お茶 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
13時間の時を越えて
私が見てきたなかでどのアニメが一番というのは言えないが、一部分だけで言えば
「ef-a tale of mamories」の千尋編を推したい。
本作は美少女ノベルゲームを原作としたアニメで、1期では3組のキャラの恋愛が描かれている。
ここでは千尋編について語りたいと思う。
物語は、無人の駅で男女が出会うところからはじまる。二人は徐々に親しくなるが、同時に千尋の言動に不可解なところが生じてくる。中盤でようやく彼女の不可解さの原因が記憶障害だとがわかる。彼女は13時間しか記憶を保持できない。そのために毎日日記をつけて記憶を保持している。
「あなたは誰?」
会うたびに少しずつ仲を深めても、次会うときはリセットされるのだ。
千尋は日記を頼りに生活するという日々をひたすらループしている。
蓮治はこれ以上千尋に深入りするなと告げられる。
千尋の障害を知り蓮治は幾度となくひるむがそれでも千尋に向き合おうとする。
切ない、切なすぎる。
千尋は子供の頃から作家になるのが夢で、ノートには短い話が書き綴られていた。
二人は物語を完成させようとする。
「女の子は世界に一人。だから彼女は神様だ」
という一節が物語全体を象徴し、その物語が千尋と重ね合わさる。
{netabare} ~
度重なる苦難の果てに千尋は物語を完成させる。そのあかつきに二人はデートをする。
最後に夜の学校に行ったところで、蓮治は13時間以上経ったのを確認する。千尋はデートの初めの記憶失っていた。
千尋は自分の完成した物語を読んでほしいと告げ、学校の屋上へ上る。
物語は女の子が身投げして終わる結末だった。最後まで読んで愕然とした蓮治は屋上に行くと、千尋は「私は幸せでした。これで終わりにしましょう」と言う。
ここで身投げしようとする描写があり、視聴者はミスリードされるが、千尋がやろうとしていたのは、蓮治との日記を全部破り捨てて決定的な別れをつきつけることであった。
「好きですと言えるうちに別れたいんです」と言って、思い出を抹消するシーンは私の中で頂点とも言うべき名シーンだ。そして、蓮治ができるだけ日記のかけらを集め、最終的に二人が抱き合うシーンはシャフトの演出と相まって、これまでの感動作と一段も二段も違うものがあった。 {/netabare}
美少女ゲームの中には、Keyをはじめとする「泣きゲー」と呼ばれるジャンルがあるが、その中でも千尋編は傑出している。まるで、それまで積み重ねてきた切なさと感動を描き出すために、従来の美少女ゲームが追求し累積したさまざまな技法が、集大成的に、この千尋編に一点凝縮されたような観さえある。
13時間という時を越えて人生を生きられない千尋は、何度も何度も死を味合わされる薄命の少女である。若くして死んでいく物語はあるが、本作では何十何百という死を経させられる。一回限りの死を越えた感動の極致を達成している。
また記憶障害の設定はループものと近似し、ループものと同種の展開やストーリー技法も活用され、ここにおいて稀に見ぬ錬成がなされている。