「偽物語(TVアニメ動画)」

総合得点
90.0
感想・評価
6959
棚に入れた
31415
ランキング
67
★★★★★ 4.1 (6959)
物語
3.9
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.3

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

かがみ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

n通りの正義

本作では「正義」という問いをめぐるある種のポリフォニーが展開される。例えばファイヤーシスターズの正義も火憐と月火では対極である。火憐の場合は目的が正義であり、月日の場合は趣味が正義である。火憐は他人のために正義を実行し、月火は他人の影響で正義を実行する。そして詐欺師、貝木泥舟は火憐の依拠する素朴な正義/悪の二項対立をポストモダニズム的相対主義の論理でやすやすと脱構築してしまう。相対主義の論理によれば、正義とはもはや普遍的な理念ではなく、ことごとく個人的な欲望へと還元されてしまうのである。こうした中、阿良ヶ木は正義の第一条件とは「正しさ」ではなく「強さ」であり、その「強さ」とはどう足掻いても偽物の正義しか背負えない劣等感と向き合う意志の強度にあると主張する。いわば本作では正義なき時代における正義の条件が問われているのである。こうした語りの中にはポストモダニズム的相対主義のさらなる徹底として出現したゼロ年代的決断主義の臨界が極めて明晰に言語化されているように思える。正義の味方には倒すべき悪が必要だ。けれど正義/悪という単純な二項対立に依拠した無邪気な正義は時として凶器となる。自分こそは「正義の味方」だと信じていたのに、ある日突然誰かから「倒すべき悪」として名指された時、どうすればいいのだろうか。誰かにとっての「正義の味方」は別の誰かにとっての「正義の敵」でしかないのである。こうした意味で確かにオブジェクトレベルにおいては、あまねく正義はすべからく偽物なのかもしれない。けれど、この偽りを引き受ける強度こそがメタレベルにおける正義を帰結するのではないか。そして「偽り」とは文字通り、人の為、誰かの為なのである。本作はゼロ年代的想像力の中で反復された「n通りの正義」をめぐる問いの一つの到達点を示しているのである。

投稿 : 2022/05/19
閲覧 : 190
サンキュー:

3

偽物語のレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
偽物語のレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

かがみが他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ