「紅の豚(アニメ映画)」

総合得点
86.5
感想・評価
1212
棚に入れた
8040
ランキング
192
★★★★☆ 4.0 (1212)
物語
4.1
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
4.1

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ネタバレ

fuushin さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

中年ブタ野郎は、夢見るレディの賭けには負けない。

なんて看板を掲げられるくらい、ポルコは渋カッコいい。

滾るスピリッツと、惚れ惚れする腕前は、
フィオ嬢のためになら、フルスロットルで蒼天を突くのに、
ジーナの店では、宵闇の安穏にグラスを傾けるだけである。

彼が、下衆なブタ野郎を決め込み、
賞金稼ぎをしながら隠遁生活を送るのは、
ジーナが紡ぎえなかった孤愁へのエールであり、
愛憎さえも問答無用で断ち切る戦争へのレジスタンスなのだろう。



ポルコは、かつての友情に、誓いを固く立てている。
スゴ腕は、仲間との絆を切り裂く戦争には供しない。

ジーナの閉じた心を、抉ぐることになるからだ。
アドリア海の魅力に、今も虜になっているからだ。


彼は、強烈なナルシストで、
辛辣なニヒリストでもあり、
クールガイ気取りを足れりとする。

気取られちゃいけないのは、
希代のロマンチストであり、
無類のフェミニストであることだ。
 
そんな張りぼてを彼が被るのは、
祖国の振る舞いが、大空への憧れを台無しにしたからだ。

ジーナの歓びを、奪いとったからだ。
ジーナの幸せを、守れなかったからだ。

タマのやり取りの生々しさに、腐ってしまっているからだ。



ポルコのアイデンティティーは、祖国の英雄として創られている。
だからこそ、自分の痴れ台詞に、酔い痴れているフリをするのだ。

そんな道化を演じていなければ、
自分がしでかしてきたことに、半旗が掲げられないのだ。
そんな流儀を貫いていなければ、
戦争に加担した罪悪感に、真正面から向き合えないのだ。


誰も彼も、彼を酔わせることなどできっこない。
ジーナだって、そのことは十分に分かっている。

夜の帳のほんのひと時、喧騒から離れ、寡黙なエレジーに浸り込むのは、
綯交(ないま)ぜになったままの、愛と青春へのレクイエムの作法なのだ。

カーチスのちょっかいなぞ、酒のつまみにもならない、
甘っちょろいボクちゃん程度にしか思っていないのだ。




それがどうだ。フィオのヤツ。
まんまとカーチスの賭けに乗っちまって。
マンマユート団のやつらも踊りやがって。



誰にだって、夢と自由への真っ直ぐな若さがあったのさ。
ファシズムが、そいつをオトナの忠誠心に挿げ替えたのさ。

その顛末かい?
厚い友情も、仄かな恋心も、バラバラに引き裂いちまった。
  

飛行艇乗りなら、誰だって流した涙のわけを知っている。
だから、俺たちゃ国の勝ち負けなぞ知ったこっちゃない。

火の粉が身内にかかるのも、
火の海に故郷が燃え落ちるのも、
紅蓮の焔が全てを焼き尽くす世界を

空の上から、二度と生み出したくはないのさ。



下らない戦争は、乗り手を降らせる。
降った飛行機野郎の魂は、昇りつめてヒコーキ雲になる。

そこは、鎮魂の天国で
空を愛した漢どもの夢の行き着く果てさ。

そこは、静寂の地獄で
大地を汚した大罪をあがなうとわの檻さ。



だから、俺たち空賊や賞金稼ぎは、中空に茶番を演じてやってるのさ。

アドリアの空が大好きでしょうがなくて、
アドリアの海で遊びたくてしょうがなくて、

皆、心をガキのままにしてバカ野郎どもになったのさ。
皆、大人になれないバカ野郎どもに、夢を預けるのさ。

空賊ごっこの張りあいに、
精一杯の矜持の見せ合いに、

戦争の鬱屈した空気から逃れて、ひと息、気分を晴らすのさ。



俺たちは、青のカンバスに、白い航跡を引きながら、自由の息吹を謳歌するのさ。
自分の生きざまに、国境なんて無粋な境界を持ち込んで何になるっていうんだい。

ジーナの唄と、フィオの未来が、アドリア海の宝ってことなのさ。



賭けには何を賭ける?
漢の生きざまってやつさ。

勝ちの取り分は何かって?
好いたレディの微笑みさ。


・・・ああ、やっぱり漢は仕方のない生きものだなあ。


なら、
勇気は、フィオのために使おうか。
昔話を、ジーナの中庭で語ろうか。


紅の翼を、天上まで高く飛ばすなら、
そんな青臭い台詞がよく似合うってもんだろうよ。



飛ばねえ豚は、ただの豚だ。



長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

本作が、皆さまに愛されますように。

投稿 : 2019/08/22
閲覧 : 349
サンキュー:

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