「PERFECT BLUE -パーフェクトブルー(アニメ映画)」

総合得点
77.9
感想・評価
647
棚に入れた
3017
ランキング
574
★★★★☆ 3.9 (647)
物語
4.2
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

サイコスリラー。

【概要】

アニメーション制作:マッドハウス
カナダでは1997年7月、日本では1998年2月28日に公開された劇場アニメ。
原作は、竹内義和による小説の『パーフェクト・ブルー 完全変態』
監督は、今敏。

【あらすじ】

主人公である霧越未麻は、トリオのアイドルグループ「CHAM」で2年間活動していたが、
ドラマにちょい役で出演するようになり、連ドラのレギュラーを打診されたのをチャンスにと、
アイドルのままだと頭打ちだと考えた事務所の社長・田所の方針に流されるがままに、
アイドルグループを脱退・卒業しての女優への転身をステージで発表。
そのことで、【裏切り者】と脅迫のFAXが未麻の自宅に届く。

女優業に専念の未麻であったが、アイドルのイメージが強すぎて使いづらく、
当初は台詞が一言だけだったり数カットの出番のみの端役。
歌をアイドルを辞めてまで、こんなので良いのか?とマネージャーのルミは不満を顕にする。
事務所の社長・田所の営業により、未麻のアイドルのイメージから脱皮を企図した路線を模索。
そんなときに、未麻宛に送られてきた手紙が爆発して、
開封しようとした社長が手に怪我を負う事件が起きる。

一方で、何者かが自分になりすまして「未麻の部屋」というホームページを運営していることを、
ファンレターで知った未麻は、パソコンを購入してルミに設定をしてもらい、
いざそのページを見てみると、詳細に未麻を調べているなりきりどころか、
未麻本人しか知り得ない日常生活がつぶさに書かれていることに、
自分は監視されているのではないか?との恐怖を未麻は感じる。

未麻は女優としての活動が上手く行ってないことや、
自分が抜けてデュオになった「CHAM」の人気があがってきたことで、
現実とは逆にアイドルを続けている自分の妄想に一瞬囚われたりする。

ドラマの中で暴行される性的に過激なシーンを演じたことで注目を浴びて、
女優業が軌道に乗って人気が出始めた未麻。

だが、これは本当に自分がやりたかったこと違う!と、
未麻は強いストレスを感じて、アイドル時代の自分の幻覚を見るようになる。

取材のカメラの前ではアレは仕事だと割り切った女優を演じる未麻。
だが、未麻の前にアイドル未麻の幻覚が現れて、
本当は今でもアイドルに戻りたいと思ってるけど汚れちゃった!と未麻をからかう。
そんな幻覚を必死に否定する未麻ではあったが、どちらが本当の未麻の心なのだろうか?

そんな折に、未麻の過激なシーンを書いたドラマの脚本家の渋谷貴雄を始めとして、
続いて、未麻のヘアヌード写真を撮影したカメラマンの村野など、
アイドル時代の未麻のイメージを壊す仕事をした業界人が殺される事件が続発するのだった。

【感想】

『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦艦ナデシコ』らより後に制作されたのに、
絵柄のせいか、発表年代より古臭く感じられる作品。

このアニメの製作者であり、2010年に46歳で亡くなった今敏監督といえば漫画家出身であり、
大友克洋氏のアシスタントを経てからアニメ業界に入っただけあって画力が堪能。
そのまま絵として商品になりそうなぐらい背景にいたるまでコンテをびっちり描き込むのは、
完璧主義者なのかな? アニメーター視点では、指示がはっきりしていて仕事しやすいのか、
ここまで描かなくて良いんじゃない?と思ったのか、ちょっと聞いてみたいですね。

今敏作品では、監督は漫画家先生でスタッフはアシスタントみたいな関係かな?
で、アニメ作品を数多くの才能の競作の結果として見るよりも、
監督のクリエイターとしての我や個性の強さを尊ぶ類のアニメファンからは、
宮崎駿や押井守と並んで評価されているアニメ演出家の一人であると思います。

氏のこだわりの一つである背景のリアリティは、20世紀末の時代感を醸し出していますね。
ですが、未麻の私室のテレビやデスクトップパソコンのモニターのノートパソコンみたいな、
そのサイズに、え?当時ここまでブラウン管ディスプレイは小さかったっけ?
と今の液晶モニターに慣れてると、記憶を掘り返してみたくなりますね。

さて、90年代後半当時は現実では安室奈美恵、深田恭子、広末涼子らが大人気だった時代。
アーティストであったり、女優業がメインの人気タレントであった彼女らと比べると、
アニメとはいえ、アイドルとしての未麻は昭和を引きずってて古臭い。
岩男潤子さんのアイドル喋りもぶりぶりして気持ち悪いなと思ったり。

アナクロ過ぎるアイドル像の未麻に、これがリアリティ?と思ったりもしたのですが、
創作の物語の世界では、例えば戦国時代ドラマでは、
作品ごとに石田三成が良い人だったり悪役だったり毀誉褒貶が激しいように、
作品で表現したいシナリオやテーマに沿って人間の描き方が変化するものです。

今敏作品を数本観たところでは、監督の描きたい世界観がそうなのか、

『古くさいというより、古びた価値観にいまだに憬れているのかもしれないが。』

と本人の言葉にあるとおりに、『千年女優』で古き良き昭和を情緒的に描くいっぽうで、
平成の時代の人間模様を、性別や年齢に関わりなく薄暗く描く傾向が強いですね。

このアニメにしても、もともと芸能界に対して含むところが監督にあるために、
ウケ狙いで低俗に走りタレントを消費する安直なTV業界であると批判気味に描いており、
まともな神経ではついていけない場所。アイドルとて生々しいただの人間であって、
少なくとも「CHAM」はファンが憧れる可愛くて眩しい特別な存在でもないですし、
だからこそステージの上でも客を魅了するカリスマ性のかけらもなく、
ぱっとしないあまり売れてない時代遅れの凡庸なアイドルの未麻が、
話題作りで注目を集めて事件を経て大人の女優に脱皮する。
そんなコンセプトでキャラが作られていますね。
だから、岩男潤子さんの演技は最初は過剰なまでにぶりっ子気味ながらも、
女優になるにつれて、サスペンスシーンなどで甘さが抜けた演じ分けがされています。

アイドルのファンも、先鋭化した一部の厄介衆でなくても冴えないオタク衆って感じで、
アイドルオタクが、90年代タッチの眼球が異様に大きい萌え絵のアニメポスターが貼られた、
オタクショップに入ってアイドルを上から目線でDisったりしながら駄弁っているシーンなど、
美少女アニメやオタク文化に対してのネガティブさに溢れていますね。
同氏の他の作品を見ても、萌え文化に対する抵抗感が表れていて、
そこらあたりは、漫画『編集王』の原作者の土田世紀氏に感性が似ていますね。

実際のところ一部のオタクは作品で描かれているとおりであって、
アニメが対象の場合はtwitterではあまり見かけませんが、
売れていようが売れていまいが自分の思い通りのものと違うだけで正論と自称して、
ク○扱いしてネットの掲示板で叩きに熱中するマニアのたちの悪さと似たりよったりで、
この手の連中のネガティブな支配欲をよく見ているなと感じました。

自称アイドルファンも決してアイドルの味方ではなくて、
自分が満足するためにアイドルを応援してお金を払って消費していく存在。
だからこそイベントに来るファンの期待を裏切ってアイドルを卒業した未麻と、
アイドル未麻を見られないことに落胆して辛口になる元ファンの意識のズレが何度も描かれている。

この作品内での事情では、ファンや周囲の業界人の感情の押し付け、理想と現実のギャップで、
アイドルでなくなった未麻の葛藤の材料になっている…といったふうに、
と、すべての配役やシナリオを計算して作ってる、
汚しなどにこだわったジオラママニアみたいな凝り性な監督に思いますね。

それが美学なのか、他の作品を見てもキャラの造形はまず否定から入る。
それは歯の形であったり、目つきであったりの歪さで、人柄が外面に表れる。
しょーもない人たちであることを前提に、この作品では不気味さを、
コメディである別作品ではユーモラスであるなどと、役割をトッピングする形。

ですので、個人的にはキャラに興味持ったり好きになることも無いのが常ですね。

未来に可能性を夢見て生きる若者に『人生は甘っちょろくない』と、
冷水をぶっかけるみたいなのが今敏氏の作風。人間はきれいな存在でもない。
何年も付き合いのある仲間らでも情誼が厚くなかったりで、馴れ合いも自己満足。
また、重すぎる感情は押し付けや足かせにしかならない。
自他の区別をつけて、人間は程々が一番に見えたりもする世界。

生きていくのに仕事や生活に必死な者は、
泥と汗にまみれて辛酸を嘗めてその日その日を凌いでいる。
弱さ故に道を踏み外し、容易にクズとして転がり落ちる。
ホームレスなどを数々の作品で好んで登場人物に用いもする。
かと言って成功してる人たちも、まっとうな人種でないケースが多い。
といったおじさん目線の世界観で人間模様を蟻の行列のように観察する。

そんな世界でささやかな幸運を掴んだり苦労や危険を乗り越えようともがくという物語で、
うまく行かないことが本当に多いというオチ。目指しているのはヒューマンドラマですよね。

それがサイコサスペンスである当作品であれ、
人情物である『東京ゴッドファーザーズ』であれ、
そういう人間模様を泥も汚れも楽しむ娯楽作品として頷ける人には、
面白いものであるかもしれませんね。

この『パーフェクトブルー』では、業界の汚れや歪んだ愛情や執着心にさらされて、
どんどんヒロインの未麻が精神的に追い詰められておかしくなって、
「現実と虚構の曖昧さ」や「理想と現実のギャップ」で、
本人の認識する世界が、どこまで現実でどこからが幻覚なのか区別がつかなくなる、
と異常な状態を表現した映像世界に視聴者がどっぷり浸って楽しめるかが全てでしょう。

連続殺人事件の真犯人が誰なのか?などの予備知識無しで視聴した場合のみ、
計算されたシナリオと演出が、出口のない迷路であるかのように、
映像の緊迫感に引き込まれて楽しめるかもしれませんね。

監督のリアリズムゆえにこだわりに溢れた作品ですが、
あくまでも人間の心がもたらす狂気を楽しむエンターテイメントであって、
この作品はドキュメンタリーではありませんね。

だって、真犯人の動機とか奇行とか常軌を逸していてリアルじゃないですから。
フィクションはフィクションとして、クリエイターの作りたい世界が、
どのように表現されているか?千差万別でこれはこれで面白いとは思いますけどね。

そこらも含めて人間のブラックな部分やホラーさをB級娯楽として理解した上で、
観てる人は楽しめたら良いなと思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2021/01/06
閲覧 : 305
サンキュー:

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