「ソードアート・オンライン(TVアニメ動画)」

総合得点
90.4
感想・評価
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棚に入れた
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ランキング
55
ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.9
物語 : 2.0 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 1.5 状態:観終わった

ゲームは一日一時間まで。

アニメーション制作:A-1 Pictures
2012年7月7日 - 2012年12月22日に放映された全25話のTVアニメ。
原作は、川原礫によるライトノベルです。
監督は、伊藤智彦。

【概要/あらすじ】

西暦2022年。VRマシンのヘッドギアを装着して脳に電気信号を送ることによって味覚や嗅覚まで再現されて、
バーチャルリアリティ技術が現実より遥かに発達したという世界観。
サーバーから送信されるデータを脳が受信することによって人工的に夢を作り出して、
ネット環境を介して不特定大人数で夢の世界を共有するという感覚に近いと言っていい。

VRMMORPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)

バーチャル・リアリティの技術で作られた仮想空間にVRマシンを用いてフルダイブすることによって、
プレイするタイプの新世代のMMORPGである。その臨場感は現実世界と比べても遜色が無く、
フルダイブマシンの技術性能を活かした世界初のRPG『ソードアート・オンライン』は発売前から人気が高く、
初回生産版1万本は即時完売。抽選に受かったものだけがプレイできるβテスト期間を経て、
発売日の6日後に正式サービスが開始。1万人のプレイヤーがログインしていた。
喜びに湧き、おっかなびっくり楽しんでいたプレイヤーたちであるが奇妙なことが一つ。
ログアウトボタンが存在しないのである。はじまりの街の広場に強制転移されるプレイヤーたち。
そこで、ローブを纏った巨大な人影のホログラムが空中に出現して全プレイヤーに語りかける。
人影は、VRマシンであるナーブギアの開発者でSAOの世界の創造主でもある茅場晶彦と自らを名乗り、

・プレイヤーによる自発的なログアウトは不可能。
・ゲームの中での死はプレイヤーも同時に電気信号で脳が破壊されて現実世界の肉体も死ぬ。
・最下層から開始して各層を攻略し第100層のボスを倒して誰かがゲームクリアすることで君たちはSAOから解放される。

みたいなことを宣言され、そしてプレイヤー全員が登録時に設定したアバターを剥ぎ取られて素顔にされる。
恐怖に惑うプレイヤーたちではあったが、その1万人の中にいた主人公のキリト(桐ヶ谷和人)は元βテスター。
βテスト期間中にやり込みプレイ済みのキリトは自らのSAO知識と経験に基づいて己のやるべきことを、
彼は横並びを避けてスタートダッシュで駆け上がることを考えて決めていた。これは自分の生命を賭けたゲームの世界。
攻略組のひとりとして最前線で戦うキリトは、やがて同じく攻略組であるアスナという美しい少女と出会う。

【感想】

ネットではファンもアンチも多いとして知られる作品。
オンラインゲームの世界にダイブしてリアルと同じ感覚で味わえる。
MMOの世界で主人公が様々なイベントを経てヒーローになる。
主人公だけの特別感があり、有象無象の周りのプレイヤーへの優越感がある。
冒険してネットで知り合ったバトルヒロインが、リアルでも同じ顔をした美少女であり主人公の嫁になる。
うん!これは男性のネトゲプレイヤーの夢と理想を形にしたものであり、そこが受けた要素に違いないですね。
しかし、これはデスゲーム抜きにしても現実に起こり得ない夢に過ぎない。フィクションは現実とは違う。
ネトゲの世界に没入しても、昼夜問わずの廃プレイ。諭吉さんが消えてゆく課金とガチャ。ストーカーなプレイヤー。
ギルド内の仲間割れ。姫扱いされる女性プレイヤーを巡るサークラにも似た疑似恋愛感情のイザコザ。
残されたものは虚無。得られるのは履歴書に何も書けず人事担当から尋ねられては気まずくなる空白期間のみ。

『時は金なり』
『光陰矢の如し』

失った時間は返ってこないのである。例えば二年間ネトゲに、はまったとする。
その間に、同世代の人間は学び働きリアルで恋人を作って人生を一歩一歩進んでいるのである。
ネトゲにはまった期間=人生のブランクであり、ネトゲの世界への憧れをアニメで助長したところで、
現実世界で生きて積み上げてきた人間の前では、興味も関心も持たれない。

『今まで何をやってきたんだ?』
『ネトゲで職を極めて漆黒の魔術師として英雄になりました。
 ギルマスとして数年間ギルドを運営・維持してきた実績があります。』

ゲームはリアルの息抜きの娯楽に過ぎず、そこで過ごした時間と経験と人脈を誇っても鼻で笑われるだけである。
作品のメッセージには、『碌でもない連中もいるけどネトゲは素晴らしい』とあるが、そこからに強い違和感を覚える。
外国を旅することを夢見て語学を学んだり、写真撮影に凝ったり、身体を鍛えたり、なんでもいい。
楽しくないこともあるだろうけど、作り物の世界でない本物の生命のある世界で過ごすほうが余程に有意義である。

さて、アニメを観たところの印象はキリトをゲーム主人公に見立てたヒロインとのイチャラブ要素のある3DRPGである。
ゲーム世界に閉じ込められた1万人を対象としたサバイバルゲームと思いきや、
アインクラッド篇は序盤の鬱イベントを消化した後はダイジェスト風味でキリト少年のレベルがマッハで加速していき、
二年間の成長の軌跡は、詳しく描写されていない。挫折・出逢い・友情・克服といった泥臭さは物語的には二の次で、
まるでキリト少年が数々の女の子と仲良くなる、特に本命のアスナとも絆を深めていくためにしつらえた展開。
キリトは美少女にモテモテなのに、あるカップルは互いに正体を偽ってて年齢詐称オジサンと女キャラ好きなネカマが、
イケメンと少女を演じていた。対してキリトは作中でも一番の美少女ヒロインのアスナと絆を深めるというのだから、
キリトとアスナのカップルを至上のものとして、引き立て役を配置することに余念が無い。

キリトが女の子と仲良くなるための前提として悪役たるサイコパスなゲームプレイヤーが介入してくることが多く、
普通の日本人だったはずの彼ら彼女らは常軌を逸した頭のおかしな連中として描かれている。
元から頭がおかしかったのか、ゲームに閉じ込められてるうちに精神に変調をきたしたのかは解らないが、
悪役は薄っぺらい。キリトに害意をもたない連中はモブ同然であり、
害意を持つ者は死んでもいい奴として醜悪に描かれている。
美少女たちは悪党から救われてキリトに惚れる役回りであるし、善意でかっこよく活躍するプレイヤーは、
キリト以外には存在しない。そう!このアニメは全てがキリトの活躍ありきの人物配置なのである。
キリトが女の子と仲良くなるフラグのためだけに創造されたゲスクズキャラが、やたらと目立つ。
場合によっては、そのクズキャラがアスナとイチャラブするための前座としてキリトに殺害されることもある。

キリトは女にだけ優しいしキリトの友人枠でもクラインとか武器屋の黒い人とか男相手だとキリトの態度が悪すぎる。
キリトは男女であからさまに態度を変えて女にだけ優しい。(大事なことなので二回言いました!)
ネトゲで実際に異性に粘着して嫉妬で暴れる男性プレイヤーを見てきたので、その点ではリアルなのかもしれない。

ヒロイン枠はキリトにしか惚れないし。男キャラはやたら好戦的な悪役、モブ、情けない奴と三種類しかいなくて、
対等のライバルとか背中を預けられる戦友がキリトにはいない。女との絆を深めるが男はどうでもいい存在なので、
男がキリトと本当の意味で仲良くなることはない。女はキリトに惚れる役。男の全部がキリトの引き立て役。
キリト以外の男キャラの扱いが本当に粗雑なので、そこは作者の趣味なのかもしれない。

このアニメには二人のボスが居るが、前半ボスは何を考えてるのかわからない理解不能な人物であるし、
後半ボスは陵辱ゲームに出てきそうな頭のおかしなNTRキャラである。こうしてみると人物描写が雑に思える。
前半ボスの茅場晶彦は謎の大物感を出そうとしているが人間味の欠片もないMADであるし、
後半ボスの須郷伸之の人格は理性が昆虫以下の性欲キャラである。要は役割しか存在しない空虚なキャラなのだ。
キリトの妹の直葉などの女の子を可愛く描こうとの試みには熱心ではあるが、
男性キャラが全く練り込まれておらず、扱いが軒並み石ころに等しいのは作者に疑念を投げかけるものである。

悪役は悪人で構わないのだが、悪には悪の華。クズのまま散っていくにせよ、魅力ある悪役というのは過去作には多い。
須郷と同く子安武人が演じるディオ・ブランドーは溢れる才気に釣り合わぬ人間としての器の小ささが魅力であったし、
非道なムスカ大佐には力に溺れた絶対悪の傲慢な人間の末路が見えた。
対して須郷の薄っぺらさは見苦しい以外の何の感情も湧いてこない。人間のエゴやサガでも無く只管に醜いだけである。
須郷にはキリトとアスナのラブラブを邪魔するNTRキチガイ以外の属性を何も与えられていないのだから、
キャラ付けが紙切れのように薄っぺらく人生を感じられないほどに雑で作者の操り人形にしか見えない。
『クロスアンジュ』のラスボスであるエンブリヲ様も大概に酷いNTR悪役であったが、
あっちは最低さが個性として輝き、須郷と違って笑える存在であったのでキャラ作りの差があるのかもしれない。

結局は、このアニメはオンラインゲームの世界で出会った人と人の絆で最終的な勝利を紡ぐのではなくて、
デジタルな世界で他のプレイヤーには絶対に起きない主人公特権のバグのような奇跡とチートが因となっている。
ネトゲの世界では全てのプレイヤーが機会が均等であるべしと思ってる自分には強く引っかかりを感じる。
特別なスキル、他人には起きないイベント、説明不能な加護。燃える展開として作者は考えたのだろうが、理に合わない。
データで管理されて不合理が起きないことが前提のゲーム世界での特別扱いは他プレイヤーから見えると、
改造コード使い・インチキ野郎との誹りを受けても免れ得ないものだからである。
アインクラッド篇で無情にも死んでいった4000人はデータのままにゲーム内で潰されて死んでいったのだから。

要は真面目に考えてはいけない。これはキリトを主役にしたエロのないエロゲRPGみたいなものである。
主人公・キリト以外の視点を持とうとせずに、彼がモテて活躍するのを純粋に楽しめる精神を持てれば、
主人公カップルと勧善懲悪と女の子キャラが可愛い以外に特に注視せずに観て喜べるのなら多分に面白いに違いない。
ストーリーがわかりやすいのは長所かも知れないが、あまりにも主人公のキリト本位過ぎるがために、
主人公に共感や感情移入できない人にとっては乾いた笑いが浮かぶアニメであるのには違いないに思った。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2017/10/24
閲覧 : 672
サンキュー:

77

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