「約束のネバーランド(TVアニメ動画)」

総合得点
92.5
感想・評価
1116
棚に入れた
5359
ランキング
20
★★★★☆ 3.9 (1116)
物語
4.1
作画
3.9
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
3.9

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.9
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

少年ジャンプ流『大脱走』

そこが真に孤児院であるならば、暮らす子供たちの幸せそうな姿から本作の舞台・GF(グレイス・フィールド)ハウスはとても質の高い施設なのだろう。子供たちはなにかに怯えることも不安になっている様子もない。日々の糧を味わい、勉学に励み、広い敷地で思いきり遊んで心も体もすくすくと成長していく。
そこが真に孤児院であるならば、孤児の門出は実に喜ばしいことである。里親に引き取られ院を去る子供には院とは違った幸せが与えられる筈だ。とくに孤児は10~11歳とある程度大きくなってしまった子よりも5~6歳の小さな子に人気があり一際、可愛がられる。年長組のエマとレイ、ノーマンが年少組を見送る日々が続くのは至って普通の光景だった。
そこが真に孤児院であるならば────孤児院であれば、どれだけ良かったのだろうか。
「私たち……食べられるために生きてたの……?」
『このマンガがすごい!2018』男性編第1位を獲得した週刊少年ジャンプ作品のアニメ化。第1期はファンも初見も裏切らない。

【ココが面白い:海外サスペンスのような第1話】
里子に出されたとばかり思われていた6歳の少女・コニーの憐れのない姿を目撃したことでエマとノーマンは真実を知る。
自分たちが「食料」であること。食人鬼が存在し、そんな鬼のエサとして自分たちは育てられていたこと。「里親の迎え」と称されていたものがただの「出荷」であったこと。彼女らが信じ、大好きだった寮母(ママ)・イザベラも鬼側につく人間であり、彼女らが食べられると分かって管理し育てていたこと。
本作は第1話から衝撃的だ。その衝撃────物語の真実を始めから魅せることでこの作品のジャンルや方向性、主人公らの目的をハッキリと示し、視聴者にその後の展開への大きな期待を持たせることに成功している。
恐怖を煽るBGMや演出も巧く、まるで海外のサスペンスドラマを観ているようである。そういった演出の妙に加えて真実を知った者の叫び、動揺、焦り────キャラクターを演ずる声優の演技力も素晴らしく、愛しのコニーの死体や食人鬼が登場するシーンはエマと同じく息を呑む程である。
あわや鬼の手から逃れたエマとノーマン。このままハウスにいれば、いずれ自分たちも「出荷」される。
「もう家族を失うのは嫌だ」
「見つけるんだ、僕らが生き残る方法を」
年長組は日々の異様なテストで満点を取る天才である。そんな彼女らの脱出計画が物語の希望として魅せられると同時にイザベラが子供たちの怪しい行動に感づくシーンを入れることで絶望も視聴者に魅せていく。1話を見たらすぐに2話を見たくなる引きの巧さは強烈だ。

【ココも面白い:フルスコア組の頭脳プレイ】
鬼の美食の対象である「脳」を発達させるためのテストで満点(フルスコア)を取るエマ、レイ、ノーマンの3人の理知的会話や頭脳プレイ、卓越した精神力は毎話を見返し気付く度に驚かされてしまう。だからこそこの作品は“何度でも”観れる魅力も備わっているのだろう。
真実を知り、脱出を決意した後も彼女らはイザベラに悟られないよう無垢な子供を演じなければならない。そこに綻びが見え隠れしてしまうのがジャンプでは珍しい女性主人公のエマだが、ミスのフォローが完璧で刺す隙も与えないことがそのまま魅力となっている。
エマとイザベラの会話の一端を書き出してみよう。
ママ「どうしたのエマ?顔色が良くないわ」
エマ「何でもないよ!ただ私ももうじきハウスを出るんだと思うと寂しくなっちゃって……」
ママ「……エマはハウスが好き?」
エマ「ハウスもママもだ~い好き!」
エマ「コニー……今ごろどうしてるかなぁ?」
エマ「コニーね、大人になったらママみたいなお母さんになりたいんだって!」
ママ「……ええ、知っているわ。コニーならきっと素敵な大人に……いいお母さんになるわ」
────いかがだろうか。平静を装うだけでなく、相手の良心に訴えかけるような言葉を自然に展開し、反応を探っている。心理戦における立派な「攻撃」だ。
それを難なく、心にもない寮母の見本のような笑顔と言葉で返すイザベラは正真正銘エマたちの敵であり、両陣営の対立は水面下で過激さを増していく。

【そしてココが熱い:目指すは犠牲ゼロ!】
脱出方針は混迷を極める。ハウスの子供は30人以上もいて大半が6歳未満。その全員に真実を伝えて理解させ、タイミングを合わせて脱出させるのは不可能に近い至難の業だ。
ノーマンとレイは現実を見ている。脱出するだけではない、ハウスの外には未知の世界が広がっているだろう。安全圏がどこにあるかも見当がつかない。そこで全員が生きていくには人数的にも年齢的にも難しい。せめて脱走する人間を選ばなければならない。生き残るために必要な、残酷だが現実的な選択肢だ。
しかし主人公のエマはその選択肢を拒否する。とても素直に、とてもまっすぐに「やだ」と。
「全滅は嫌だよ。でも置いていくっていう選択はない。もう誰もあんな姿にはしたくない。無いなら作ろうよ外に。人間の生きる場所。変えようよ、世界」
彼女は紛れもなく物語の主人公だ。何処か無鉄砲で感情的で現実的でない考えをしている、だが「人を思う」彼女だからこそ主人公としての魅力がしっかりとあり、前述の通り能力もとても高い人物だ。
そんな彼女だからこそ不可能だと思える事項を可能に出来るのではないかという期待感が視聴者に生まれる。序盤から動機は完璧。後はツッコミ所の無い「脱出」を描くまでだ。

【そしてココが恐ろしい:母は強し】
しかし敵(ママ)もそう易々と脱出を許すほど甘くはない。子供全員の身体に埋め込まれている発信機、ハウスの全周に渡る足の引っ掛け所もない塀と{netabare}断崖絶壁{/netabare}。必要に応じて本部から増員される大人────それら全ての障害を凌駕するのが寮母・イザベラが発揮する本領であった。
{netabare}脱出の作戦が形をなしていき、作戦が決行直前という中でイザベラは彼女達に迫ってくる。1クールの終盤、堂々と、何の演技もなくエマ達に彼女は言い放つ。
「諦めてほしくてここへ来たのよ……抗うことを。」
彼女は紛れもなく子どもたちを愛している。この世界の中で、ハウスという箱庭の中で、子供が子供のまま、子供として何も知らず幸せな一生を過ごし終える。彼女の倫理の中では理想的な幸福だ。
終盤の彼女の言葉に偽りはない。愛しているという言葉も、抗うことを諦めてほしいという言葉も、“大好きだから”苦しませたくないという言葉も何1つ偽りがない。紛れもない本心からでてくる言葉だ。だからこそ強い。エマたちにとっては悪でしかないが、彼女にとっては正義なのである。
容赦なくエマの足を折り、泣き叫ぶ彼女を優しく抱きしめる。「よくできました」と褒め、諦めてほしいからこそ叩きつける現実は、何故か観る者にとって一抹の狂気を孕んでいるかのように映る。{/netabare}

【他キャラ評価】
ドン&ギルダ
物語の中盤ではエマやノーマン、レイ以外にも真実が伝わる。それがエマたちの次に年長者となる褐色の少年・ドンと眼鏡っ娘・ギルダであった。
{netabare}エマたちは2人を協力者にしつつも真実は歪めて伝えていた。
他の子供は自分たちより劣っている。守ってやらなければならない存在だ。
きっとそんな風に思い、彼らの心の強さを見くびって吐いた嘘は2人の思わぬ行動力によって看破される。それ故の一時の仲違いは暴力的かつ、切ない。
「ザコ扱いが悔しいんじゃない……嘘をつかせた……何も…してやれなかった……無知で……
無力な俺が……自分がザコなのが悔しい……!悔しい!! 強くなりたい……強くなりたいよ……」
一見、嘘を吐いたことを怒ったかのように見えたドンの独白が否が応でも印象に残る。凡人が故に天才たちから真実をもらえなかったこと、何も知らずにみすみす年少組を犠牲にしていたという嘆きに強く感情移入できる。
脇役たちにもきちんとした息吹が宿っている。天才たちが動けない時、思わぬ活躍を見せてくれると確信できる2人だ。{/netabare}

シスター・クローネ
本作の映像化範囲である『GFハウス脱獄編』の人気キャラ────なのだが、意外なことにしっかり彼女の行動を押さえておかないと存在意義がピエロ程度にしか見えないのである。イザベラとも子供たちとも相容れぬ第三勢力として、劇中ではどんな風に物語をかき乱すのか期待感を煽る活躍だっただけに殆ど何も実らなかったのが何とも憐れだった。
彼女の遺した物は次の編から重要なキーアイテムとなる。それだけに本作の重要なポイントにはなり得ない。

【総評】
秀逸なストーリーと演出の妙が光る作品だったと評する。1話からというハイスピードで入れ込んだ世界観の種明かし。その実態が一旦引っ込むことで際立つ本作の舞台・GFハウスの凄まじい閉塞感。そこからもがく子どもたちの絶望と希望の脱出劇────そんな基本的に会話が多い作品にも関わらず、時計の振り子視線の演出やホラー映画のようなカメラワークなど、きちんとアニメーションとして多彩な演出を魅せてくれる作品だ。
BGMやカメラワークによって大人と子供の心理戦を盛り上げており、そこに声優の演技が重なることでより緊張感が増している。だからこそ一人一人のキャラクターの魅力をしっかりと感じることができ、彼女らの脱出劇に目を離せなくなる。
とてもジャンプ原作だとは思えない。這い寄るような怖さを煽る演出と心理合戦は往年のジャンプ原作アニメの王道には存在しておらず、表面的──ジャンルという枠組み──には『DEATH NOTE』に近い雰囲気を持つ。
だが根本的な部分は「ジャンプ三大原則」に基づいており、エマという主人公はまさにジャンプの主人公にふさわしいキャラだった。時に感情的に動き、時に無鉄砲。しかしそんなエマだからこそ周りの人間がついてくる。そんなエマだからこそ導き出せた脱出作戦、誰も犠牲にはしない彼女なりの答えが描かれるラストとイザベラのエピソードを同時に見せるのは秀逸としか云い様がない。友情・努力・勝利が備わった少年ジャンプ流の『大脱走』をまだ観ていない方は是非ともネタバレ無しでご覧いただきたい。

投稿 : 2022/12/27
閲覧 : 214
サンキュー:

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