STONE さんの感想・評価

3.7
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態：観終わった

魅力的なバトル、脆弱な人間ドラマ

　原作は未読。
　ロボットものだが、現実世界とはリンクしていない舞台設定、魔法の使用、戦時下という
状況からファンタジー系の架空戦記色を強く感じる。

　メインモチーフであるゴゥレムと呼ばれるロボットだが、これが無骨な感じで非常に好み。
いい意味で洗練されていないといった感じ。
　このゴゥレム以外の軍備は歩兵しかいないようで、航空兵力のようなものは存在せず、
ゴゥレム自体も飛行能力を有していないことから、ゴゥレムという存在が中世の騎士を思わせる
ものがある。
　戦闘方法もプレスガンのような飛び道具こそあるものの印象的だったのは肉弾戦で、これが
己の身を削るような戦い。
　そのために外観も傷だらけなものが多いが、これがより無骨さを感じさせてくれる。
　とにかくゴゥレム全体に感じるのは使い込まれた道具のような魅力。

　主人公であるライガット・アローの搭乗するデルフィングだが、これこそ傷だらけの存在で、
劇中でナルヴィ・ストライズが語ったようにまさにブレイクブレイド。
　他のゴゥレムを凌ぐ運動能力や馬力を持つが、逆にプレスガンが使えない、稼働時間に制限が
あるなどのハンディもあり、この辺がうまいこと主人公機のチート化を防いでいる印象。
　このプレスガンが使えないために他のゴゥレムとは異なる武器を使用することが多いが、
これが主人公機の個性化につながって、なかなか楽しませてくれる。

　ライガットの所属するクリシュナ王国だが、対戦国であるアテネス連邦に較べて、国力は
劣り、ゴゥレムも質量共に劣っている印象。
　加えてトゥル・バー・コールウェイ・リムレック、エルザといった有能そうなゴゥレム乗りが
あっさり殺されてしまうなど、ともかく先行きが不安な感じ。
　そういった状況だからこそ、劇中でよく出てくる「運命に抗おう」という言葉が重みを持って
くるわけだが、その鍵となりそうなライガットが序盤ではなかなか煮えきれない。
　彼の不殺主義とも言うべき行動は、一介の農民で、更に父の教えに従うライガットとしては
そう変われるものではないのは判るが、エンターテイメント作品として観ている分には正直
イライラもすることも。
　そんなライガットが変わったのはホズルやシギュン・エルステルとの関係が大きいが、明確な
殺意を持ったボルキュス・デュッセンルドルフ戦での心情が今一つ、ピンと来なかった。
　背景には自分の故郷の村人を殺された復讐心はあるのだろうが、劇中描写だけではあまりにも
希薄。

　実はこの点に象徴される部分が、この作品全体に感じる不満点で、この作品あまりキャラの
モノローグで心情を語るようなものが少なく、キャラの行動などから心情を読み取ることが
必要とされるが、その読み取るべき描写がどうも足りなかったり、うまいことつながっていない
印象が強い。
　元々劇場公開作品を再編集したものだそうだが、編集時に改変されたのか、映像化の時点で
原作から削れられたのかは判らないけど。
　その最たるものがジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロスで、存在感こそ強いものの役回りと
しては登場して、戦って、憎まれ口を叩いて、殺されて終わり、といった印象で、何のために
出したの？という感じ。最後の戦闘シーン自体は素晴らしかったけど。
　あまりにも意味不明だったので、ここは調べさせてもらったが、原作ではライガットの心情を
変える大きな意味を持ったキャラだったようで、納得したと共にこの改変はあまり良くないなと
いう印象を更に強くしてしまった。
　そのためか、世界観や戦記ものとしての展開自体はなかなか良かったが、人間ドラマとしては
全体的に弱い印象で、なんとも勿体ない。

　前述のように心情が判りにくいせいか、外観の印象の割には印象に残るキャラが少なかった。
　そんな中で判りやすいキャラだったのがメインヒロインのシギュンだが、よくよく考えると
メインヒロインが人妻というのも珍しいような。
　端からも噂されるようにシギュンのライガットへの思いは見え見えで、夫であるホズルも
判っているよう。
　それでいてホズル自体、特に動揺するようなところがないところを見ると、結婚前から
シギュンの気持ちは判っていて、一種の仮面夫婦のような関係だったのかな。
　だったら何故結婚したの？という疑問が残るが、例えばシギュンを保護するような、何か
理由があって、そのために結婚という形を取ったのかな。これはもう完全な想像だけど。