「さよならの朝に約束の花をかざろう(アニメ映画)」

総合得点
88.9
感想・評価
651
棚に入れた
3475
ランキング
93
★★★★★ 4.2 (651)
物語
4.2
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

カンタダ さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.5
物語 : 1.5 作画 : 4.0 声優 : 2.0 音楽 : 3.0 キャラ : 2.0 状態:観終わった

演出>物語

他のレビューでも指摘されているように、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇場版だと見ていい。各所に涙を絞ろうとする演出に溢れている。その演出重視の姿勢が、物語と登場人物の人格の整合性とを、無視できない程度にまで犠牲にしてしまっている。

要するにアニメに散見されるご都合主義が、悪い形で表現されてしまっている。私としてはご都合主義、それ自体は否定しない。それが演出として成功している、つまり、面白ければ許されると思っているからだ。が、本作はそうではない。

展開される物語の各出来事が、それぞれ別の場所で起こっているにもかかわらず、主人公のマキアは、なぜかかならずそこに現れている。それが何度も繰り返されると、さすがに「いくらなんでも、それは・・・」と突っ込みを入れたくなる気持ちが抑えられない。

そしてそこで繰り広げる演出はといえば、決まってお涙頂戴なのだから、さすがに辟易させられてしまう。明らかな過剰演出だ。監督の「こういうのが泣けるでしょう?お好きでしょう?泣けるでしょう?さあ、泣いてください」と言われながら観ている。そんな気分にさせられて、泣けるものも泣けない。

この演出のくどさ、どこかで観たことがある。ああ、そうか。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のラストの隠れんぼに共通するところがある。と、思ったら案の定、脚本が同じ人だった。今後、この人の作品は敬して遠ざけよう、と思ってしまう作品になった。「true tears」は好きだったが・・・。

{netabare}さて、結局のところ本作はなにを伝えたかったのか。親子愛かと思えば、どうもそうではない。そもそも本作から監督が育児の経験がないことが窺えてしまう。それは、すこしでも育児に関わった人なら感じることだろう。

それに成長したエリアルはマキアに対して、親子の情だけでなく恋愛感情まで抱いていることからも、それは自明だろう。いや、そういう人だっているかもしれない。しかし、万人に共通する話ではないので、そんなことをわざわざ映画にする必要はない。ドキュメンタリーで済む話だ。

おそらく出会い(生)と別れ(死)とが持つ、喜びと悲しみを表現したかったのだろう。そしてそこから生起する美しいもの、つまり愛を感動的に描きたかったに違いない。が、そこで失敗してしまった作品なのだろう。

なぜなら、人を感動させるには、人がもともと持っている共感する能力を呼び起こさなければならない。人が自然に善いと思うもの、美しいと思うもの、真実だと思うもの、それらに少しでも嘘を、言い換えれば、不自然なものを感得してしまえば、込み上げてくる感動を大きく損なってしまうものだ。

この作品における嘘は、その過剰な演出、つまりは虚飾だ。愛を過剰に飾り立てるのは、陶酔を目的としているためだ。愛の自然な美しさから、さらにデコレーションを施せば、不自然なものになる。不自然であれば、それは嘘であり、虚である。それに陶酔することは偽であるから醜い。

どれほど精緻に作られた造花でも、それが偽物であり自然ではないとわかってしまえば、感心はしても感動は起こらない。そこに生きているという真実がないからだ。この作品にも同じことが言える。つくり手の生命の宿らない作品、要するにつくり手の精神が乗り移らない作品には感動できないのだ。{/netabare}

褒めたい点も書いておこう。ヴァイオレット・エヴァーガーデンでもそうだったが、映像は美しく描かれている。とはいえ、人を感動させるのに、かならずしも映像は綺麗である必要はない。むしろ、邪魔になることさえある。たとえば「火垂るの墓」の節子を火葬したあとに乱舞する蛍の場面などもその好例だろう。あれは一匹のほうが、よほど心に残っただろう。

あとは、細かいところだが、町や家の外観や内装に表れるのセンスの良さだ。世界観を構築するのに、こういった小道具的な存在はとても重要な役割を果たしている。これから観ようとする人がいれば、そこにも留意して観ることをお勧めしたい。

投稿 : 2018/11/04
閲覧 : 261
サンキュー:

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