「この世界の(さらにいくつもの)片隅に(アニメ映画)」

総合得点
78.9
感想・評価
99
棚に入れた
634
ランキング
523
★★★★★ 4.3 (99)
物語
4.4
作画
4.3
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.3

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

情緒と歴史。

【概要】

アニメーション制作:MAPPA
2019年12月20日に公開された168分間の劇場アニメ。
原作は、『漫画アクション』に連載されていた漫画作品。原作者は、こうの史代。

監督は、片渕須直。

【あらすじ】

広島市江波(えば)地区で生まれ育った浦野すずは、絵を描くのが上手なぼんやりした少女。
戦時中の1943年(昭和18年)12月。すずに、知らない男性との縁談が舞い込む。

相手は、すずの4つ歳上で大日本帝国海軍の一大拠点である呉鎮守府に勤める書記官の北條周作。
すずは幼い頃に相生橋で人さらいのばけもんが背負うカゴの中で周作と出会ってるのだが、
すずは全く覚えていない。周作は不器用で真面目な青年であり、
とある女性に入れ込んで、彼女を今の境遇から掬い上げて夫婦になろうとしたのだが、
好き嫌いと結婚は別の話であると彼女の職業の問題で家族の猛反対で叶わず、
その女性との関係も終わってしまう。縁談の理由として体を弱らせてる周作の母親の代わりの、
家庭内の働き手としての嫁が欲しかったのと、
周作の過去をきっぱり終わらせるための存在としての嫁。
一度きりの出会いであったが、周作自身がすずを気に入ってたのもある。『ええ話じゃったけ』と、
すずの両親の判断にて、すずの預かり知らぬところで縁談が成立してしまう。

翌1944年(昭和19年)2月に呉の北條家にて、身内だけのささやかな祝言が行われる。
それは、すずが18歳の出来事であった。そそっかしく失敗しながらも北條家の嫁として、
そして、呉の上長ノ木町(かみながのきちょう)のひとりとして、すずは受け入れられていく。
嫁に行って北條の家に娘を連れて戻った義理の姉の径子に小言をちょくちょく言われながらも、
それなりに関係を築いている。

戦時中の呉で、配給物資の供給が滞るようになった時勢で、
闇市に行った帰りに道に迷ったすずは、遊郭で働く遊女の白木リンに助けられて、
彼女と友達になるのだった。

【感想】

原作漫画を読んでみると、2016年に公開のアニメ映画では白木リンのエピソードが大幅にカット。
興行収入10億円達成を条件に、40分相当のシーン追加で原作漫画の9割以上をアニメ化。
結果として2時間48分の大長尺映画に。

通常版との違いは、夫・周作の過去の色恋の残照を組み込むことで、夫婦げんかの火種となって、
少女と大人の中間のようだった柔らかいぼんやりさんな、すずさんが、
とある女性との交流をしていく過程で、夫との彼女の元恋人関係の過去を察するようになり、
自分は元恋人の代用品だったのではないかとの夫への不安。

そして、その女性へのコンプレックスで悩まされることで一人の女性として生々しくなる。
より、すずさんの感情が鮮明になることで大人の女性向けのドラマ作品としての見ごたえがあります。

一組の夫婦と女性との三角関係を描くことで、
人の思いはいつの時代だって大きく変わらないことを示しながらも、やはり根本は、
ありふれた日常・いつもの生活が戦時下で踏み潰されていく、
空襲や原子爆弾で親しい人たちを奪われて心に穴が空いてどんなに苦しくても悲しくても、
人は働いてご飯を食べて笑って生きていかんとならん、地に足をつけて生きる人間の逞しさの話。

アニメの描写に説得力をもたせるのは、反戦イデオロギーに染まっていない原作者である、
こうの史代先生によって描かれる隣組や愛国少年少女ら当時の市井の人々は、
どのようなことを考えて暮らしていたのか、
戦時下の生き証人である、ご老人たちへの取材への賜物でもありますし、
更には片渕須直監督らアニメスタッフによる資料集めで取材された人たちが口々に言ってたのが、
資料を元にした映像でのディティールにこだわり抜いた再現力への称賛ではなくて、
うんざりするほど何度もしつこく尋ねて来たという徹底したアニメづくりへの姿勢なのでしょうね。

アニメで史実を扱うにおいては、登場人物の情緒とは別に善悪好悪を超えて歴史を俯瞰する能力。
物語上での創作はすれども、いい加減な嘘で誤魔化したくないという信念。
保守系思想でもない原作者の、こうの史代先生が左系メディアに擦り寄られたときも、
ノンポリを貫いて体よくあしらってお帰りいただいた。
また、片渕須直監督も個人的な政治思想をアニメに持ち込むことがないプロフェッショナルなこと。
いろいろと人に恵まれて、名作になるべくして名作が生まれたことは喜ばしいことですね。

個人的には、どっちのバージョンのアニメ映画もそれぞれに良いという評価ですが、
ただ、今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、
子供に見せたら気まずいシーンが一部あるのと、時間が長すぎるかな?と思いました。
視聴者に合わせて使い分ければいいだけで、子供にプレゼントするなら、
わかりやすくシンプルに戦時下を扱っている前作のほうが断然オススメではありますね。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2023/08/15
閲覧 : 142
サンキュー:

26

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