「この世界の片隅に(アニメ映画)」

総合得点
82.8
感想・評価
691
棚に入れた
3061
ランキング
346
★★★★★ 4.2 (691)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.2

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

歴史と創作表現。

【概要】

アニメーション制作:MAPPA
2016年11月12日に公開された129分間の劇場アニメ。
原作は、『漫画アクション』に連載されていた漫画作品。原作者は、こうの史代。
監督は片渕須直。

【あらすじ】

広島市江波(えば)地区で生まれ育った浦野すずは、絵を描くのが上手なぼんやりした少女。
戦時中の1943年(昭和18年)12月。すずに、知らない男性との縁談が舞い込む。

相手は、すずの4つ歳上で大日本帝国海軍の一大拠点である呉鎮守府に勤める書記官の北條周作。
周作は生真面目な好青年であり、『ええ話じゃったけ』と父母の判断にて、
すずの預かり知らぬところで縁談が成立してしまう。

翌1944年(昭和19年)2月に呉の北條家にて、身内だけのささやかな祝言が行われる。
それは、すずが18歳の出来事であった。そそっかしく失敗しながらも北條家の嫁として、
そして、呉の上長ノ木町(かみながのきちょう)のひとりとして、すずは受け入れられていく。

これは、ひとりの女性の目線からの戦時中の日常の物語であり、すず本人は憶えていないが、
幼少期の広島市内での周作との出会いのエピソードから映画は始まる。

【感想】

終戦から78年が経ち戦時中に大人であった世代は既に殆どが鬼籍に入ってしまった昨今、
当時を実体験で語れる人間が数少なくなっていますね。

『この世界の片隅に』では序盤に、幼少期のすずさんが広島市を訪れて、
今では平和公園になっている当時広島市の最大の繁華街だった中島本町を描写。
クリスマスセールの賑わい、往来の人々を描くことで、
明るく平和だった戦前の日本の印象づけ。

物語の中で戦時下に時代が移るのですが、人間の本質は昭和も平成も令和も簡単には変わらない。
政治的な目線をなるべく入れずに、明るく穏やかに生きようとした普通の人々の日常が、
意図的にだらだらと描かれています。

従来、日本人が抱いている戦争や軍隊に対する負のイメージは、
戦後教育によって培われてたものでありまして、
特に、史観に白紙な状態の子供への戦時に対する歴史認識の刷り込みには、
学校の図書室に必ずある『はだしのゲン』の作者の中沢啓治の漫画の影響が大きいかと。

(週刊少年ジャンプ)→(左派系オピニオン雑誌)→(日本共産党機関誌)→(日教組機関紙)

と、掲載誌を転々としており、どこの学校の図書室にも開架してあった事情は、
幼い子供が知らぬことばかり。中沢啓治の漫画から受けるイメージとしては、

日本中に洗脳されたガチガチの軍国主義のイデオロギーが蔓延していて、
憲兵が常に民衆に目を光らせていて隣組同士で監視された息苦しい社会。
平和主義者は『非国民め!』と暴行を受けて家族が村八分に遭う。
そして、共産党員がジャスティス。

・軍部と資本家が結託して勝手に引き起こした戦争で、庶民は巻き添え。
・大本営発表に騙されて戦争に浮かれてる庶民も共犯者。
・軍隊はただの人殺しであり、侵略して『三光作戦』で悪逆非道を尽くしたと、
 今では作り話が定説となっている中国側のプロパガンダを垂れ流し。
・天皇批判。

あれは、もうちっと分別がついた年齢に達してカウンターになる書籍と並行して読まないと、
何も知らない子供を洗脳する絵巻ですよね。

↓↓↓

「あの貧相な つらをした、じいさんの 天皇 今上裕仁を 神様として ありがたがり 
デタラメの 皇国史観を 信じきった女も大バカ なんよ…」

「首をおもしろ半分に切り落としたり、銃剣術の的にしたり、妊婦の腹を切りさいて、
中の赤ん坊を引っ張り出したり、
女性の●●の中に一升ビンがどれだけ入るかたたきこんで骨盤をくだいて殺したり」

「わしゃ日本が三光作戦という 殺しつくし 奪いつくし 焼きつくすで ありとあらゆる
残酷なことを同じアジア人にやっていた事実を知ったときはヘドが出たわい」

「その数千万人の人間の命を平気でとることを許した天皇をわしゃ許さんわい」
「いまだに戦争責任をとらずに ふんぞりかえっとる天皇を わしゃ許さんわいっ」

「君が代なんかだれが歌うもんかクソクラエじゃ」「君が代なんかっ 国歌じゃないわいっ」

「日本の植民地にされたわしら朝鮮人はむりやりに日本につれてこられて、
はたらかされたり戦場へ兵士としてかりだされています・・・
戦争のためにどんなに朝鮮人がいためつけられ苦しんでいるか」

「天皇は戦争を起こし日本中の街やこの広島や長崎をピカで焼け野原にし、
わしのとうちゃんや数えきれない人を殺し、いまも苦しめている戦争の責任者じゃないか」
「天皇はおわびに米でもわしにもってきやがれバーカ」

↑↑↑

思えば、エキセントリックで偏った政治的主張を盛り込みまくった『はだしのゲン』を、
そのまま鵜呑みにして左派の大人になってしまった層が中高年に根強いですね。

思想に染まりきって自衛隊を人殺しの暴力装置と批判し、
自衛隊員が国民の目の前で温かい食事を摂ることにすら我慢できないクレーマーと化し、
更には皇室解体を声高に叫ぶ市民運動家の苗床のひとつに平和運動がなっています。

“反戦平和主義”も純然たる願いや市民感情というよりも、
先鋭化した市民運動家の居場所づくりになってる側面が強いかと。

その反動があるのでしょうか、
ネットの普及で玉石混交の多角的な情報が入手しやすくなり、
その中から選別した記事を読んで目が覚めた!と“ネット右翼”に転向する者もいます。

「軍国主義者」と「国民」との対立を日本人の心理に根付かせたのは、

「War Guilt Information Program」(通称:WGIP)

と呼ばれるGHQの占領政策であり、
アメリカの日本の都市群に対する無差別爆撃や原子爆弾への投下に対する、
“国民の怒りの矛先”をアメリカから逸らす狙い。日本が誤った戦争を起こした報復で、
日本が苦しんだのも負けたのも“愚かな軍部”に騙されて日本が暴走したせいだという、
“自虐史観”にどっぷり浸かっている、
日本人はそこから脱却するべきだと右派論客が主張していますね。

対立する思想による論争が活発になった今を見るに左派史観が常識だと信じられていた昭和から、
大きく時代が変わったなと思うところがあります。

創作は創作であり、史実をベースにフィクションで昔を語る場合は論調は筆者の匙加減次第であり、
一定の思想を込めるということはフィルター越しの物語であります。

歴史を語るにしても、後の時代からは何とでも言える!ということがあり、
例えば大河ドラマなんか現代基準の愛とか平和主義思想と言った価値観を、
戦国時代に持ち込んで押し付ける話が少なくはありませんね。

戦国時代であれ先の戦争であれ、情緒面はともかくとしても、
歴史ものに後世に発達した思想に基づいたプロパガンダを持ち込むのは、
嘘くささと説教くささの添加物であり、
思考誘導装置としての作り話であることを理解しなくてはならないと思います。

一方でこのアニメでは、穏やかに過ごしていたい市井の人々が、
時代に流されながらも目の前の生活を守って生きようとしている話に終始。
善悪の観念やイデオロギー主張のわざとらしさを徹底的に抜いて、
戦時下で起こった様々な出来事を淡々と現象として描いていくことで、
ドキュメンタリータッチになっています。
ドラマとして、主人公のすずさんの葛藤や悲しみの要素が存在するのを忘れてはいけませんが。

殊更に軍国主義を主張しない普通の人々の日常に空襲や原子爆弾という史実を組み込むことによって、
かえって視聴者がより戦争の恐ろしさと日常が奪われていくことの無常さを、
考えさせられる内容になっています。その上で、あるがままの現実を何とか受け入れて、
明日へ明日へと命をつないでいこうとする、地に足をつけて生きていく人間の逞しさに、
ホロリと来るものがあります。

イデオロギーたっぷりの話よりも登場人物にスムーズに感情移入が出来たり、
戦争について一人一人の自由な考えが持てる内容になっているところに、
昭和的な戦争への史観とは異なる切り口で映画が作られた時代の変化を考えさせられました。

例外的に、原作3巻の昭和20年の8月15日。すずさんの言い回しが市民団体の主張みたいで、
違和感があったのですが、片淵監督の解釈で中身が大差なくても言い回しを変えたこと。
あくまでも、すずさんがノンポリの市井の人であることを徹底した上で、
社会構造の理不尽な部分への怒りを吐き出させたのは個人的には良い判断だと思いました。
原作と言い回しが違うことに不満を覚えるネット評論も存在しますけどね。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2023/08/12
閲覧 : 674
サンキュー:

77

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