「Sonny Boy サニーボーイ(TVアニメ動画)」

総合得点
69.8
感想・評価
284
棚に入れた
793
ランキング
1655
★★★★☆ 3.4 (284)
物語
3.3
作画
3.4
声優
3.5
音楽
3.5
キャラ
3.4

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ネタバレ

エイ8 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.4
物語 : 1.5 作画 : 3.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 1.5 状態:観終わった

秒速?センチメートル

『Sonny Boy』(サニーボーイ)は、マッドハウス制作による日本のテレビアニメ作品。2021年7月から10月までTOKYO MXほかにて放送された。第25回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品(wikipedia)

一言で言うと雰囲気もの。何やらそれっぽい内容が続くけど言ってることはずーっと「前に進め」ただそれだけ。それを衒学的手法でコテコテに装飾しているだけで中身はむしろ空虚。ある程度まとめて見たこともあって酔っぱらった目上の人に繰り返し同じくだを巻かれ続けたかのような徒労感が残った。ストーリーも舞台も実のところあってないようなもので、作り手がやりたいことをやるためだけの空間でしかない。その中で脚本家がノートに書き溜めていたネタを小出しにして描いたかのような取り留めのなさが最後まで続く。

とはいうものの一応異世界に漂流した理由らしきものはある。例えばSFによく出るワープ、これは一旦その人の構成要素を分子レベルまで分解してそれを出力先で再構成させるという手順を取ることが多いのだが、では元の本人は実のところ分解された時点で死んでるのではないかという哲学的問題がある。逆に言うならば分解せずに再構成するなら二人の本人が生じることになり、本作品もそれに準ずるような形でコピーされた者達(或いはオリジナル)が漂流したという形をとる。なので、別の本人たちはちゃんと時間が進み中学を卒業していたりする(この辺の時間感覚設定は適当なので正直よくわからない)。後に瑞穂の持っていた能力ニャマゾンが(正確には猫たちのものらしいが)生き物にも適用されるコピーだという事が判明したことからも最低限の舞台設定自体は用意されていたと言っていい。もっとも、なら他の時代の連中はどうやって来たのかという問題も勿論あるのだが、まあ結局全ては黒幕校長の仕業ということにできるのでこんな合理的な疑問を持っても意味がない。作中頻繁に確率がどうこう言ってるが、ちゃんとしたSF考察班のもと作られてる感じは全くしない。

最初の印象は「うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー」。それっぽいだけの脈絡のない展開で異世界に閉じ込められ脱出を試みるという流れからして結構似てる。一応「ラム・ザ・フォーエバー」の方は様々な制約上わけがわからなくなったという経緯があると言われているが『Sonny Boy』の方は構成から見ておそらく初めからあんまり何も考えてないっぽい。

「たまたますごい能力を手に入れてさあ、女子達にも仲良くしてもらって、元の世界じゃいないも同然だった奴がさあ」
作中でこう言ったのは確か加賀君だったか。仲間からハブられてボッチ空間に隠れてた彼が後に長良に向かって言い放った台詞。わかるよ~、すっごいわかる。方や居場所がなくて追いやられた加賀に対し、長良は冒頭からただ教室に寝っ転がって天井見つめていただけで美少女帰国子女の希にずーっと気にかけてもらってる。その上チート能力付きの瑞穂にまで!何でお前なん?って思うのは当然だよねえ。これがエースだったり明星だったり百歩譲って朝風ならわかる。だけど何で長良?加賀と長良、能力以外何処が違う?と思っても当然だと思います本当に。

でも加賀は頑張ったんですよ。あき先生の下で皆勤賞まで果たしてスピーチまで任されるまでになって。だけど意中の骨折ちゃん(てかこの名前酷すぎない?一応つばさと言う名前があるのにスタッフロールでは骨折)からは心を読まれてキモがられる。パッとしない男子が手負いの女子相手にイケるんじゃね?って展開もありがちと言えばありがちだけど、彼女はそんなんより他の女子に恋してるイケメン?の朝風に首ったけなのだ。まあ中学生であることを差し引いても男女の関係は大体そういうもんではあるのでしょうけど、これだといよいよ長良が女子に囲まれる理由がない。一応瑞穂の方は彼が猫を助けたくだりに想う事があったと見ることができるが、その後の展開を見る限り長良に執着する理由としては薄い。希の方はもっと謎なのだが。

結果的に元の世界に戻った長良と瑞穂。瑞穂が何故最初長良のことを知らない振りしたのかは全く理解不能だけど、結局覚えてた。ここは長良の選んだ世界で、希が見た未来。だとすると?希ちゃんは生き延びて朝風とイチャラブできる世界を見ていたってこと?彼女は異世界で朝風と付き合えない理由としてこう言った。
「朝風を尊敬できない」
だとするとこの世界では出来たってこと?
「またバスケ部のやつらに助っ人に頼まれてさ~」
なるほど、スポーツ万能の男子を尊敬するのはJKとしてごくありきたり。彼女が欲してたのは重力を操るような厨二能力などではなく単に普通のスポーツマンだったようだ。だったらエースの方に靡けよと思うけどね。ブロンド相手には勝てないと思ったとか?

「あの島でのあんたが、まだ少しでも残ってれば、大丈夫だ」
そう瑞穂は言って長良の背中を押した。なのに結局朝風とイチャコラする希を前に何も言えない。そして一人黙って立ち去り、微笑みを浮かべる。いや何わろとんねん。
「もう一回、友達になろうって、絶対に、断らないって」
希とそう約束してたやろ?何自己完結してんの?別に断られてもいいじゃない、キモがられてもいいじゃない。約束したのはただの「友達」だぞ?「恋人」じゃないんだぞ?でも彼はそれすらしなかった。
彼女が幸せに生きてくれているだけで良いとか考えた?だったら初めに再会した時に「生きてるだけで丸儲け」とか思わせとけよ。明らかに未練たらたらだったじゃねーか。それとも「やっぱりあいつ別人だからもうどーでもいいやw」の方か?いずれにしろおじけづいて自己正当化したことを成長とは言わない。

結局のところ、異世界での長良は一カケラも残ってかったことを意味しちゃうんですよね、これ。作中で散々前に進め進め言われて、それまで誰も成し得なかった現実世界への帰還を果たしても尚一カケラも成長してなかった長良。
「飛べるようになるまで、私が面倒見ようかな」
最後、怪我した鳥にそう言った希。長良……お前まさか自分が飛べるようになるまで希に面倒見てもらった(だからもういい/だからもう相手にされない)とか思ったんじゃないよな?言っとくけど飛べてないからな?現実世界じゃ。もしその論理が正しいなら空白の中学時代でも相手にされ続けてる筈だけど、向こうはうっすらとしか覚えてないとこ見ると関係性全然築けてないからな。

実際問題、新しい現実で希と長良の間に全く関係性が築けてなかった意味がわからない(加賀とは築けていたようだがw)。初めに二人が出会ったのは漂流前で、その頃から彼女は長良を気にかけていた。逆に言うならば、何故異世界で希は長良を気にかけ続けたのか意味がわからない。帰国子女で話せる人が長良しかいないというのは最初だけの話。能力自体にはこだわらない(筈の)希が彼に執着する理由がないんですよ。帰りたいんならラジダニの方がはるかに重要人物だし。
静止した存在だから人間関係が変わらない?それだと長良と瑞穂、ラジダニが仲良くなる理由がない。せめて漂流後初めて仲良くなったとかだったら異世界での希は単に長良に都合よく設定されただけの偽りの存在とかできたんだけどね。あき先生が現実と違うように。実際心を読まれても何の偽りもないのは希だけというチートっぷりだし、案外そういうつもりで誰かに作られたキャラという可能性はある。まあそれはそれで誰が何のためにという疑問がでるけれど。長良には人を作る力はない筈だし、当時の瑞穂が(仮に出来たとしても)そんなことする義理もない。本作品がセカイ系である大前提はあるが異世界での希の存在はあまりにもラノベ的で長良に都合が良すぎる。

「ここから出てはいけない」
校長先生(表記上はヴォイス?)はこう言った。なるほど、戻ったところで成長なんてしてないからね。静止してたわけなんだし当然かwというか何故二年経ってんの?本人たちは静止してるのに?卒業式を見たから?まあこの作品に合理的な理由を期待してはいけません。初めから雰囲気しかないんです。

結局全然設定を活かせてない作品なんですよ。というか活かす気なんてさらさらないただの舞台装置。36人も一緒に連れてったのに活躍したのはごく一部。それも当初重要な役割を担っていたと思われる明星とその生徒会の面々やエース達一派もすぐに持て余し6話の時点でさっさとお役御免にし舞台から追っ払い希の葬式にも参列させない徹底っぷり。
そもそも名前の時点で作り手の入れ込み度合いがわかるというのもどうかと。長良や希ら主役級には名前を与えて脇役はポニーwキャップw上海w(明星はどっちともとれる)。一方更なるモブキャラになると今度は名前が与えられる。村山、犬山、加賀……とは言え「はやと」のノートによると上海以外はちゃんと名前があるみたいだけど、なのにあえて属性化したのはただの装置でしかないから。

朝風も一話の時点では「パッとしない」奴だったのにいつの間にか現実世界でもすごい奴扱いになってる。この辺は単純に設定忘れただけ、というか気にしてなかっただけだろうけど。
あき先生が実は同い年だとか校長先生が黒幕だとかやまびこが犬になったりならなかったり最終話に出てきた意味深金髪だとかぜーんぶ適当で雰囲気だけ。後インド人なのに仏教徒とか……勝手なイメージで作ったキャラでしょラジダニって。普通はヒンドゥー教徒だと思うよ。

MANTANWEBというところに監督インタビューがあって、最終回は「前向きな終わり方」にしたとあるが、ちょっとよくわからない。前向きなのはこのオチを前向きとした監督自身な気がします。「雨のシーンが続き、最後に雨がやむけど、夜なんですよね」……そんな小手先の演出ドヤられても……というか、そんな枝葉のことばかり気を取られてるから本筋がおろそかになるんじゃないでしょうかね。作り手が前向きだとか成長したとか言えばそういうことになるわけではないと思いますよ。
「やり切った 言いたいことは言えた」ともある。そりゃそうでしょ、じゃなきゃ9、10話のシナリオ執筆時で行き詰ったりしないでしょうから。
(一部他作品である「秒速5センチメートル」の核心にも触れるのでネタバレ扱いで隠します。)

{netabare}
この作品のオチってほとんど秒速5センチメートルなんですよね。昔の女に会ったけど何も言えず笑みを浮かべるってw音楽も山崎まさよしが銀杏BOYZ(12話挿入歌はミツメ?とのこと)になっただけだし。まさかクリエイターが天下の新海大監督の作品をチェックしてないとかありえないと思うんだけど、まあ「あえて見てない」とかありそう。結局予定調和的な「希にアプローチする、或いはしてもらう」という「ありきたりなラスト」を避けた結果大迷作と同じオチになったというオチだったら逆に嗤えるんですけどね。ちなみに秒速の方の笑みは実は女がどうこうは関係なくて「桜が咲いて綺麗だなあ」ということを監督が舞台挨拶で言ったという話もあるんで、案外こっちも「雨が止んで良かったw」ぐらいなもんかもしれないね。だけど、約束破棄は重いですよ。成長物語なのだとしたら尚の事。ただひょっとしたら私小説的側面のある作品なのかなという気はちょっとしました。
{/netabare}

一応、映像表現自体はヘタウマという感じだが上手ではある。80年代風味の描写で、わざとセル画数を減らしたかのような表現も悪くない。ただ無駄なサイケ演出はチカチカするだけで鬱陶しいことこの上ない。結果的に中学生の制服の着こなし描写だけが際立つというヘンタイじみた評価となるわけですが。まあそんなんでも第25回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品になれちゃうんです。雰囲気は正義。

この手の雰囲気ものってどうしても評価が高くなりがちなんですよね。確かに無心で見る限りはそこそこ楽しめる作品ではあるんです。後味は最悪ですし論理的にはグダグダもいいとこですけど。
だけどこれを評価すると似たようなことをやって華麗に散った「グラスリップ」が浮かばれないんで心を鬼にして順当に低評価とすることにします。ちなみにこの辺を上手くやって名作との呼び声をほしいままにしたのが「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」。個人的にはこれもあまり評価してませんが。

ただ同じ監督の「ワンパンマン」の一期に関しては悪いイメージ無いんで、やろうと思えばこういう一般受けするのもできるんでしょう。変に尖った厨二な作品なんかじゃなく地に足付けた普通の作品の方が良い気がしますが。バスケアニメの助っ人とかどうです?おすすめですよ?(^^)

投稿 : 2022/07/09
閲覧 : 352
サンキュー:

8

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