「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 第2クール(TVアニメ動画)」

総合得点
88.5
感想・評価
723
棚に入れた
3107
ランキング
106
★★★★★ 4.1 (723)
物語
4.1
作画
4.3
声優
4.1
音楽
4.0
キャラ
4.1

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ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

剣と魔法の社会生活

アニメーション制作:スタジオバインド
監督・シリーズ構成:岡本学、助監督:平野宏樹、
キャラクターデザイン:杉山和隆、髙橋瑞紀
音楽:藤澤慶昌、テーマソングプロデュース・歌唱:大原ゆい子、
原作:理不尽な孫の手

1期の後半は、すれ違いの物語だった。
ルーデウスがロキシーとパウロ、ゼニス、
アイシャ、エリスと悉くすれ違っていく。
そもそも人と人は、すれ違っていくものかもしれない。
すれ違うはずの運命をどのようにして
自分のほうに手繰り寄せていくか、
または運命のほうに近づいていくのか。

{netabare}そのなかでも、やはりいちばんのすれ違いは、
ルーデウスとパウロの親子だっただろう。
実際には本当の親子とは呼べない関係性だが、
やはりふたりは親子だったのだと感じさせる
良質なエピソードだった。

自分の子供に過度な期待をしてしまうパウロは、
ルーデウスのことを自分以上に認めている。
何かが起こったとき、きっと自分以上に頭を働かせて、
家族のことを助けるために動いてくれているに違いない。
ルーデウスが家族思いのことをパウロは理解している。
しかし、ルーデウス自身が自分のことしか考えられないほど、
追い詰められていたとは想像ができない。
自分の息子は天才なのだから。

こういう思考は、できる子供を持った親なら
多くの人が辿るのではないだろうか。
前回のレビューのときに、私は自分の親のことを
少し書いたのだが、できないことを詰ることも
似たような思考回路だと感じる。
自分の息子は、自分より優れているはずだから、
きっとやってくれるに違いない―――
しかし、それは親の想いの押し付けでしかない。

パウロが期待していたとき、
ルーデウスは、自分の周りのことだけで精一杯だった。
ひとつは、エリスを必ず無事に連れ帰ること。
もうひとつは、自分と同じ苦しみを抱えた
スペルド族の汚名をそそぐこと。
それは両方とも自分の問題でもあった。
エリスとは家庭教師として付き合っていくうちに
彼女の悪いところ、良いところを全て見てきている。
これは幼馴染に近い関係性だろう。
そして、ルイジェルドのことは自分自身の問題と捉えていた。
周りからレッテルを貼られたために、
より意固地な心に変貌してしまうこと。
ルーデウスにとってはクリアしなければならない課題だった。

しかし、そういうことをパウロは理解できない。
また、ルーデウスが全てを余裕でこなしていると
勝手に想像してしまっている。
パウロ自身も娘のノルンとともに異国に転移させられ、
必死になって娘を守り、妻や娘を探すことに年月を費やしてきた。
しかし、遅々として進まない現状に心が折れかかっていて、
酒浸りの生活を送っていたのだった。
そんなときにルーデウスが目の前に現れ、
自分の抱えていた辛さを全て息子にぶつけてしまう。{/netabare}

私は、1期の作品の全エピソードのなかで、
この13話と14話がいちばん好きだ。
第2クールは村での話も含め、
感情と感情がぶつかり合う話が多いが、
とくにこの2話分は秀逸だった。

ほかにも、ロキシーと両親とのすれ違いからの
何十年もの年月をかけた和解もある。

もちろん、エリスとルーデウスの関係も
すれ違いと言えるだろう。
{netabare}ルーデウスは、エリスから「家族」になってくれと
言われたにも関わらず、
相談もなしに別れを告げられてしまう。{/netabare}

視聴者の立場としては、1期の途中から
お転婆で聞き分けのないエリスが、
人間的に真っ直ぐに成長していく姿を
ルーデウスとともにずっと見てきたので、
このすれ違いは残念な気もした。

ここまで「すれ違い」でまとめたものの、
1期全体のテーマの中心は、
ルーデウスとルイジェルドだったように感じる。
だから、全体がとても締まって見えた。

立場は違えど同じ境遇のふたり。
どちらも孤独な心を抱えて、
自分の殻に閉じこもっていた。
現状を変えるためには何をすればいいのか。
それは、他人の目を意識し、
コミュニケーションをとり、
社会における常識的な規律を守ること。
さらに、困っている人がいたら助けること。
それをもっと小さな世界、
学校のクラス、会社のフロアというレベルで
考えても同じことだ。

他人とコミュニケーションもとらず、
周りの空気感もつかまずに、
自分勝手な行動ばかりとっている人間は、
やがて誰からも相手にされなくなる。
そんな当たり前のことを理解できない者がたくさんいる。
いや、自分の苦手なことから逃げて、
楽なほうを選択しているだけなのだ。
社会になじまなくても良いと思っている。

この作品では、そういう状況に陥らないように
他人について考えることの大切さを説いている。
社会に馴染むことが全てではないが、
そこから得られるものも大きいし、
生きやすくなることも確かだ。

現在、過ごしている場所で上手くいかない者が、
違う社会に行ったからといって、
快適に過ごせる可能性は低い。
上手くいかなかった理由が、
その人自身にあることも多いからだ。
それは異世界においても同じこと。
この物語では、手を差し伸べてくれた人を
拒否した過去を思い出す場面がある。
凝り固まって意固地になった心。
1度の他人への対応が、悪い流れを生むこともある。

しかし、他人や社会とすれ違いながらも
何とかうまく付き合っていくことで、
自分だけでは得られなかった大切なものを
享受できることもある。

人はひとりでは生きていけない。
そんな当たり前のことが
剣と魔法の社会で表現されている。
(2022年8月7日初投稿)

投稿 : 2023/11/08
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サンキュー:

55

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