「宇宙よりも遠い場所(TVアニメ動画)」

総合得点
93.4
感想・評価
2763
棚に入れた
9620
ランキング
12
★★★★★ 4.2 (2763)
物語
4.3
作画
4.1
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.2

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

青春の初期衝動、ハルカトオクへ

「僕らはどこまで行こう?」
子供のころ好きだった歌に、こんなが歌詞ありました。
最終話を観終えた今、脳裏にこのフレーズがリフレインして止みません。

高校生になったからには、何か新しいことをしてみたい。
そう思いつつも、臆病であと一歩を踏み出せなかった少女、キマリ。
周囲の後ろ指も意に介さず、母が愛した南極を目指す変人・報瀬(しらせ)と出会って、彼女の日々が変わり始める。
青春の初期衝動が詰まった、女子高生4人組の青春グラフィティ。

毎週、画面の前で笑い泣きしていました。
こういう出会いがあるからオリジナルアニメはやめられない。
かわいい女の子アニメ(いわゆるCGDCT)ではあるし、エモーショナルな作風は好き嫌いが分かれるかもしれない。
でも、青春ものやロードムービー、映画でいえば『LIFE!』あたりが好きな方には、一見を勧めたい一作。

以下ネタバレ込みの感想、超長い。
{netabare}
■総論
こんにちは!
皆さんのベストガールは誰ですか?!
僕は報瀬が好きです!
姫カットでスタイル良いのにルサンチマン抱えたポンコツ女子高生って属性盛り過ぎだろもっとよこせ!

はい、萌えトークをあいさつに代えたところで。
真面目に全体を語るために、最終話の感想から入りましょう。
12話で、母が宇宙よりも遠い場所に旅立ったことを実感した報瀬。
その残酷な事実によって、彼女の止まっていた時計が、ついに動き出しました。
それを受けた13話。
私事で恐縮だけど、12話の視聴メモに「よどみの中で蓄えた力は爆発して、全てが動き出す。つないだ絆を携えて、彼女たちはどこへ向かうのか。」と書いたんです。
次に彼女たちが踏み出す場所、そこを定めるドラマチックなエピソードになるかもという期待があった。
でも、実際の13話はたぶん、シリーズ中最も静かな話数でした。
昭和基地での日常(あとやっぱり野球w)、南極への別れと、帰宅。
演出やセリフの機微にずっと目は潤んでいたけど、起きた出来事は、迎えるべくして迎えた旅の終わりと日常への回帰。
そして今なら、それでよかった、それがよかったと、断言できる。

本作は、日常と非日常を巡り巡る、「行きて帰りし物語」でした。
(※「行きて帰りし物語」:主人公が日常から離れた異界へ赴き、そこでの冒険を経て帰ってくる、という基本的な物語形式)
日常の中で心に「よどんだ水」のようなわだかまりを抱える少女たちが、非日常へと踏み出し、モヤモヤとの決着をつけて、日常へ戻ってくる。
日向の非日常は、信じられる同年代の仲間と過ごすこと。
結月の非日常は、今までいなかった友達との営みを体験すること。
報瀬の非日常は、母の死を受け入れられず漠然と待ち続ける日々から抜け出すこと。
そしてキマリの非日常は、日常から一歩踏み出したことそれ自体。
それらの非日常の総体が、南極に赴くことでした。
非日常で各々の日常を克服した4人は、また日常に帰ってきます。

13話終盤、キマリは羽田空港で、「ここで別れよう」と言い出しました。
繋いだ絆の確かさを実感させると同時に、4人にそれぞれ別の日常があることを示すシーン。
それに引き続くシークエンスで、日常の意味を変化させます。
普段生きている日常も、ありふれたものではなくて。
毎日、少しずつ変わり続けていて。
新しい何かは、そこら中にあふれていて。
日常と非日常の障壁なんて、本当は存在しない。
いつでも、どこでも、踏み出せる一歩は目の前にある。
そのうえで、北極圏に旅立っためぐっちゃんの姿が映されました。
キマリとの対比で、自分から動き出せなかった(あまつさえ邪魔しようとさえした)彼女。
画面の前で動き出した4人を眺めるだけの視聴者のメタファーとも取れます。
そんな彼女が、一歩踏み出した。
画面の前のみなさんは、どうですか。
ここに至って、本作は、4人の青春劇を安全圏から消費するだけの娯楽品ではなく、観た者への強い問いかけを秘めた物語として屹立したように思います。

さあ、僕らはどこまで行こう?
目的地は、宇宙よりも遠い場所じゃなくてかまわない。
日常からほんの少し、One Stepを踏み出す先が、きっと僕らのハルカトオク。
そしてまた、帰って来よう。
「時間ない」「めんどくさい」「きっと無理」、そんな言葉でよどんでいた心を、「ここから、ここから」と、そっと背中を押してくれる。
名作です。

総論と題したのに、ほぼ最終話のみのレビューになってしまいました。
「ここから一歩踏み出そう」、そんな青春の初期衝動というテーマの一端を、捕まえていられればいいのですが。
もう一つのテーマ、友情については、他の方が大いに語って下さるはず。
ね。
二つだけ、まず、人間関係に伴う障害や不器用さ、許し合う関係ともう許せない関係、どす暗い感情も逃げずに描いてくれたことは、友情物語として非常に真摯だったと感じます。
もう一点、日常と非日常の境界をとっぱらったことは、逆説的には日常のモヤモヤはいつまでもついて回ることをも意味しますが、離れていても分かり合えた仲間がいるなら怖くない、という希望も見せてくれたのは、単純に嬉しくなった。

(´・ω・`)歯が浮くような文章、南極の空に昇天するくらい恥ずかしいですね。
(´・ω・`)え、「お前の逝く場所は天空じゃなくて地獄だぞ萌え豚野郎」?
(;´・ω・)アッハイ

■各論
なるべく手短に。
ストーリーの語り口も素晴らしかったです。
各エピソード、30分間で厚みを失わずしっかり完結するドラマ。
ドラマを重く感じさせない、メイン4人のポンコツなキャラ付けとドタバタコメディ。
ドラマとコメディを空中分解させないバランスで詰め込み、伏線もしっかりと貼り切った脚本。
そして、語るべきところは大いに語り、語るべきでないところは静かに絵で見せる、視聴者を信頼した演出。
1話30分×13話、点としての美しい完成度と、線が繋がるゆえの感動を両立してくれました。
他の媒体ではなしえない、オリジナル連続アニメだからこその可能性を、まざまざと見せつけてくれた爽快さが残ります。
特に好きな話数は3,5,7,12,13…ってこれほぼ半分やん(´・ω・`)

細部を言えば、深い色合いを湛え、なぜか背筋をざわめかせる極地の風景美術。
挿入歌の使い方やEDの入り方と言った楽曲演出。
作品を屋台骨として支えた、メイン4人組のキャストの熱演(コメディエンヌ花澤、無敵すぎる)。
いずれも非常に印象的でした。


■不満
あえて書くなら、以下の3点。
①8話のクライマックスは過度に危険に思えた。
②花澤さん以外の演技が、ごく稀に(萌え日常系方面に)過剰に聞こえた。
そして、③大人組の研究内容(=南極にいる理由)ももう少し見たかった。
南極を題材に採った意義にも関わるし、大人たちのリベンジと鎮魂と、何より彼ら彼女らにとっての青春の物語でもあったので。
例えば10話の結月のエピソード、4人組のドタバタは少し削ってお仕事紹介に充てられたはず(キマリとめぐっちゃんのエピソードと絡み合ってるので、もちろん主軸は残しつつ)。
まあ、映画『南極料理人』見ればある程度補完できるけどね!←ステマ


■圧倒的蛇足、読まなくていい(別所で9話についての議論を目にしてしまったので)
{netabare}昭和基地の割当てについてのエピソードは、単純に事実として、敗戦国の外交力の低さが南極研究にも波及したよね、それに対して当時の関係者は奮起したよねって話。
昔の『プロジェクトX』ノリ。
南極が過去に領土的野心の対象だった(→南極条約で平和利用に転換)ことは承知のうえで、批判にせよ称揚にせよ、作品の意図を即座にイデオロギーと結びつけて解釈する方は、少なくとも私とはヤベーくらい感性が違うなと。
日本の派遣隊は他国に何度も助けられたことがあるそうなので、諸外国vs日本という対立軸を作ってしまうようなセリフ回しだけは、確かに残念だったと思う。 {/netabare}
{/netabare}

91点

投稿 : 2018/04/01
閲覧 : 398
サンキュー:

42

宇宙よりも遠い場所のレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
宇宙よりも遠い場所のレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

sekimayoriが他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ