「亡念のザムド(TVアニメ動画)」

総合得点
70.7
感想・評価
794
棚に入れた
4553
ランキング
1455
★★★★☆ 3.8 (794)
物語
3.7
作画
4.0
声優
3.7
音楽
3.9
キャラ
3.7

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ネタバレ

カンタダ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.2
物語 : 2.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 2.0 状態:観終わった

名作を目指した凡作

ネット上でこの作品のオープニングを観たので、なんだか面白そうだと視聴した。見始めて数分、かなりの既視感に襲われる。どこかで見たことあるな・・・。いや、世界観やキャラクターデザインもさることながら、私はストーリーを知っていたのだ。どうやら以前に観たことがあるようだ。しかし内容がまったく思い出せない。私は観たアニメや映画、読んだ漫画や小説の内容はたいてい覚えている。が、思い出せなかった。要するに、この作品の評価は「印象に残らない作品」ということだ。

それでも忘れているのなら、また楽しめられるのなら、それはそれで幸い。高い作画力と素晴らしいオープニングも相まって、さくさく観ていた。前半までは。問題は後半からだった。前半は主人公と彼を取りまく人間関係に焦点が当てられて、今後の展開に期待できた。が、親友のフルイチがいなくなった後は、物語の焦点は世界に移った途端に、俄然退屈になってくる。

なにがいけないのか。端的に言えば、脚本の拙さだろう。まずご都合主義が散見され、登場人物らが脚本の都合に合わせて時と場所に、どんぴしゃりで登場する。それはないだろうと何度も突っ込みを入れたくなる。

そして独りよがりでキザな台詞回し。どうにかして名場面、名台詞を生み出そうと必死になっている脚本家の顔が浮かぶようだ。しかし実際には大した意味を持たない言葉の羅列に終わってしまっているのが痛い。伊舟の台詞の「言葉はいつも心に足りない」、その通りになってしまっている。

そしてなにより、作品を通して作り手が伝えようとする、その主題の幼稚と矛盾だ。本作全話でよく聞く台詞に「生きていれば・・・」「生きてさえいれば・・・」というものがある。とても耳触りのいい言葉だが、その言葉の根底には「死の否定」がある。

生を肯定し、死を否定することの、なにがいけないのか。いや、悪いわけではない。が、この考えには「生」以上の価値を認めないという、狭隘な価値観が底にある。もし一度でも真剣に己の「生」を考えたことのある人なら、かならず「どう生きるか」、「なにのために生きるか」という問いにぶつかるものだ。

それは「なにのために死ねるか」という問いに直結する。自分のために生きるのならば、自分のためには死ねない。死んでしまっては、それこそお仕舞い、それ以降、自分のためには生きられないからだ。しかし、たとえば、愛する人のために生きるならば、愛する人のために死ねる。それは人に限らない。社会や国や、あるいは大義のために生きることは可能だ。

生きてさえいればいい、という考えは、生きられるなら、なんでもいい、なんでもする、なにをしてもいい、という考えに繋がる危険がある。死なないために、生命以外のすべてを差し出せる。それは財産、正義、人権、家族、誇り、恋人などに限らない、すべてだ。これに対して、なにかのために死ねる人は、その一線を文字通り死守する。

さすがに財産のために死ぬのは、褒められたものではないが、愛する家族や恋人を守るためなら命をかけても構わない人は少なくないはずだし、なにより格好いい。物語で観たいものは、こういうものなのだ。アキユキが死にたくないと、ハルを見捨てるような展開など誰も見たくない。それを主題では肯定し、物語の展開のうえでは否定している。そういう矛盾が本作品の最大の失敗なのだ。

視聴者の混乱や理解できなかった理由もここにある。生命至上主義は自己犠牲を嫌う。が、自己犠牲は、独りよがりに陥らない限り、人間の行い得る、数少ない道徳上最高の行為と言っていい。人々が感動するのも、それが美しい行為だからだ。しかし、「生きろ」を連呼する本作はこれを否定している。

にもかかわらず、登場人物らのやっていることは、紛れもなく自己犠牲だ。もし、生命至上主義を最後には否定する意味で、「生きろ」と言っているのならこんな混乱は起きなかっただろう。が、そうはならずに終わってしまったために、なにをしたかったのかわからない作品、つまり凡作に終わってしまったのだろう。

私の記憶に残らなかったのも道理だ。なぜなら作品自体が自己矛盾し、なにを伝えたいのかわかっていないからだ。無理に背伸びなどせず、自分の身にあった、わかることだけを主題に選べば、あるいは名作になり得たかもしれないのに。

投稿 : 2018/10/27
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サンキュー:

6

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