sekimayori さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
子曰く、メディアの違いを理解せよ (訳:比叡山の僧兵と原作信者ほど厄介なものはない)
森見登美彦原作、京都を舞台に狸と天狗と人間が繰り広げる珍騒動と家族の絆を描くコメディ。
すごく真っ当に良質なアニメで、皆さんの評価が高いのも頷けます。
ただ、これは「PAworksの有頂天家族」であって、それ故に原作大好きな私としてはどうしても違和感が……。
表題の「メディアの違いを理解せよ」とは、アニメ・生徒会の一存で使用されそのブーメラン性ゆえに話題になった言葉です。
私はこの言葉を、アニメ製作陣に向かって呪詛のごとくぼそっと呟くべきか、それとも半紙に大書してトイレのドアの内側に飾り毎日数回自戒を込めて腹直筋を硬化させつつ唱えるべきか、放送終了後半年以上経った今も判断がつかずにいます。
原作信者の戯言で作品の印象を悪くするのは申し訳ないので重ねて書きますが、単体ではとてもよくまとまった良いアニメだと思います。
京都への憧憬を掻き立てる美しい背景、騒がしく個性豊かなキャラクターたち、しっかりとまとまった喜劇と家族愛溢れるストーリー。
魅力たっぷりです。
ただ、私自身がモリミー好きで原作信者なんですよね……。
有頂天家族は森見作品の中でも三本の指に入るくらい気に入っていて、印税という名のお布施もしっかり払い込んでいます。
詭弁と出まかせによって世の乙女の心を惑わせ、あまつさえ竹林で美女を見出しふはふはの結婚生活を送っている輩を、本を買うことで養っていると思うと憤懣やるかたないですが。
ちなみに私は『太陽の塔』こそがモリミーの最高傑作だと信じて疑わないタカ派です。
それはともかく、やはり登美彦氏の最大にしてほぼ唯一の武器たる、あのしかめつらしくくだくだしい地の文の魅力がごっそりそぎ落とされているのでは、「むぅ、なんか違うぞ」とハコフグのようになっちまうのです。
極論、プロットだけだったら万城目さんでも他の作家さんでも書いておかしくないというか、そこまで突出した面白さを備えてるわけではないようにも思えなくありません。
あの捻くれた文体があってこそ、キャラの心情の動きもより際立つのだと思いますし。
また、化物語とかでも感じましたが、小説の文章で読む会話のスピード感と、アニメでの音声での会話のスピード感の齟齬って、かなり作品への没入を妨げる気がします。
会話を目で読むスピードと耳で聞くスピードなら前者に圧倒的に分があって、会話の妙が瞬時に流れ込んでくる快感が違うし、音声だと自分好みに間を調節できない。
テンポの速い会話劇を映像・音声化する際の難しさを感じずにはいられません。
その意味で、物量作戦で森見の地の文を無理やり声優さんに喋り捲らせた四畳半製作陣の慧眼に私は脱帽した。
やはり、好きな作品のアニメ化に際して視聴者がどういう態度で臨むべきかというのは、アニメ好きとして抱え続ける命題なのでせう。
世界観が自分の中で出来上がってるものを取っ払って観るのって、ほんと難しいな。
しかし全くアニメのレビューになってないぞ、責任者はどこか。
というかごめんなさい。
【個人的指標】 72点