ERRUE さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ストーリーは面白い。しかし…
所謂「異世界転生のなろう」に分類される作品。何処かで見たことのあるようなテンプレート系のストーリー。
ただ、ストーリーの致命的な破綻や、伏線未回収のまま終わることは無かったです。
しかし、満足度がそれなりになってしまった理由は「時代考証と価値観の詰め」が少し足りなかったのでは?と感じました。
ここからはネタバレになります。
{netabare}
◎時代考証・価値観
歴史、政治、戦争を扱う作品には、登場する国家の時代に合わせた「文化・価値観」を煮詰めておくことが重要だと思っています。
今作の主人公であるソーマは「地方公務員を目指していた青年」の設定です。
そして、異世界の国の事情とはいえ「文明レベルの違う人間」がたった一人、異世界に放り出される状況から始まります。
リゼロのスバルを思い浮かべると分かりやすいですが、見たことも無い服装と知らない言語、見聞きしない知識をひけらかす人間に対し「地元民が直ぐに心を許せるか?隙あらば命を奪いに襲ってこないか?」という疑問が生まれます。
これは映画インディペンデンスデイに通ずる話になりますが、圧倒的文明レベルの差がある生物と相対した時に出る感情は「拒絶や畏怖」だと感じます。
この作品の国王・王妃・側近の人間は「主人公ソーマを簡単に信用し過ぎる」点が引っ掛かりました。
また、森林開拓の手法、インフラの整備、財政整理などの国策は「現代日本の政治」そのもので、異世界の国にぽっと提案できるとは思えないですね。その土地の人間が築いてきた「文化・政治体系・価値観」をたった数年で変える事は不可能です。
カーマイン侯が物語冒頭に、ソーマの王政に対して反逆の宣言をするシーンがありました。その時は「反抗されるのは当然だよね」と思って見ていましたが、最終的には「汚職貴族を反逆者に仕立て上げ、まとめて粛正する為の罠」だということで「?」となりました。
ということは、初めからカーマイン侯はソーマを信用していたことになります。
いくら汚職に手を染めた貴族を罰する為とはいえ、「異世界から突然やってきた青年に政の全てを任せるリスク」を天秤に掛けた場合はどうなんだろうと感じました。
1話の中でリーシアがソーマに「たった数年で国が再建できると思っているの?」と尋ねる場面がありましたが「まあ、その通りだよね」というコメントしか出ませんでした。
現代日本の技術で「形だけの物理的な復興は可能」だと思いましたが、その土地の人間の心まで変える事は不可能ではないか?
特にエルフの森での間伐に言えることですが、「神聖なもの、信仰の対象」になっている木々を「災害対策」の一言で簡単に切れるものでは無いです。作中では「森の住民からの反発もある」とアイーシャが言っている場面もあり、多少は揉め事として描かれてましたが「それくらいで済むか?」
と感じます。
◎感想
いろいろと書きましたが、王国再建に関わる「国民の反発や価値観のズレ」に関する問題が薄っぺらく感じました。
正直、森の間伐問題をクローズアップするだけで1クール分掛かっても不思議ではない位、高度で政治的な難問だと思います。
なろう系発のアニメを視聴して感じたことは「歴史、国家、文化」を扱うにしては、時代考証が甘すぎる点です。
特に文化の違い、モノの見方や価値観のズレについては慎重に描く必要があるのでは?と感じますが、異世界転生者が好き勝手に暴れまわる「爽快感」を重視しているのかも知れませんね…。
(追記)
書き忘れていたポイントがありました。タイトルにある「現実主義」とは?に引っ掛かりがありました。そもそも「タイトルからして矛盾があったんだ」と。
この矛盾について例えるに持ってこいのタイムリーな話題作品がありました。そう「日本沈没」です。
アニメとは違い地上波ドラマですが、国民の命を助けるために1人の政治家が奮闘する物語です。あちらはあちらで「低予算ドラマ感」が否めない部分も目立ちますが、評価点もあります。
「国民の命をどう守るか?、住む土地は?」の難題が降ってきますが、
外国の政治事情、内閣官僚の裏切り、他勢力からの妨害工作
様々な価値観の人間の意識を束ねる難しさ、政治・利権絡みの問題に縛られ
「現実はそんなに甘くない」ことが伝わってきます。
復興のアイデアだけは「現実主義」ですが、異世界からやってきたソーマが現地民に信用され、再建を行った手法自体が「非現実主義」「机上の空論・理想論」に過ぎなかったのだと…。
{/netabare}