚こす。(細かくは、もののけ、のほうのレビューに書きました)

 演出家・アニメ作家としての宮崎駿の最高傑作というのは、百家争論でいろいろな議論があると思う。だが、「思想家としての宮崎駿」という評価についていえば、漫画版・ナウシカ以上のものは2011年現在ないといっていい。「人と自然」などというどーしよーもない対立構図からの議論構築ではなく、生態学的観点から環境思想を立ち上げ、その一端を提示してみせたのは、本当にえらいと思う。

■腐海は、たぶん、ひまわり。/2012年3月15日追記

 ちなみに、「腐海」が現実にあるとしたら、2012年現時点で、腐海の植物――すなわち、汚染物を吸収し結晶化する――候補のダントツは、ひまわりになるんだそうな。
 ひまわりは、土壌の放射性物質を根から吸収する能力が極めて高く、通常なら危険性がなくなるまで30年以上かかる土壌の放射性物質をわずか20日で95%以上も除去することができるのだという。で、放射性物質を吸収しおえたひまわりは、それ自体が放射性セシウムやヨウ素などを含んだ危険な放射性物質として処理されなければならないことになる。

 現実に腐海ができるとしたら、ナウシカの森のような暗い場所ではなく、バカみたいに明るい色に彩られた場所になるらしい。そう思うと、その風景は、いったい何なのだろうか、という気分になる。

■劇場版ナウシカのラストについて/2012年3月13日追記

『仕事道楽―スタジオジブリの現場』(鈴木敏夫著・岩波新書)によれば、本作のラストは、どうやら当初、3つに分かれていたらしい。

【A案】
王蟲が突進しその前にナウシカが降り立って、いきなりエンド。(宮崎駿案)
【B案】
王蟲が突進してきてナウシカが吹き飛ばされる、そしてナウシカは永遠の伝説になる。(高畑案)
【C案】
ナウシカはいったん死んで、そして甦る。(高畑&鈴木案)

 わたしの個人的な趣味だけから言えば高畑さんの【B案】が好き。その次が駿の【A案】。【C案】は、わたしみたいなタイプのオーディエンスは切り捨てて、「売り」に行く戦略だとは思う。
 エンターテイメントとしてのわかりやすさ、という点でいえば、結果的に選び取られた【C案】は、ヒットしたわけで、それはそれでよかったと思う。「感動します!」という感想にいたらせるための効率性がすばらしいのは間違いない。
 ただ、まあ、パヤオの主観としては、いまだに【C案】は鈴木プロデューサーの説得を受けた形のものだったため、良かったのかどうか、悩みもあるらしい。その悩みは深いし、すごくよくわかる…。
 でも、まあ、繰り返しになるけど、これはこれで、よかったともは思う。自己犠牲カタルシスネタに回収されてしまうのは、涙腺に響くものはあるんだけれども、まあ【C案】はどう考えてもカタルシス優先の設計ですよね、と。
 パヤオ本人は、手塚を「泣き優先でばっかり物語を書きやがって…!!!」ということで批判していることからも分かる通り、エンタメに徹した結果として泣き優先になるような物語設計は、究極的には好きじゃない人のはず。感情をグッと引き上げるための演出まではすごく頭使うけど、「泣き演出」は、たぶん、パヤオ本人よりも、ジブリの周囲のスタッフによるもののほうが大きそう…。
 いやーーー、なんかね、パヤオをちょっと撫でてあげたい。マーケティングのこと考えたら、泣き演出をやったほうが売れるので、ビジネスマンとしては泣き演出とかに妥協するのは、ぜんぜんアリだと思うんだけど、結局、そこは物語作家としてのプライドと、ビジネスマンとしてのプライドの衝突するポイントだよね。
 その両者のバランスをうまく綱渡りして商売としても、ものづくりとしても成功させていくことが、現代のコンテンツクリエイターの生きる道、なわけだけれども、かわいそーだわ。パヤオ…。

 結局、最終的にはパヤオが「納期を気にする」ところを、鈴木さんが利用するような形におちついたらしい。もう、決断しないと、納期に間に合わない、という時に「ラストはこっちにしましょうよ…!」と関係者に粘られたら、納期を気にする性質の人は、「オーケー、わかった!もうそれでいきましょう!」と言うしかないよね。
 わたしだって、納期を破ったら損害がでかい仕事の場合はそういう判断くだすもの。絶対。

 ビジネスマンとしての鈴木さんの判断もよくわかるし、クリエイティヴの人間としてのパヤオの決断もほんとよくわかる、しみじみとする話だな、と思う。

投稿 : 2012/03/15
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サンキュー:

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