「終物語(「まよいヘル」「ひたぎランデブー」「おうぎダーク」)(TVアニメ動画)」

総合得点
84.6
感想・評価
685
棚に入れた
4326
ランキング
279
★★★★☆ 4.0 (685)
物語
4.0
作画
4.0
声優
4.1
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

ジグソーパズルは、余白をすべ埋めなければ「終」わらない

長い物語シリーズもついにクライマックスです。
今までのシリーズを踏まえつつ、思ったことを書いてみたいと思います。


■思い出って時系列シャッフルだよね
{netabare}
このシリーズは、放送順に観ていくと時系列がシャッフルになります。
シリーズが完結した今では最初から時系列順に観ることも可能です。
でも、あまりお勧めしません。
やはり、シリーズ構成がとても上手いので絶対に放送順に観るべきだと思います。

3月の春休みに阿良々木と忍の間に何があったのか?
この始まりの『傷物語』を、クライマックスの『終物語』の直前にもってきました。
つまり、このシリーズは、この一番肝となる疑問をひっぱるだけひっぱります。
そして、その間にいろいろな物語を挟んできます。
視聴者は、過去、現在、未来、いろいろな時点にいるような不思議な感覚になります。

この時系列シャッフルとなっているシリーズ構成は、実はとても上手いと思うのです。
なぜなら、「思い出」って、そういうものだからです。

この物語は、終わってみれば青春の思い出話のような物語でした。
阿良々木のセリフからも回想録かなと思える部分もありました。

ご自身が思い出話を誰かに語る時のことを想像してみてください。
誰しもそうかと思いますが、思い出とは、時系列順に語るものではありませんよね。
印象深かったことや嬉しかったことから語り始めます。
思い出したくないことは、後回しにしてしまいます。
また、途中で思い出して、挟み込んで語る話もあるでしょう。

この物語シリーズは、そんな青春の思い出話を聞いているかのような感覚になります。
もしこれが、時系列に語られたら面白くはありません。
例えば、阿良々木に"彼女"のことを聞きたいなと思ったとします。
もちろん、それは、戦場ヶ原との馴れ初めの話をまっさきに聞きたいわけです。
にもかかわらず、『傷物語』、『猫物語』と前置きから順を追って話されても・・・。
もちろん、あまり面白くはありませんよね。
それら前日譚は、「実はね」と後で語られた方が面白いと思うのです。

2周目以降の再視聴時でも、やはり、放送順をお勧めしたい作品です。
{/netabare}


■ジグソーパズルのような面白さ
{netabare}
このシリーズは、ジグソーパズルが組みあがっていくような面白さがありました。

ジグソーパズルは、まずは、わかりやすい特徴的な部分から組んでいきます。
左上から順番にピースをあてはめていくことはしません。
このシリーズにおいては、その特徴的な部分が『化物語』だったのです。

特徴的な部分ができあがってきたら、今度はその周りのピースを探します。
そして、今ある絵の塊をどんどん大きくしていきます。
このシリーズでは、他の物語が『化物語』を補完していきます。
場所によっては、絵の塊と塊がつながりより大きな絵の塊になるところもあります。
ここまでくると、いくつも大きな絵の塊ができ、全体もだんだんと分かってきます。

最後は、いよいよその特徴的な絵の塊と塊をつないでいくときです。
その特徴的な絵と絵の隙間とは、逆に言うと特徴もない余白のようなものです。
しかし、パズルは、ここをちゃんと埋めていかないと「終」われません。
その存在が、正体不明だった忍野扇だったと思うのです。

忍野扇は、『鬼物語』のときに言いました。
「私の仕事は、たとえて言えば、
 宇宙の大半をしめる圧倒的な暗闇のようにありふれた仕事です。
 まちがっているものをただし、終わるべきものを終わらせる。」と。

パズルで余白を埋めていくと、間違ってはめているところに気づきます。
はたして今まで作ってきた部分の絵は正しかったのか?
実は、間違ったことをやってきたのではないか?
つまり、今まで阿良々木がよかれとやってきたことが果たして正しかったのか?
「物語」と「物語」をつないでいくと、そんなことに気づくのです。

パズルは、余白をすべ埋めなければ、「終」わらせることができません。
忍野扇は、それぞれの「物語」の隙間を埋め、間違っている部分を正そうとします。
そして、隙間を全部埋めきってパズルを「終」わらせようとします。
忍野扇は、自分をそんな役目だと思っていました。

でも、違いました・・・。
{/netabare}


■「人は一人で勝手に助かるだけ」
{netabare}
忍野扇は、「物語」と「物語」の間の隙間に隠れていた阿良々木自身の気持ちでした。
1つの1つの絵の塊に相当するのが、1つの1つの「物語」です。
それは、阿良々木がよかれと思ってやってきた、言わば"行い"のことです。
そして、その絵と絵の間の隙間とは、阿良々木自身の隠れた"気持ち"です。
本当にそれでよかったのだろうかと思う自己批判精神です。
阿良々木が抱えるそんな葛藤が形となって現れたのが忍野扇です。
つまり、忍野扇とは、阿良々木自身に他なりません。

最後に阿良々木は、忍野扇を助ける形で決着をつけます。
「物語」と「物語」の隙間に隠れていた忍野扇と言う絵を完成させたのです。
この時、今まで正体不明だった忍野扇と言う存在が認識されたことになります。
それは同時に阿良々木自身が自分の気持ちに気づき、決着をつけたことと同じです。

忍野メメは、かつて言いました。
「人は一人で勝手に助かるだけ。誰かが誰かを助けることなど出来ない。」と。

阿良々木が最後に忍野扇を助けたことは、自分自身を助けたことと同じです。
つまり、「人は一人で勝手に助かる」。
最初に『化物語』で提示されたこの言葉。
これが、最後の最後にきて、主人公自身の身で具体的な形で示されたのです。
この言葉は、忍野メメのその時々のただのキメセリフではなかったのです。
このシリーズのテーマそのものだったのです。
そして、そのテーマが主人公自身によって最後に回収されたのです。

こんなにも長い話なのに、最初と最後が一本の線できちんとつながっている。
そして最後は、このテーマをしっかりと締めている・・・。
これは、なんてすごいことなんだと驚きを隠せません。
{/netabare}


■「本当は はじめから すべて わかっていた」
{netabare}
パズルが完成したら、全体の絵を眺めてみます。
絵と絵、すなわち、「物語」と「物語」の隙間、そこにはちゃんと忍野扇がいました。
でも、実は、それは最初から分かっていたことでした。

「おうぎダーク」のOP曲「dark cherry mystery」の歌詞にもあります。
「本当は はじめから すべて わかっていたと
 すべてが終わってから やっと わかる いつも」

実は、ジグソーパズルとは、最初から全体の絵が分かっていて組み始めるものです。
しかし、組み上げていく最中には、これでいいのかと一種の疑心暗鬼にとらわれます。
それは、根拠がない"正体不明"な気持ちです。
それこそが、忍野扇だったと思うのです。

しかし、それでも、そこに忍野扇がいることは、
言い換えれば、阿良々木にとって自分自身の気持ちは、
「本当は はじめから すべて わかっていた」ことなのです

心の声に耳を傾けるって、大切ですが、とても難しいことですよね。
そんなこと、自分では最初から分かっている。
でも、それに対してなかなか素直になれない自分もいる。
心の声ってそう言うものですよね。
それでもやはり、自分と向き合うことは大切なことなんだろうと思います。
OP曲にあるように、「すべて終わってからやっとわかる」のは、やはり辛いことです。
でも、それが青春であり、それが人生であるのかもしれません・・・。
{/netabare}


■まとめ

この作品は、すべてのシリーズを観るべきです。
すると、目の前でパズルがだんだんと完成してくるのが見えてきます。
最初は、特徴的な部分の絵の塊がいくつか見えてきます。
次は、その絵の塊の周りがさらにひろがっていきます。
最後には、その絵の塊と塊の隙間が埋まっていきます。
このシリーズは、まるでそんなパズルが完成していくような感じでした。
阿良々木の"行い"と、"気持ち"がパズルのように綺麗に組み合わさっていくのです。
この長い物語は、パズルが完成する長い過程を描いて見せてくれたのだと思います。

とても面白かったです。

次は、『続・終物語』です。
このシリーズのエピローグです。
あらためてこれは青春だったと認識する大切な物語です。

投稿 : 2022/03/13
閲覧 : 217
サンキュー:

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