「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX[スタンドアローン・コンプレックス](TVアニメ動画)」

総合得点
92.1
感想・評価
5048
棚に入れた
21453
ランキング
25
★★★★★ 4.3 (5048)
物語
4.4
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.3
キャラ
4.3

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

woa さんの感想・評価

★☆☆☆☆ 1.0
物語 : 1.0 作画 : 1.0 声優 : 1.0 音楽 : 1.0 キャラ : 1.0 状態:途中で断念した

草薙素子の致命的な過ち

ボディビルダーみたいなマッチョ女を追い掛け回す中年童貞たちのドタバタハートフルギャグコメディ。政治(?)&哲学問答(?)&サイバーパンク風味の中二ワード(?)に惹かれて、背伸びしたい小学生が好きなアニメ。

これだけならまだ許せるが原作のディルドセクロス描写は異常である。そして何よりも許しがたいのが(ここからは比較的真剣に)近代コンプレックス丸出しの世界感なのだ。

ティプロリーやディックやベンフォードの上澄みだけを取り入れた世界設定。こういう偉大すぎるSF作家たちが言ってたのはこのアニメがタチコマに言わせてるようなこととはまったく逆で機械論ではない。SFとはあくまで人間の側の視点なのだ。まず自分が不満に思ったのはそこである。

生命は機械ではないという前提があって次に生命に限りなく近い自生的な現象がある。あれは何だ?という素朴な疑問がSF的な事の発端だろう。物象への愛好というのと物象との一体化(願望としては近いものはあるが)は違う。人をモノ扱いする考えが広まったら社会が色々とおかしくなることは子供でも分かる。だからそれが良く分からなくなってるブレードランナーの未来はディストピア=人間疎外の扱いなのである。

人間は電脳みたいな仮想現実を認めてないし存在しないはずなのに、ネットは勿論、空港にサーモグフィーがあったり、Eコマースだったり、エボラやSARSの感染だったり、仮想空間を想像しないと説明できない事象が先にある。誰かが計画してやったことではなく、単に需要があって適合する技術があったことからこのように大規模な供給システムが生まれたのだ。攻殻のような屁理屈じゃなく、すでにある情報技術が孕む現実的な問題をサイバーパンクは扱ってきたはず。

サイバーパンクの問題は要するにあくまで人間の自己言及性である。作者は人間である以上避けられない問題だろう。もっと言えば小説の登場人物(特に主人公)って誰だ?こいつらは自分のどういう面を象徴していてどの程度間違っているんだ?自分とは違ってる登場人物の個性はサイエンス・フィクションというジャンルから来るとしてどこで生まれてどういう経路で来てるんだ?という問いから最終的に自分自身の位置づけも混乱するという、疲労から起きるトランス状態そのものがネットであるという形で直截に描いたのがサイバーパンクというジャンルなのだ。ニューロマンサーで描かれるハッカーたちが仮想現実に中毒症状を起こしていたり、ネットに潜ることを没入と言っているのが良い例だ。

ところがただの病気か錯覚であるところのガジェットが日本の攻殻なんかに取り入れられると八百万の神だとか汎神論だとかわけのわからない誤解をされる。

第一汎神論はデカルトだとかスピノザの考えを歴史的な経緯も考えずただただフラットに、データベースとしてしか利用できない日本人の誤用である。キリスト教・カトリック批判の西洋独特の人文主義的文脈で見ないとわからないのに日本の全く伝統も異なる状況に当てはめようとするからおかしくなるのだ。彼らの言ってることも要するに自己矛盾がその問題なのだ。自分の骨身に染みついたキリスト教的伝統と教養としての人文主義的伝統との折り合いを付けようとした試みなのである。

どうしたってキリスト教圏ではない日本人は分かりずらいことだ。伝統と教養の対立はあるかもしれないが、西洋は一神教という曖昧さや妥協を許さない難敵なのでやはり日本のそれとは抽象性やしつこさのレベルが違うだろう。厳密に言葉から作り直さないといけないので、西洋哲学などほとんど定義づけで大量のページが費やされるのだ。その辺を曖昧にしておくと背信行為として断罪されたり、内心は否定したいキリスト教的伝統を強化する意図に利用されてしまうのであろう。

戦前日本の超近代みたいな折衷案は深遠な事を言ってるようで実は案外単純な近代に収まるものだ。神秘主義で許される状況にも功罪あったが・・・。

人間は機械だとか電子データなんだとか、家でネットばかりやっている廃人ならばそう錯覚するだろうが、実際に外出て誰か人と会えば生体と物体はシステムとして原理的に違うなと分かる。物理事象をいくら解明しても人間の脳でや生体の量子力学は不完全定理らしい。であるから、まだ解明できておらずその見通しもない人間の脳を、原理はわかっていていつでも組み換え可能な「機械」なのだと平然と言うのはおかしい。

第一、自分のことを自分で証明してる人間ほど信用ならないものはないし、その証明はその人自身の「見解」でしかない。こんなのは常識的に考えれば分かることだ。犯罪者に自分の犯罪の有無について調査をさせるようなものである。

個人でさえもこんなに非合理的なのに集団、社会となるともはや全く予想もつかない。非合理性の塊が人間で、例えば経済予測なんてまったくあてにならないのである。90年代の「一時的」な不況が今の今まで終わらないなんて誰一人予想できなかった。デフレなんてすぐ終わるだろう、日本はまた復活するだろうという願望を理論武装で覆い隠して、熱心に神様にお祈りしてたに過ぎないのだから正確な予測などできるはずもないのである。

恐縮ながら、攻殻の製作者は神か何かにでもなったつもりなのか。草薙素子は半神的存在、天使レベルにまで行ってしまうのだ。全身が義体化する技術が仮にあったとしてそうなるのだろうか?100歩譲ってそういう技術が開発できたとしても素子が義体化するにあたってそれを設定する技術者がいるはずで、SF的にはその人は結局人間で義体の性能にも「人間的な」誤差が見つかるのが普通だろう。

義体化したくらいでは何も変わらないだろうというのが自分の意見だ。遺伝子が何億年かけて進化してきたと思ってるのか。モダンやポストモダンが何かそれに代わりうる新しい仕組を生んだか。結局公安9課は自分たちの時代を特権視したいだけなのではないのだろうか。縄文時代の人間もマンモスを石斧でもって追い掛け回しているとき自分たちは人類史の頂点にいると思っていたかもしれない。

フィクションに何言ってるんだ、と言われればそれまでかもしれない。ただ、それなら製作者はインタヴューできちんとこれはフィクションです、娯楽作品です、金儲けとスポンサーの商品を宣伝するのための広告です、とだけアピールすればいい。偉そうに日本の今の「危機的」な政治状況だとか憲法に不満を言う必要は無い(どこかの雑誌でそういう記事を読んだ記憶がある)。現行憲法でなにがどこまで可能かは専門家でも意見が分かれるほどに難しい問題なのである。素人の軽率な発言が日本は核武装すべきだ、とかNSAのような諜報機関が日本にも必要だとか、リアルとネットの区別もついてないようなふざけた主張につながる。今や若年人口=ネット人口なんだからネットリテラシーのない子供への配慮もして欲しい。

人の趣味についてどうこう言うのは失礼な話だとは思うが・・・

草薙素子は電脳の海に入るのではなくまずは現実の風呂に入るほうが良いのだ。

投稿 : 2014/11/22
閲覧 : 539
サンキュー:

9

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXのレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXのレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

woaが他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ