「千年女優(アニメ映画)」

総合得点
71.9
感想・評価
445
棚に入れた
2149
ランキング
1213
★★★★☆ 3.9 (445)
物語
3.9
作画
4.2
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

四畳半愛好家 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

『女優』という呪いにかけられた女の一生

 今敏監督作品。87分。

あらすじ:
 芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れる。
少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく…。(wikipediaより抜粋)

 今敏という奇才が作り出した映画を観たのは、恥ずかしながら『パプリカ』に次いで、まだ2作目なのですが(続けて『東京ゴッドファーザーズ』もすぐに観ましたが…)、本作には本当に圧倒されました。
 本当に細かい描写一つ一つに意味があるような作品であり、観終わった後、疑問が次々と出てくる様な、「難しい作品」でもありました。
 
 きっと観た人、一人ひとりが違う感想を抱けるような、ある意味で「鑑賞者次第」の作品であり、決して大衆向けの作品ではありませんでした。
 しかし、この描写の細かさや、込められている奥深さは、今敏監督にしか描けないと感じました。だからこそ、彼が若くして亡くなってしまったことが残念でなりません…。まだ生きていたら…彼の新作を待つのは本当に楽しかっただろうなぁ…。

以下ネタバレ付き考察(考察程のものでもない){netabare}
 
 観終わって「鍵は結局何を開けるものだったのか?」「あの老婆の呪いって何だったのか?」そして「千代子の最後のセリフは何を意味するのか?」等々、疑問点が多く残る、考察したくなる作品だったと思います。ここで以上の三つについて「自分なりに感じた事」を書いておきます。
 簡潔に言うと「女優として生きること」そのものが『呪い』であり、女優に呪われた女性の人生を描いた作品であったと思います。

①鍵は何を開けるものだったのか?
 具体的に何を開ける鍵であったかは、さして重要じゃないからこそ描かれなかったのだと思います。
 それ以上に、鍵そのものが彼女にとって「女優として生きる支え」であったように感じました。「鍵の君」に対する恋愛感情が女優を始めるきっかけであったことは嘘ではないと思います。「女優に呪われる前」の彼女は純真な存在だったと思うからです。正直、初恋だと気づいて赤面する彼女が嘘だとは思いたくない…。そして鍵は「きっかけ」であり、「演技をするためのトリガー」であり続けたように思います。
 この鍵が、30年芸能活動を休んだ彼女が、最後にもう一度インタビューを受け「演技をする」きっかけとなることからも、あながち間違っていないかと。

➁老婆の呪いとは?
 老婆の声優が70代の千代子と一緒だったことから、老婆は千代子自身である確率が高いと思います。彼女は千年間かなわぬ恋を続ける呪いを受けますが、これは単純に「千年間」という意味でなく、女優として時代を超え、あたかも千年の間、愛しの君を追ってひたすら走り続けた千代子の人生そのものを指していると考えられます。(今敏のブログから)
 個人的には「現代の千代子」が、若くてまだ「純真に」彼を愛していた若さを妬み、また、今後の「女優として生き続けていく人生」を憐れんでいるシーンだと感じました。

➂最後のセリフの意味
 このオチが賛否両論であるのは仕方ないと思います。なにせ「純愛ストーリー」から一転、「後味の悪い不気味なストーリー」に変貌を遂げるシーンであるので…。自分はこの後味の悪さは、奇異さを求めている今敏らしい物語だと思いました。この後味の悪さは彼なりの「正解」だったと思っています。

 ですが、「彼女は実は、鍵の君を愛してなどいなかった」と結論付けるのは違うのではないかと感じました。何より、若き彼女は女優になる際「本当は女優なんてどうでもよかった」と発言し、彼への愛が女優になるきっかけだったと語っています。個人的には、そこに嘘はないと思います。しかし、女優として生きていく中で、映画の中で様々な人生を体験し、様々な虚構の愛を経験していく中、「彼の顔を忘れ」、現実と映画の世界の区別がつかなくなる…彼女は「女優という呪い」にかかってしまったように思えるのです。
 彼女は呪われ、現実との区別も曖昧になっていく…だからこそ、彼女の過去語りは、映画と現実が混ざった奇妙で複雑なものになっているんだと思います。
 彼女はいつしか、「彼への愛」ではなく「彼を追いかけている映画の登場人物のような自分」を愛するほどに映画に憑かれてしまった。
 そして「彼を一途に追いかける自分」を死の直前まで演じることで、自分が未完のまま降板し、行方をくらませてしまった「宇宙の作品?」を最後の最後に自分の中で完成させて逝ったのだと思います。
 美しく終わる虚構の世界に憑りつかれた彼女が、綺麗な完結に向かってるはずの世界で思わず発した「女優らしからぬ」最後のセリフ…女優業に呪われていた彼女が、死の間際にようやく呪いから解放されて発した、彼女なりの本音の言葉だったのかと思います。
{/netabare}

投稿 : 2017/03/22
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サンキュー:

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