「千年女優(アニメ映画)」

総合得点
71.9
感想・評価
445
棚に入れた
2149
ランキング
1213
★★★★☆ 3.9 (445)
物語
3.9
作画
4.2
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

好みじゃなかった。

【概要】

アニメーション制作:マッドハウス、ジェンコ
2002年9月14日に公開されたオリジナル劇場アニメ。
監督は、今敏。

【あらすじ】

映像制作会社の社長で60歳になる立花源也は、若い頃は映画会社「銀映」に所属していた。

その「銀映」が老朽化した撮影所の閉鎖・解体となり、創立70周年のメモリアルとして、
立花が熱烈な大ファンであり、30年前に引退した映画全盛期の看板大女優・藤原千代子、
この物語の主人公である彼女の足跡をたどる企画で取材を申し込み、了承を得た。

千代子は芸能界を引退して隠棲しており、
取材を受け付けるのも30年ぶりとのことであった。

カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れた源也。
源也は取材の際に小さな箱を千代子に差し出した。
中に入っていたのは昔拾った鍵であり「銀映」時代の千代子が失くした大切なもので、
源也も送り先がわからずに保管していたという。

千代子は鍵を手に取り懐かしみ、自分の過去を語りだした。
彼女の記憶の中の生涯と映画の世界が今と混ざり合い、どこまでが現実なのか?
源也たちは、幻想世界(千代子の半生と映画が混ざり合った世界)の配役として、
彼女の物語に参加しているのだった。

【感想】

1923年の関東大震災と同時に生まれた少女が一期一会の短い出会いで恋をして、
そして離れ離れになってしまった名前を知らない「あの人」を追いかけ続けるために、
女優になり、やがて大スターとなった藤原千代子の生涯を、
少女期・おとな時代・老年期と3人1役で綴った話。
取材で姿を見せた千代子は美しく老いて品があり、
少女期から70歳を超えた現代に至るまで順繰りに時代時代の姿の変化を見せながら、
古き良き昭和のノスタルジーを表現するのが中心なのかな?
との視聴前の予想は半分はハズレ。

実際は、姫や忍者や遊女など銀幕女優時代に千代子が演じたキャラと作品世界を借りて、
目まぐるしく七変化を繰り返しながら、会いたい人への一途な思いを表現していくのを、
取材の二人が時には見守り時には首を突っ込むメタ構造。

演出のやり方に才能・素晴らしい独自性とよく讃えられるのですが、
現在と過去と映画の世界の境目を曖昧にして、次々と舞台を変化していくやり方は、
『うる星やつら』の『ビューティフル・ドリーマー』と『ラム・ザ・フォーエバー』
での夢と現実の話を視聴済みですので、個人的には新味を感じられなかったりします。

ヒロインの会いたいけど会えない積年の切ない想いが芯にあるわけですが、
逃亡犯となった想い人である「あの人」の出番がごく僅かである一方で、
映画の幻想世界の先々で敵と相まみえる千代子に源也が助太刀をしては、
千代子は源也らを置いて行っては「あの人」に会いに一つ先の世界に入っていくの繰り返し。
そこは作り話の映像化で可笑しみを潤滑油として受け入れられる人には楽しいのでしょうけど、
それがコメディチックで茶番に見えてしまい、千代子の物語に対してはノイズでした。

今敏作品でのキャラ同士の掛け合いは人の純朴さや善意での情緒の成分が薄く、
どちらかというと人間関係の不協和音やミステリー成分で引っ張るというパターンが多め。

『千年女優』でも、千代子→鍵の人、源也→千代子への思慕はともかくとして、
欲望や嫉妬などネガティブな感情に人生を弄ばれる千代子という形で、
それらを経た後に結局は「あの人」と会えたのか?
絵の具箱のものに違いない鍵を正体不明ということにした物語上の意味は?
などと、どういうオチを見せるのか?と、謎を引っ張りに引っ張ったのですが、

この物語で結局やりたかったことは、千代子の最後のセリフに集約されていて、
もともとは恋愛物語ではなくて、千代子の行動原理や生き方の話に落ち着いていますね。
一生をかけてなにかしらの役割を演じる人生に美学を見出したりする、
そういう作品なのでしょうか?鍵を肌身離さず身につけて、
「鍵の人」との再会の約束を守ることを固く心に持ち続け、
「鍵の人」への想いを投影することで演技に彼女の心を込める。
それが彼女の女優として生きるエネルギー源だった。

だが撮影中に、大女優と呼ばれてはいるものの40代の現実の自分の姿を見て、
「鍵の人」と出会った頃のうら若き乙女でない、歳を重ねた姿を見られたくない事を実感して、
鍵をその場に残して撮影場から逃げて芸能界からそのまま引退してしまった。
千代子の「鍵の人」への想いとは結局は純然たる恋愛という話ではなく、
ただの女学生だった千代子を女優という生き物に変えるのに不可欠なパーツだった。
だからこそ彼の前の再び立つモチベが年齢で失われたときに女優である理由が消滅してしまった。
そして、源也によって鍵が自分の手に戻ったことで女優だったときの心が30年ぶりに蘇った。
というふうに、非常に内向きな精神の話。

それらに、『千年女優』という言葉の意味を千代子に当てはめて、得心するのですが、
結果よりも千代子の人生という物語の過程のひとつひとつに面白さを感じて、
更にはこの作品の結末にスッキリできた人には良い作品であったとは思います。

ただ、自分の場合は対話などのつながりで人間関係を構築して、
ストーリーを膨らませていくタイプの群像劇が好みですので、
結局、これは千代子が「鍵の人」を鏡にしたナルシズムに基づく人生の話であるという解釈で、
今敏作品共通の他人との精神的つながりの希薄さも手伝ってあまり感動しなかったのが、
見て正直に感じたところでした。

それにしても、今敏作品って心が病んでたり闇を抱えてる登場人物が多いですね。
そこも含めて持ち味。クリエイターによって個性は様々で面白いなとは思いました。


これにて感想を終わります。

投稿 : 2021/01/08
閲覧 : 267
サンキュー:

28

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