「その着せ替え人形は恋をする(TVアニメ動画)」

総合得点
85.4
感想・評価
728
棚に入れた
2464
ランキング
238
★★★★☆ 3.9 (728)
物語
3.9
作画
4.1
声優
3.9
音楽
3.7
キャラ
4.0

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

コスキュン💘ラブストーリーは始まったばかりだ!

伝説の採寸回! とても眼福でしたね~これが2話で拝めるとは……( ̄ii ̄)
他作品以上『To LOVEる -とらぶる-』未満といった感じで非常にセンシティブなシチュエーションが豊富にある1クール。スケベな男性視聴者にとって観て損のない仕上がりになっていた。作画もとても良かった。
ただそれだけでは円盤の初週売上が5ケタいったとか、そういった目に見える人気作品になれるわけがない。本作は決してエロには頼りきらず物語やキャラクターの内面、それらを彩る構図や劇半なども非常に高いクオリティーで魅せた株式会社「CloverWorks」渾身のラブコメディである。


【この娘が可愛い:86.8cmの魅力!“コスプレイヤー”のマリンちゃん(1)】
ラブコメで大事な部分といえば当然「ヒロインが魅力的かどうか」であり、そのハードルを軽々と飛び越えたのが彼女、喜多川海夢(きたがわ まりん)だ。
見た目が典型的なギャルなので一見、陰気な人────通称“陰キャ”にとっては近寄りがたく、チャラ男や同じギャルを惹き付けて離すことはないように見える彼女。しかし実はゲーム・アニメ・マンガを嗜み、それらに登場するキャラクターになりきりたい「コスプレ願望」を持つ少女だったことから陰気で孤独な主人公・五条新菜(ごじょう わかな)との関係と物語が始まった。
世間では十中八九「オタク」と呼ばれてしまうだろう彼女だが、私はマリンをそんな蔑称で呼びたくはない。オタクと聴けば家に閉じ籠りひたすらアニメやゲームを消費し身だしなみに疎い人種だと思う人はまだまだいるからだ(実際、オタクの大半はそうではないだろうか)。
マリンはそんなイメージとは真逆の“陽”の権化のような人物である。そうでなければ見た目どおりの「ギャル」としての交遊関係に息苦しさを見せる描写もあっただろう。しかしマリンはギャルの友達に自分の好きなキャラクターに関して熱弁することができる。小バカにしてくる奴を「ねーわ」と斬り伏せることができる。そんな威風堂々とした姿を見て従来のオタクと一括りにするのは完全に間違っている。そういう「自信」と「陽気」を振り撒く人物を私はオタクとは呼ばない。
マリンは明朗快活な女子高生でもあり、されどオタク趣味────人の好きなものは決して見下さない“コスプレイヤー”という新しくピックアップされた人種だと言える。

【この娘が可愛い:86.8cmの魅力!“コスプレイヤー”のマリンちゃん(2)】
特異な趣味を抱える「羞恥心」や「劣等感」といったものを一切、持ち合わせていないマリンは常に行動的で堂々としている。思い立ったら即行動、憧れのキャラクターになりきるためなら先ずは自分でやってみて、ダメならどんな人物でも偏見なく接して頼りにしてしまう。
そんな彼女だからこそ第2話で「男が女を採寸する」というすさまじいシチュエーションが誕生した。もちろん、合意の上である。
異性の前で平然と服を脱ぎだすインパクト。採寸のために身体を差し出す無防備なポーズ。そして躊躇うばかりな五条へ採寸をせがむ度に揺れる86.8㎝のバストがとても扇情的であり男性視聴者の情欲を掻き立てる。そんな「無自覚」な誘惑も然ることながら、五条が自分の採寸に照れているのがわかると彼の万年床に横になってみたり「五条くん、(私の乳首)ど~こだ♪」とからかってみたりなどの小悪魔的なムーブも素晴らしい。
これまた一見、痴女にしか見えない彼女だが
恥じらいが0というわけではない、飽くまでもコスプレをしたいがためにその恥じらいが薄れているだけだ。その隠れていた恥じらいがここぞという時に垣間見える瞬間もまた、たまらない。

【そしてココが面白い:オチと引きのしっかりしたストーリー(1)】
そんな「光」のようなマリンが幼少期に「闇」を抱えてしまった五条を頼り、日なたに連れ出して関係を深めていく。互いの好きなものを一切否定しない理解者から友達、親友────そして片想いへ。この発展が1話から5話にかけて丁寧かつテンポよく描かれており観やすく、各話のオチと引きをしっかりとつけている。
とくに第1話はマリンのなりたいキャラクターが『聖ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2』という18禁ゲームの登場人物であり、そうとは知らずに衣装作りを約束した五条はまさかの真顔で「なんですって?」と訊いて終わるのである。それまで割りとオドオドとしていた青年の突然の真顔。そりゃ聞き返したくもなるだろう長くていかがわしいタイトル。そしてメインヒロインが「エロゲのキャラになりたい」とカミングアウトするインパクトは凄まじく、笑わせてもらったと同時に一気に本作への興味が沸き立ってしまった。

【そしてココが面白い:オチと引きのしっかりしたストーリー(2)】
{netabare}とんで第5話。無事、衣装を完成させてイベント出演も達成した2人が帰路に着くシーン。精根尽き果てた五条はマリンの隣でうたた寝をし、その時まで滅多なことでは口にしないと決めていた「綺麗」という言葉をマリンに向けて放つ。
「うたた寝」というシチュが彼の本心であることを裏打ちし、その後、列車がトンネルをくぐって間(ま)を作る演出が質の良いトレンディドラマのようでいて大変、素晴らしい。そして西日に負けない程に頬を赤らめたマリンは推しキャラへの熱や単なる恥ずかしさとは違う反応を示しており、誰が観てもここで彼女が恋をしたことがわかる。
ここからのテンポの良さもまた、令和の時代に合ったストレスフリーな感じだ。通常のラブコメなら「私ひょっとして彼のこと…」みたいに恋を自覚してシリアスに悩み続けたり、惚れた相手へ逆に辛辣な対応をし始める(俗に言う“ツン”をする)ところだが、マリンは即「しゅき💕」となってしまっているのだからこれも笑えてしまう。それでいて五条も5話時点でマリンの生き様に憧れ、自身の卑屈な面・臆病な面を克服しつつある段階。後はもう一線を超えるか超えないか、それだけだ。マリンが撮影スタジオと間違えてラブホテルを予約しそのまま入ってしまう第11話は必見である。{/netabare}

【そしてココがためになる:丁寧に描かれたコスチュームプレイ】
さて今更にはなるが、本作は「コスプレ」というものも徹底的に掘り下げ私たちに紹介してくれている。
衣装づくりに必要な布の生地やアクセサリー等の小物、キャラに近づけるための特殊メイクやウィッグ、それらの調達法や材料にかかる費用の実態まで事細かに追究・描写している。伝説の採寸回でも「採寸」だけにほぼ1話使っただけあって、マリンのスリーサイズだけでなく腕回りや脚回り、頭や股下まで隅々と五条くんが測るのである。
{netabare}個人的に気になったのが「Bホルダー」というアイテムの登場。これは女性が男装する時に使う胸つぶしなのだが、恐らくマンガ・アニメに登場させたのは本作が初だ。長らく胸つぶしに使われるのが「さらし」で止まっていた私にとってBホルダーが使われる展開は新鮮であり、コスプレに関する知識が大きく更新されたのは書くまでもない。{/netabare}

【そしてココが熱い!:少女たちのコスプレへの想い】
派手で豪勢な服飾に、明暗も彩度も多岐に渡る髪色を持つ2次元のキャラクター。彼らに近づくために衣装やウィッグを用意し、時として生まれ持った体型までも道具で矯正しなければならないというコスチュームプレイの大変さが本作で如実に伝わってくる。そんな大変な過程を経てまで人はなぜコスプレをするのだろうか。
それは人によって答えが違う。マリンはコスプレを「作品愛・キャラクター愛の表現」と捉えている。これを読んでいる貴方にも良悪関係無く好きなアニメや“推しキャラ”というものがあるだろう。その推しへの想いを絵が描ける人なら絵に描くだろうし語彙力があれば言葉や文章で表そうとする。オタクが好きなことになると大抵、早口になるのはそのためだ(笑)
そしてマリンはその身体で表現することに決めた。コスプレこそが推しへの想いを全力でアピールできる「究極の愛」だと思ったからである。
ジュジュ様こと乾 紗寿叶(いぬい さじゅな)は子供の頃の「魔法少女になりたい」という夢をコスプレによって叶えている。アニメを観れば好きなキャラと同じになりたい、同じようになりたいという「憧れ」を抱くものだ。しかし大人になれば現実に魔法少女やヒーローなんて存在しないことは分かってくる。だが憧れは捨てられない。彼女にとってコスプレは現実をわかった上で夢を叶える1つの手段なのである。
{netabare}その妹たる心寿(しんじゅ)はお姉さん大好きっ娘であり、姉のコスプレ姿を写真に納めていく内に密かに「変身願望」を育んでいた。その押し殺していた気持ちが五条によって解き放たれ、初めてにしてハードルの高い「男装」に挑戦する。好きなキャラが、大好きなお姉さんのように頼りになる男性キャラだったからだ。{/netabare}
好きな作品・好きなキャラへの愛と憧れ、そして「なれないものになる」という少女たちの夢を、雛人形の頭師(かしらし)になるという夢を持つことで今まで苦しんできた五条が親身になって叶えていく。そんな細やかなシンデレラストーリーの繰り返しが視聴者を感動させ、少女たちの表情や動き・台詞・演技などによって「コスプレイヤー」の嬉しさや楽しさを視聴者に伝えてくれる。


【総評】
初めこそ第2話の話題を聞き付けて“それ”目的で視聴を始めたが、いい意味でそれ以外の要素も強く押し出した素晴らしいラブコメ、青春劇だ。
充実した学生生活を送れなくても雛人形への愛を持ち続けていた主人公とまだまだ偏見が強いオタク趣味を好きだとひれらかすギャル系ヒロイン。ジャンルは違えど自分の好きな事にまっすぐ向き合う2人が第1話で出会いドンピシャリと意気投合する様が観てて気持ちが良く、例え今は理解できなくても相手の本気を否定せず真剣に向き合い応援する姿勢に大きな好感が持てる。
そんな理想的な人格と「夢」や「希望」をしっかりと持つ主人公とヒロインだからこそ本作は只のラブコメディでは終わらない。コスプレによってヒロインがどんな風に輝くのか。その衣装を作り続けることで主人公はどんな風に成長し、頭師の夢に近づくことが出来るのか。そういった面で話の緩急をつけて物語が追えるよう作られており、中盤で完成された相思相愛の関係を無理に崩す必要はこの作品にはないのである。
勿論、数々のサービスシーン含む2人の恋愛模様を中心に描かれた作画も超絶的だ。まるでロトスコープを使ったかのように一つ一つの動きが重心を感じさせてとても自然。さらに肌着の食い込みやバスト・ヒップの肉付きを事細かに描いた女体は制作側の強いこだわりを感じさせてくれる。また、ギャルとオタクの二足のわらじを履くマリンがオシャレであることにも説得力を持たせている。毎話のように変わる私服やネイル、ブラやパンツに至るまで全てが高品質で描かれていた。原作ファンからすれば感涙ものであろう。
BGMや主題歌、声優の演技も作品にとてもよく似合っており“音”に関しても隙がない。とくに主役を演じた直田姫奈さんと石毛翔弥さん、まだそこまで業界で活躍されてないだろうにもうキャラクターの演技が上手い。声だけでも五条やマリンがどんな感情でいるのかがハッキリわかり、台詞がより印象深く心に残る。さらに姫奈さんにはマリンの「ギャル言葉をオタク特有の早口で」という難しい演技が度々あった筈だが、これを見事にこなし私たちに一笑を与えることに成功している。
{netabare}強いて欠点を書くならば第1~5話が「初めてのコスプレ編」、6~10話を「乾姉妹とコス合わせ編」と称せる中、第11・12話は単発回となっておりやや区切りが悪い。11話は興奮さめやらない神回でもあるが最終話はよりにもよって『月刊少女野崎くん』でも『かぐや様は告らせたい』でもやった「夏まつり」というド定番を持ってきてしまい、この作品の個性を最期まで感じ取ることが難しくなってしまっている。
しかしこれは仕方ない。私は未読だが本作は原作マンガの単行本5巻の範囲までをアニメ化している。つまり下手なアニオリで一時〆るよりかは尺の許す限りまでアニメ化範囲を伸ばす方向────つまり“鬼滅スタイル”で制作されたのだろう。この原作ファンを大事にした姿勢こそ評価すべき部分である。減点は無し。むしろこの完成度でまだ未完なのかと驚愕してしまった。{/netabare}
やはりこの作品も好き嫌い以外で否定できるような非の打ち所は全く存在しない。最初はサービスシーンも多くそういった目で見られても仕方ないのだが、その真のテーマは性別の垣根なく見るべき素晴らしい作品だ。自分の好きなことに真っ直ぐに向き合う主人公とヒロイン。雛人形とコスプレを通じて彼らの生き様と恋模様が全開に描かれた物語は清々しくて美しく、いつまでも────2期でも3期でも暖かく見守りたくなる魅力が備わっている。

投稿 : 2022/05/30
閲覧 : 314
サンキュー:

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