shino73 さんの感想・評価
3.9
空の青み
待望の新海誠、最新監督作品。
雨の降りしきる東京のとある病室から、
憂鬱に外を眺める少女。
不意に射し込んだ光に誘われ、
少女は不思議な力を手に入れる。
同じ頃、家族と離れ東京に降り立つ少年がいた。
彼特有の日常への機敏な眼差しは健在で、
映像は満点でしょう。劇伴も素晴らしい。
置き時計、蛇口、錆びた三輪車、雨粒、
きっと配置にまで意味があるに違いない。
…と、思わせる描写の力に感嘆です。
敬愛する村上春樹文学の匂いも健在である。
鳥居とは現世と幽界を繋ぐ門なのでしょう。
母なる海の物語を壮大に描く「海獣の子供」、
広大で青く美しい透明な空を描く「天気の子」、
重力が躍るその上下運動の美しさに圧倒される。
僕たちは空と海の子供だと教わる。
セカイ系2.0と呼ぼう。
新時代の映像作家として自らを更新していく。
そしてここにこそ賛否が問われるだろう。
僕なりの主題を簡潔に伝えればこうだ。
{netabare}希望的観測に従えば「個の回復」であり、
そして「個々人が繋がる強さ」でしょう。
例え不調和な世界でもいい、君と寄り添う。
歪んだ世界を歪んだまま共に歩こうと。{/netabare}
序盤から中盤にかけて素晴らしい演出が続き、
物語は結末に向け悲劇性は増すばかりである。
ここに於いて彼たる所以である、
{netabare}強烈なナルシシズムと世界が衝突を始める。{/netabare}
端的にこの衝突には参った。
物語の構造的観点からは「前進」でしょうが、
率直な印象としては「後退」だと感じる。
しかしこれこそ監督らしい感性なのだろう。
なんて不思議な作品なのでしょう。
フィクションが歪んだまま愛を知るなんて。