「ナイツ&マジック(TVアニメ動画)」

総合得点
80.9
感想・評価
774
棚に入れた
3958
ランキング
422
★★★★☆ 3.6 (774)
物語
3.6
作画
3.8
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.6

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

ロボットを愛しロボ好きに愛された主人公が魅力

原作は小説投稿サイト『小説家になろう』に掲載されたライトノベル────所謂「なろう系」と呼ばれる類いの作品で、個人的には苦手としているジャンルなのだが本作は例外。異世界転生ファンタジーに『聖戦士ダンバイン』や『蒼き流星SPTレイズナー』を彷彿とさせる造詣の深いロボット物を掛け合わせることで自称・ロボ好きの私を唸らせる快作となっていた。

【ココがすごい!:真っ当な転生描写】
先ず私が異世界転生モノで必ずと言っていいほどに躓く「前世の記憶を持ったまま転生」や「神様からチート能力を授かり~」といった始まりではないことが好感触。原作ノベルではしっかり前世の記憶を受け継いでしまっているのだがアニメ版ではそれをハッキリと描写していない。むしろ第1話の冒頭5分で主人公の前世・倉田翼の影が消えることで、彼が銀髪の美少年に生まれ変わったのではなく彼の「ロボ魂」のみが受け継がれたと観ることも出来るのである。
転生した主人公は物心ついた時に見たロボット────「シルエットナイト」に感動し、その操縦者────「ナイトランナー」を目指すという明確な目標があるのも良い。なまじ現世の鬱屈とした世界観とそこで遂げた悲惨な末路を覚えていれば異世界転生した主人公の人物像・人生設計はとかく「やれやれ系」と呼ばれるものや「スローライフ」を送りたいといったものになりがちだ。しかし前世ではプラモデルで代替するしかなかったロボットへの愛や「ロボットを作りたい」という願望を異世界で活きる矜持とする本作の主人公は、同じく現世でロボオタクをやっている視聴者の心を完璧に狙い撃ちしており、非常に魅力的に映るキャラクターとなっている。

【ココもすごい:たゆまぬ努力はダイジェストで】
そんな主人公の成長は驚くほどスピーディーだ。
3歳児だった主人公が9歳になり、第1話の後半では12歳まで成長と、主人公の子供時代のストーリーがかなり圧縮されている。
それでも憧れのナイトランナーとなるためにどんな鍛練を積んでいくのか、その努力を続けた理由は勿論「ロボ魂」であり、この作品の魔法体系は前世で学び一流の腕前であったプログラムと酷似している────といったものを省かず描写しており、それらを大原さやかさんによるナレーションでさらりと、そして伝記物かのような余韻が伝わる語り口で淡々と時系列を進めていく。
こうして出来上がった主人公──エルネスティ・エチェバルリア──はなろう系主人公というよりは、第1話でめざましい活躍を魅せて読者の心を鷲掴みにするような「少年漫画」の主人公のようでいて不快感なくその活躍を見届けられるのである。
ダイジェストこそ原作ファンにはいい顔をされない手法ではあるが、原作のつまらない・地味な部分を大胆にカットし1クールで原作小説の1巻から5巻までの内容をロボットバトルを主体に再構成したことで本作はより高い評価を得たのではないだろうか。

【ココもすごい:ロボットの量感と発展】
そして出てくるロボットがかっこいい。無骨を絵に描いたようなカラーリングと重厚感、機体の傷や汚れ、塗装剥げなどの「使い込まれている感」をきちんと描写した細かいディティールが3DCGに感じやすい軽量なイメージを見事に打ち消しており、登場する機体全てに質実剛健────ずっしりとした印象を受けた。
そんなロボット──シルエットナイト──は300年前から進化が止まっておりまだまだ改良の余地がある。それをエルがどんどん推し進めていくのだ。
{netabare}射撃と白兵戦を同時にこなすなら腕(アーム)を増やせばいい。
部品や工期を少なくして量産するならこれまでより小さく作ればいい。
飽くまでもシルエットナイトを魔獣討伐用の鎧にしか考えていなかった異世界の人間には到底思い付かないようなアイデアを提案していくエル。その大元は勿論、転生前の知識であり正直、他作品に目を向ければ同じ物を見つけてしまえるようなものではあるが、だからこそそれらのリスペクト精神が伺える描写の数々でもあり本作のロボットも往年と同じような強さ・格好良さを身に付けていくのかという期待ができるし、実際にそうなる。{/netabare}
開発の過程でシルエットナイト同士が模擬戦などの自然な展開で毎度、バトルを行うのも良い。旧型vs新型という熱い展開や機体の強奪事件・争奪戦、技術漏洩と模倣による世界的な技術革新と激化する戦争など、1クールながらロボ同士のベストバウトという観点で観ればその見どころは非常に多く、毎話の満足度が高く保たれている。
{netabare}そして終盤、開発に成功したエル念願の専用機・斑鳩(イカルガ)はこれまで昭和テイストだった機体とは打って変わったピカピカの青いボディと鬼神のフォルム、全身の推進器から噴出する魔力で高速飛行する様が正に「平成のロボット」そのものでありそちらの魅力も思い起こさせてくれる。昭和と平成、両方のロボット物を合わせた「てんこもり感」が素晴らしく、様々な年代のロボットオタクに突き刺さる快作と言えるだろう。{/netabare}

【ココが面白い:サブキャラも充実】
他のキャラクターにもきっちり見せ場が用意されている。
一般的ななろう作品だと周りを下げて主人公を上げる、もしくは主人公を過剰に上げる形で物語を展開していく。こんな作品が多いからこそ辟易されることの多いジャンルであるのは否めない。
しかしこの作品は主役もサブキャラも「操縦者」という同じ規格で劇中の活躍が描かれており、俗に言う「主人公無双」というのがかなり抑えられている。一般的なロボットアニメなら当たり前なことかも知れないが、これを今までやらなかったのがなろう作品だ。
何よりも機体はドワーフなど周りの協力がないと作ることができず、そんな彼らがおざなりになっていない。エルもその働きぶりや技術を誰よりもリスペクトしており、国王も評価し労いの言葉をいち早くかけるほどである。
{netabare}悪役も中々に精鋭揃いだ。エルたちの国が開発した新型シルエットナイトの強奪に成功し技術革新を広げた女騎士・ケルヒルト、機体のあらゆる箇所に剣を付けた専用機・ソードマンを駆る実力者・グスターボ、そしてロボットであるシルエットナイトとは対称的な飛空艇や飛龍戦艦を開発し、エルのロボ魂を否定するオラシオ────主人公らが得た大きな力を振るうに値する相手がきちんと用意され、そんな彼らが束ねられたジャロウデク軍との戦争でこの作品はクライマックスを飾る。最期にはエルではない意外なキャラクターが戦争に終止符を打ってくれる。所詮なろうとタカをくくればくくるほどに良い意味で裏切られる熱い展開なので是非とも観て欲しい。{/netabare}

【でもココがひどい?:ロボット物にしてはノリが軽い】
強いて欠点を挙げるなら、ロボオタな主人公がひたすらロボット開発に打ち込むため、常にテンションが高く物語全体の雰囲気が明るくなってしまっていることだ。これは一般的なロボットアニメにしてはかなり珍しい例だと思う。
「明るい」のは一見良いことだけれどもこの作品にも戦争という要素があり、それに附随して「命のやり取り」というものが少なからずある。そんな「人の命」をかなり軽視しているように見えてしまうのがいささか気になる所だ。
{netabare}2話では味方がシルエットナイトごと死んでも「ロボットを壊していいのはロボットだけなんですよ!!」という怒りを顕にしており視聴者に「いやそっちかーい!」というツッコミを貰うだけにしてはエルに割と致命的な倫理観を与えてしまっていた。{/netabare}
ただ、今までのロボットアニメがむしろそういったものをフューチャーしてきて若干、食傷気味であり、「人の命を奪うこと」について登場人物に考えさせてしまうと折角のふんだんなロボット描写を削って余計なヒューマンドラマを入れてしまう“エウレカ化”が始まってしまうため、その欠点になりかねない部分をなろう作品の特徴で打ち消したとも考察できる。
どう打ち消したかというとなろう主人公ならではの死生観である。死んでも新たな命として転生できるという実例が自分であることで、主人公は敵を殺しても「良い来世があらんことを」と祈って終わりにできるし、自分が死ぬ事に関してもエルは「シルエットナイトと一緒に死ねるなら本望」と言い切っているため、その恐怖をいちいち描く必要は無い。転生してより良い人生を謳歌するパターンの多いなろう主人公ならではの死生観として、軽い命のやり取りは妙に納得できるものでもある。


【総評】
1クールながら非常に満足度の高い作品だ。ロボオタが異世界転生したらどうなるか?という始まりで物語の口火が切られるものの、間もなく王道的なファンタジーやロボットアニメの御約束を描写し、徐々に進化していくロボットの制作過程と戦闘シーンを味わえる、ロボットアニメ好きが観たいものをそのまま観れるノンストレスな作品であった。
主人公の曖昧な転生描写から時として「異世界転生である意味があるのか?」と問題提起されることもあるが、専らなろうを嫌っている私を「あり」と思わせた時点でそこは良点だ。決して銀髪美少年に転生した精神年齢40歳のおっさんではなく、そんなおっさんの「ロボ魂」を受け継いだ異世界の少年と受け取れる。それでいい。見た目・実年齢相応の無邪気な立ち居振舞いや高橋李依の演技・声質がなろう主人公特有の達観してるのかしてないのかよくわからない気持ち悪さを巧く打ち消しており不快感なくその活躍を見届けられる。
作画リソースは当然、ロボットに大幅割り振り。人間キャラクターの作画にやや不安定なところが視られたものの、ロボットのデザインの素晴らしさや戦闘シーンの面白さがあるからこそ、そこまで欠点には感じにくい。
ストーリーの密度は総集編かと見紛うほどに詰め込まれているもののナレーションを巧く使って破綻・混乱を解消している。ただこのナレーションそのものが気に入らないという人もいるようで確かに悪く言えばナレーションを「乱用」して時系列をどんどんと進める様は少し勿体なさを感じてしまうこともあった。しかし、そうしなければ原作の尺からして主人公が何時まで経っても専用機を持てず活躍できなかったということも留意して評価しなければいけない部分だろう。
OPにED、キャラクターの台詞に至るまで、本作はあらゆる観点からロボットアニメの過去作を彷彿とさせてくれる。本作を手がけた制作陣は経験・未経験問わず相当なロボット好きであることが素人目でもわかり、そんなロボ好きが手がけたロボットを愛する少年はとても魅力的だった。そんな主人公がノリノリでロボット開発の中心に立ち操縦までこなして大活躍する、明るくテンポの良い新しいタイプのロボットアニメが2017年には誕生していたのである。

投稿 : 2022/11/29
閲覧 : 201
サンキュー:

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