「とある飛空士への追憶(アニメ映画)」

総合得点
63.4
感想・評価
331
棚に入れた
1533
ランキング
4274
★★★★☆ 3.5 (331)
物語
3.6
作画
3.8
声優
3.0
音楽
3.4
キャラ
3.5

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ラ ム ネ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 3.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ベタはベタなりに上手くベタることもできるはず。

 古本屋で本の題名を縦覧していると、「とある飛空士へと追憶」の一節に目が留まった。タイトルになにとない見覚えがあった。棚から引き出すと、紙質の柔らかな表紙が馴染むように手のひらでたわむ。真白の表紙で大きな瞳が、追憶がともされたようにして、海と入道雲と空の青みを映している。見開くと、ページの上に赤い血がこすれているのを見つけた。誰のだ、と思ったら、私の指から出ていた。そういえばさっき料理中に人参ごときで自傷していた。きっと人参ごときなどと言うから切ったのだ。「買えってか」ワンコインだから大した痛手ではない、切った指の方が文字通り痛手だ。許せない。レジの定員が本に付着した血を見てどう反応するかわくわくしたが、彼はそれをさっさと袋に突っ込み、私に顔も合わせずレシートを渡し、笑いもせずに高い声で「アリガトウゴザイマシター」と言ったから、どうも心地わるいままになってしまった。定員のせいではない。

 この原作本からの映画化に際しては失敗があり、それは物語の整合性を随所で欠損させてしまっているということです。そもそも文字言語の作品を、そのまま音声言語と視覚的な演出に拡張して時間内に補完させようとすることは難しい話しで、どうしてもオリジナルになりえるものです、当たり前のことですが。ジブリも原作忠実ではなく、原案をもとに独自的にその作品の枠を越えてオリジナルな映画ものとして完成させています。まず原作に忠実に、共有し、ただ物語の枠からは多少外れ、物語の世界観はもちろん残し、製作はほどほど独創的に、時間内に収めなくてはならないので、内容も圧縮させて適合させ、統一性、整合性をもたせなくてはなりません。しかしここで失敗しています。ウィキペディアに載っていましたが、何人かの製作上層部が原作を読んでいなく、監督もしっかりと整合性を把握していなかったとのこと。しかもそんなことが笑い話になっていたとかで。作画も音楽もいいのに、場面の移り方や音の挿し込まれ方がぎこちなかったり、すんなりと行きすぎたり、惹きつけられなかったり。基本が典型的な内容だろうと、それはそれでよいとして、だから些細なところが大切になって来て、繊密に練りあげてダイナミズムを含ませよう、子どもでも見られるようにしようとか、素人で考えられてしまえるのに、なにかあったんだろうか、やはりもったいないと思う。もっと時間を長くとって間が空けられたらよかったとも思う。小気味よく、たんたんたんたん進展していってしまうのに、こちらは感情移入もできないまま、なんとなくの雰囲気のなかで取り残される。もったいない。

 これは魅力的な物語でしかない。伝えたいこと、描きたいことはシンプルで、でもその簡潔さに人は憧れを抱くからいいとして、あとは細部と統一性。シンプルだからこそ細部の支えがいる。統一性は、地上サンマルティア、飛空一日目から五日目の段取りと、最終シーンの黄金の雨の別れでそれとなくまとまっている。問題は細部で、手を抜いたのか、これが惜しい。細部に疑念、矛盾が感じられ、整合性がないから違和感を覚えて、そんななんだかよくわからないものに、私は身をゆだねることができなかった。伝えたいことはシンプル、そのシンプルな流れに人を乗せられているか、伝えたいことが伝わっているか、飛行士シャルルの気にさせているか、次期皇妃ファナの気にさせているか、引き込みに成功しているか、されない。されるためには、多くのことに目をつぶらなくてはならないか、その細部に。まるで大きなものばかりに気を取られ、それを支える小さなことを忘れているような。んー。

 ラストシーン(ファナの引き渡しの辺りから)はよかったです、輝いてて。あれで随分と許容する。けっして細部が補完されたわけではないが、ダイナミズムってやるなあ。でもまあラストシーンはそういうもので、ジャァーン!!と壮大に終幕してくれれば、後腐れがなくすっきりして、よかった感じがするものです。
 主題歌がミュージカル女優の新妻聖子さんで、前々からファンだったので、ひとつ嬉しい点。歌詞はあまり、でしたが。

投稿 : 2016/03/25
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サンキュー:

8

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