モノローグで泣けるなTVアニメ動画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがTVアニメ動画のモノローグで泣けるな成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年05月10日の時点で一番のモノローグで泣けるなTVアニメ動画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

92.4 1 モノローグで泣けるなアニメランキング1位
CLANNAD AFTER STORY-クラナド アフターストーリー(TVアニメ動画)

2008年秋アニメ
★★★★★ 4.4 (10430)
33918人が棚に入れました
『CLANNAD ~AFTER STORY~』は、「CLANNAD -クラナド-」の第2期シリーズ。「世界の終わりは悲しい色に満ちていた」あの感動のストーリーが再び――。制作は第一期に引き続き京都アニメーションが担当し、脚本も引き続き原作ゲームの大ファンと公言している志茂文彦氏という、黄金タッグで作られている。
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

哀しみと涙に満ちてさえ世界は美しい

レビュータイトルはことみパパのセリフから

本作の『渚が洗濯物を抱えて微笑んでいる』一枚絵
ただそれだけの一コマがどれだけ尊いことなのか・・・
そう感じさせてくれただけで充分かな、と全話観終わっての感想です。


名声をもとに視聴に至る・・・
一定数は評判通りの印象を作品から受け取る一方、あぶれる観客も出てきます。
とりわけ4クール分となれば、あぶれた場合に期待からの反動は大きいものとなり、視聴後はなんともやるせない気分になります。それはできれば避けたいっ ( ゚Д゚)
視聴までのハードルが高い作品というのはあって、『コードギアス』そして本作『CLANNAD』あたりは代表格ではないでしょうか。1クール全盛時代に、両方とも途中参加は忍びない大作です。見逃してしまった評判の高い大河ドラマをイチから追いかけるような感覚に近いかもしれません。

話数の多さ。だけでなく、関連情報に触れた時の目に飛び込んでくる熱量の高い推薦の声・声・声。「観たい」んだけれど知らず知らずに後回しにしていた作品でした。


 “名作を名作のまま堪能したい”


せっかく視聴するんだからこれに尽きます。『CLANNAD』と『CLANNAD ~AFTER STORY~』堪能する上での障壁と思しきものは3つ。

1.キャラデザイン
という声が多いですね。私はあまり気になりませんでした。内容を知らないウチの家族にチラ見されるとちょっと恥ずかしいかな!?くらいです。

 ⇒“3日で慣れる”と言い聞かせてみてはいかがでしょうか。


2.キャラの行動
アニメアニメし過ぎてシリアスパート外でのキャラ付けにリアリティを感じにくいのです。

 ⇒おとぎ話と割り切って、私は考えるのを止めました。


3.{netabare}結末の唐突感
これは障壁というよりも本作品に限らずあり得ることですし、受け取り方でこればかりはしゃーないです。{/netabare}

細かいのを挙げればキリがないですが上記3点をスルーできれば、家族愛という普遍的テーマを扱う本作を“名作”として楽しめるんじゃないかと思います、たぶん。。。
前置き長くなりすんません。私は思いっきり堪能しました。たしかに名作の名に恥じない作品だと思います。

親、兄弟、姉妹、妻、夫、そして子供。家族を大切にしようと思うのではないでしょうか。
そこに仲間を加えて、周囲の身近な人たちが自分にとっても向こうにとってもかけがえのない大切な存在だと思える。キャラの見た目やおかしな行動などを軽く超えて訴えてくるものがありました。

軽いお話ではないですし、この際泣ける泣けないは置いとくとしても、“生きていくこと” “人との係わり” についてポジティブなメッセージを発していることは確かで、視聴する価値が充分にあるオススメアニメです。

また、主人公らの高校時代にだいぶ時間を割いているものの、老若男女いろんな人にストーリーが用意されてたり、主人公らにも高校卒業後の人生イベントがいくつか控えてたりと、視聴する方の年齢や家族構成によって受け取り方に幅のある奥行きのある仕上がりになってます。




以下、ネタバレで感想。
どうみてもエモいシーン{netabare}(渚の出産、汐と朋也のあれこれなど){/netabare}については出尽くした感があるので割愛します。良いシーンですよ。


■岡崎と渚の補完しあう関係
{netabare}岡崎はこの街が嫌いでした。対照的にこの街(学校)が好きと言う渚。ただ好きでい続けられるかは本人も自信がありません。
「全部変わらずにはいられない それでもこの場所を好きでいられますか?」
そこに岡崎が「見つければいいだろ次を」
瞬間モノクロの画面がカラーに転じて春の桜の風景が立ち現れる冒頭のシーン。以後何回か繰り返される重要な場面です。

二人には、こんな印象を持ちました。

岡崎:現状否定。場所を変えればなんとかなると思ってる人。
渚:現状肯定。場所に留まり続けるために努力しようと思ってる人。

家庭環境の差そのまんまです。見た感じ渚はふわふわしてる一方で岡崎は行動力あってとまさにミスリードなのですが、覚悟や芯の強さで渚はブレず、対する岡崎は場当たり的だったのが実状でした。でも悪いことではありません。渚も行動に落とし込む作業が苦手なためお互い足りない部分を補えばよいのです。環境を変えて上手くいくことだってあります。

完走してみると、そんな岡崎が現状を受け止め、受け入れ、本当に大事なものを見つけるまでの物語だったのだと思います。

現状を受け入れたくないなんてこといくらでも思い当たる節があります。{/netabare}


■不協和音の正体が判明してから押し寄せる感慨深さ
ヒロインたちの行動にリアリティが乏しくシリアスパート以外キャラへの共感がしづらい。そこはおとぎ話と都合よく脳内変換することで不問にしたのは先に申し上げた通りです。
2期AS中盤以降シリアスだらけになるためそこでまぁいっかになるか、それまでの負債のせいで低空飛行してしまうかというのはあるでしょう。そんなの全く気にならなければ、無視してもらって構いません。

{netabare}こういった極端なキャラさんは現実世界を生きていく上での “理不尽さ” の表れのように思えます。どういうことか?
アニメだからと言い訳はたつものの、例えばリアルで風子やことみのような同級生がいたら「お薬足りてますか?」ですし、杏にバイクで轢かれたら保険屋さん呼んで首痛いとなるでしょう。平たく言うと“あり得ない”人達です。そんな彼女らを岡崎(春原もね)は邪険に扱いません。

【いいことがあった時や幸せの瞬間に生じる光の玉 手に入れると願いがかなう(8話の宮沢有紀寧)】

唐突にも見えるラストシーンもこれまでの光の玉収集の積み重ね。

1.理不尽さの象徴たるサブヒロインらに向き合って、いいことや幸せの瞬間を迎える。
2.嫌いなこの町(現状)を受け入れることで、いいことや幸せの瞬間を迎える。

だいぶおかしなところもある仲間を大切にする(1.)、受け入れがたい現状を受け止め前を向く(2.)。そうやって徳を積んでいった結果のラストシーンだったと思えてくるのです。

『置かれた場所で咲きなさい』
数年前のベストセラーで内容もタイトルから想像できるような書籍です。
生きていればいろいろあって、恋愛なら意中の人と出会った後、付き合ってからが、結婚してからが、そして子供が産まれてからがそれぞれ本番でしょう。
置かれた場所で懸命に咲く。付き合うまで、結婚するまでを追う作品が大半の中で、その後の『AFTER STORY』を消化して提示できた作品は稀であります。

本作が名作たる所以なのでしょう。{/netabare}


{netabare}またこのことは岡崎だけに限りません。むしろ岡崎がやらかしたことを周りの助けがあって救われることもありました。
例えば“5年もの間、実娘(兼愛妻の忘れ形見)をほったらかしますか?”
ただしここでは岡崎への文句よりも古河夫妻の献身に触れたいです。夫妻の視点だとネグレクトな義理の息子と乳呑み児な孫娘の存在は“受け入れ難い現実”です。結果は観ての通り。主人公だけではなく他の登場人物も立派でした。

人は一人では生きていけないとか絆だとか言うは易しですが、きちんと具体的に作品の中で描いてはじめて説得力がでてきます。{/netabare}

いくら理不尽だろうが、その場から逃げることはできない。逃げたいという誘惑を振り切って留まり覚悟を決める。
岡崎が否定した“この街”とは、理不尽であり不条理な現実のことを指していると解釈しました。


■親が子に見せたい背中
親世代で登場するのは、渚、朋也、ことみの3家族でしょうか。この作品。一口に家族愛で済ませるのはなんか足りない気がしていて、自分が感じたのは、親の子への想いってどんなだろう?について好感のもてる演出だったところになるかと。
親が必死に子育てしているのが伝わってくるのです。

{netabare}「自分の夢をお前の夢にしたんだ」(学園祭劇での古河家)
「まだ絶望するわけにはいかなかったんですよ」「この子だけは自分の手で育て上げるから」「それでもあなたと生きることをあの子を選んだのです」(岡崎家)

ちょっとしたところでも、例えば早苗さんが秋生と朋也の野球対決で渚が割って入ろうとした時に、「男の対決は黙って見守るもの」と年長者らしい配慮を見せて退出を促しつつ、それでも残る渚に対しては何も言わず一人で退出していく、と出るとこ引くとこ緩急の使い分けが心地よかったりします。{/netabare}

脈を打つ次世代へバトンタッチのDNA。自分らが良ければいいのではなく、次に繋ぐ覚悟と行動に胸を打たれました。後世に託しているのです。

改元のタイミングでもあるのでそれに即して説明すると、、、
日本人は「続く」ことに対して当たり前のものと捉える傾向があるそうです。2000年以上、国の断絶を経験してないことが大きな理由でしょう。一方でだからこそ、国が無くなる、分割されるといった悲劇を肌感覚で理解はできなくても、「続ける」ための多大な努力を払ってきたし、またそうした努力には敬意を払う心根が根付いてます。
そこで古河夫妻と岡崎父です。子供に託した古河家、捧げた岡崎家です。私たちも普段は無自覚でもこうして親の献身ぶりを目の当たりにするとなにかしら思うところがあるのではないでしょうか。

A.孫が大きくなった時?その頃には自分死んでるから知らん
B.孫とその先の世代まで幸せに暮らせますように

極論でもB.の感覚に近い人たちの集合体が私たちであると信じたいものです。
ただもうそれは立証されてるのかもしれません。「愛してるぜハニー&マイドーター」な家族愛ではこれほどの高い評価は得られなかったと思うからです。




1期と合わせた総評となりますが、
序盤から中盤までは多くの作品で描かれてきた学園生活といったものを。
その登場人物らの人となりが浸透してから満を持してAfterstoryを。
さすがに老人期まで描くことを望むのは欲張りなことで、それでも山あり谷ありの人生の一部を垣間見せてくれた作品でした。看板に偽りなしです。


{netabare}ラストの奇跡は元気玉みたいなもんだと思ってます。コツコツ集めた光の玉が臨界点にまで達したのでしょう。
渚の出産時に「ずっと一緒にいることがやっと見つけた夢」となり、「やっと見つけた。俺にしか守れないもの」汐も同様です。
「あなたをこの町の願いの叶う場所へ連れて行きましょうか?(学園祭劇での渚のセリフ)」
汐が果てる時に、「渚!汐を助けてくれ!」と絶叫しながらの悲痛な願いが並行した幻想世界とリンクしたんかな?と。このへん解釈いろいろありそうです。
そもそも元気玉といっといて、効果はシェンロンだったりするのでやはりよくわからないですかね。
光の玉の乱舞は地面から天へと。渚も汐もアレしたのは雪降る日と絵的にも良い対比でした。{/netabare}



全編完走した私たちはきっと、after×2(仮)では、洗濯物を抱える渚に目を細めてしまうのでしょう。
ことみ父の言葉を借りれば、“この世の美しいものを最もシンプルな言葉で表現された”かのような物語でした。



最後に、、、
「私のパンは〇〇だったんですね~」の早苗さんとそれを受けての秋生の返しと毎度ナイスな大喜利を考えてくれたスタッフさんありがとうございます。



-------
視聴時期:2019年5月   



2019.05.11初稿
2019.11.21追記

投稿 : 2024/05/04
♥ : 72
ネタバレ

はあつ さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

父と子の感動のエピソード~その眼差しに涙する~

Key製作のゲーム原作によるアニメドラマ。
1期(無印)の続編(アフターストーリー)です。

私は、原作ゲーム未プレイ、1期から通しで、5年ほど前に、京都アニメーション作品として初視聴しました。
あにこれで評価の高いクラナドですが、私は、素直なところ、作品の優劣を両極端に感じ、原作を知らない方への全編のオススメが難しい。

1期から2期(アフターストーリー)の前半までは、原作のゲームらしく、男子高校生の主人公が各ヒロイン毎の出来事をクリアするようなエピソードが続きます。
ここまでは、学園の日常物やコメディの好きな男性なら、じんわり胸に来る話もあり、好みに合えば楽しめると思います。(私は、コメディセンスが合わず。唯一の男友達を貶めすぎに感じる・・)

本作の高評価は中盤9話からの主人公にスポットをあてたシリアスなストーリーにあるでしょう。
ただ、そこからでも私には、登場人物達の言動が、主人公に都合が良すぎるように感じたり、リアリティに欠ける気がして、物語に入り込めずに観ていました。
しかし、17話からです。
続く18話19話まで、そんな事が気にならないくらい引き込まれました。
美しい作画と絶妙の演出。効果的なBGM。声優さんの円熟の演技。
そうして紡がれる父と子の感動の場面。
私の少ない映画視聴歴では、「ライフ、イズ、ビューティフル」「クレイマー、クレイマー」と同じくらいアニメで泣けました。

もし、キャラクターデザインが好みでないと視聴をためらわれたり、序盤を観てつまらないと断念されてるなら、ここだけは観て欲しい。
観て損はないと断言できます!
そこで、17話~19話の約1時間くらいなら観てもいい思える方のために、それまでのあらすじを以下に置いておきます。
(あくまでも、部分限定視聴用なので、個人的アレンジへのクレームはご容赦ください)

あと、これだけはお伝えしておきます。
続きが気になっても21話は観てはいけない!
せっかくの感動を台無しにするどころか怒りを覚える可能性があります。
このレビューの冒頭に述べた、両極端な私の感想はそこにあります。
もし、続きが観たいなら、最終22話はアナザーストーリーとしてご覧になってください。
(番外編のアナザーストーリー、会長編と姉妹編は良かったです~♪)

1期~2期16話までのあらすじ
{netabare}
幼い頃に母を亡くした主人公、岡崎朋也(ともや)は、高校に進学する頃から働かず酒に溺れるようになった父、直幸(なおゆき)との喧嘩による怪我で、スポーツ選手への夢を断たれ、すさんだ高校生活を送っていた。
ヒロイン、古河渚(なぎさ)は、体が弱く高校を休みがちで友達もできず孤独で寂しい日々を過ごしていた。
そんな二人が出会う。
渚は、朋也を通じることでたくさんの友達ができ、朋也の応援で諦めかけていた憧れの演劇の舞台に立つことが叶う。そして、自分に勇気と喜びを与えてくれた朋也に懸命に尽くしていく。
一方、朋也は、渚の暖かい思いやりに救われ本来の優しさを取り戻し、渚の夢に向かってひたむきに努力する姿を見て更生していく。
卒業後、朋也は電気工として働きだし、仕事での飛躍のチャンスを得るが、またしても、罪を犯した父親の検挙で挫かれてしまう。その時、自暴自棄になりかけた朋也を、励まし支えてくれたのも渚だった。
朋也は渚のために生きることを誓い、2人は結婚する。
慎ましくも幸せに暮らし始め、ほどなく渚は身籠る。
体の弱い渚の出産に朋也は不安を感じたが、渚には、愛する人の子供が欲しい母性に加えて、どうしても産みたい理由があった。
母親の愛情を知らずに育った朋也に家族の暖かさを与えると共に、朋也が親子の愛情を感じることで、いつの日か、愛する朋也を育てたその父親との絆を取り戻してあげたかったのだ。
しかし、その想いも虚しく、新しい命、汐(うしお)と引き換えに、渚は命を落としてしまう。
あまりの喪失感で気力を失った朋也を見かね、渚の両親である古河秋生(通称おっさん、アッキー)早苗(さなえ)が、汐を引き取り育ててゆく。
いつの日か必ず、娘に明るさと希望を与えてくれた朋也が立ち直る事を信じて・・・
{/netabare}
本作9話以降のストーリーについてネタバレ感想です。
{netabare}
朋也が卒業後、シリアスになる物語。
社会人として働きだす姿はリアルでいいんです。
だけど、メインヒロイン渚の描き方が馴染めない。
薄幸そうに見せる為だけのような学園生活。男子にとって都合の良すぎる従順な女性像。さらにあの体で自宅出産を言い出すなんて、ただの痛い子に見えてしまう。
そして、あの程度の見立てで、渚と話すシーンもなく、危険な出産を渚の意思に委ねる両親も説得力に欠ける。
だから16話まで観ても、悲劇を見せて泣かせたいだけに思え、逆に泣けませんでした。

しかし、17話からです。
冷静に観れば、朋也が5年も育児放棄したり(仕事が出来ないほど病んだ訳じゃない)、汐も5歳にしては幼すぎたり(「一人で出来た」は2~3歳くらいまで)いろいろリアリティーに欠けるんですが、そんな事は気にならないくらい、ある描写に引き込まれました。
それは、警戒感、好奇心、悲しさ、寂しさ、次々と訴えかけるような、
朋也を見つめる汐の眼差しです。
この作品のキャラ画の特徴である大きな瞳は、この子の演出の為だけにあったと思えるほど、父親の言動や行動を見つめる瞳が何度も描写されます。

徐々に伝わるその瞳の奥の純粋な思い。
「ママの事はパパに聞きなさい。」
「パパに初めて買ってもらった物だから。」
「泣いていいのはトイレとパパの胸の中だけ。」
古河夫妻の教えで、この子にとって朋也は、ほとんど会いもしてくれない父親なのに、甘えて頼っていい唯一の人であり、いつかそう出来ることを幼な心に待ち続けていた、その一途な期待が宿った眼差しだった!
その幼児の純心さに、あまりにも不憫だと感じると同時に、朋也が懺悔し改心したことで、この子が救われた事に無上の喜びを得れる瞬間。
暖かいオレンジ色の光に包まれた花畑のシーンは感涙です。

続けて、帰りの列車内で、封印していた渚との思い出を語りだしたシーンでも、美しい夕景とフラッシュバックする回想、情感を掻き立てるBGM、そして、朋也を見上げる汐の涙の瞳!
たとえあざとくても、この眼差しを加えたトリプル演出には何度観ても(このレビューを書いてる今でも)泣かされます。

この一連のエピソードには朋也とその父親に関しての描写も胸を打ちました。
汐が無くしたロボットを探す中、デジャブを覚え導かれるように向かうその先で待っていた祖母からの話。
自分と同じ境遇でありながら苦労して育ててくれた父に思いが至る回想。
父親への思いを改め、父親としての自覚に目覚める、目まぐるしい感情が詰め込まれているのですが、私にはストーンと胸に落ちて、もうここから涙が込み上げました。
私は中学から母子家庭で育ちましたが、父親でも母親でも1人で子育てをするのは大変な苦労を伴います。仕事と育児のストレスで倒れ社会生活に支障をきたす事も十分にありえます。(犯罪はいけませんが・・)
また、個人的に、私も父に対して嫌悪感を持っていました。しかし、自分が父親となり過ごしていくと子供に対して不甲斐なく感じる事も多く、また、父とのわずかでも楽しかった思い出もよみがえり、父への感情も変わってきたからです。
続く19話も、朋也が父親と和解する光景に私は深く胸が震えました。
ラストの見送りで汐が見上げる光の玉が、渚の想いの成就に見えた感動とともに、私自身、他界した父に果たす事の無い理想を観れた思いがしたからです。
自分は最期まで父に歩み寄れませんでした。
身勝手は承知でも、今は反抗期の子供達と良好な関係を築きたいと願ってやみません・・・

考察なんて言えない私的な理由ですが、この三話だけは、自分にとって人生を振り返る事になり「クラナドは人生」が大袈裟ではなかったと感じた次第です。
{/netabare}
個人的な不満。ファンの方は見ないで頂くように伏せます。
{netabare}
21話だけは酷いを通り越して腹立たしい。

長く退屈にも感じたストーリーも終盤で一躍、感動の傑作だと思え、後は「うさぎドロップ」のような希望の未来への余韻にひたれるものと安心していました・・・

なのに、あろうことか、唯一その登場から感情移入できたキャラクター、汐が死んでしまいます。
否、製作サイドに殺されます。
それも父親にとどめを刺させて・・

何故あそこで汐が死ななければいけないのか。
悲劇を描く事で、その後の奇跡がより感動的に見せれると、安直に考えているとしか受けとれず、視聴者をバカにしているとしか思えない。
初見時、奇跡が起こる最終話も、あまりの喪失感と怒りで、17話冒頭の朋也の如く、ポカーンと観てました。
後日Wiki等で作品の解説を調べると、ゲームの奇跡エンドを迎える為の攻略のピースに汐の死が必要なのだと知りました。
だが、アニメのシナリオだけでは必要性が全くわからない。
原作ゲームの販促を考えるなら、21話以降は原作のファン向けにOVA等で発信し、ゲームには未放送のエンディングがある事だけ知らせれば、アニメから作品に触れた人の購入増がもっと見込めたのではなかろうか?

現実には、罪のない無垢な命が奪われる悲しい出来事を見聞きし、辛い思いをする事は多々あります。だが、楽しむための映像コンテンツで、意味のない子殺しほど、胸糞悪いものはない。お願いだからやめて欲しいです!
{/netabare}
声優さん
{netabare}
やはり私が特筆すべきは、あのシーンを演じたお三方。
まず、声優としては当時でも最高齢かもしれない麻生美代子さん。あの風格ある語り口があったからこそ、より回想に重みが増し、感動に引き込まれたのでしょう。
そして、これまた20年以上のベテランこおろぎさとみさん。舌足らずで少しもどかしく聞こえる声は、幼児の純心を表現するのに最適でした。
最後に、中村悠一さん。私は、本作より先に視聴した「君に届け」「俺妹」からお気に入りの男性声優さんでした。でも、それより以前に、こんな感情のほとばしる、ベテランに負けない神演技をされてたとは!現在でも第一線で活躍されてるのが頷けます。

音楽

LiaさんのOPがいい!歌声・曲調ともに美しく、作品の感受性を高めていたと思います。
また、劇中のBGMや挿入歌も良いものが多いです。
欲を言えば、18話のエンディングだけ、Liaさんの歌声が入ったBGM「願いが叶う場所」を使って欲しかった~(曲だけで泣けます♪)
曲とは無関係ですが17話のエンディングの繋ぎも鳥肌でました!

最後に

最近、立て続けに感動させられた京都アニメーションさんの初視聴作品として、私に良くも悪くも強烈なインパクトを与えてくれた作品であり、今更ながら、纏まりのない拙いレビューを書きました。
長々と感情垂れ流しで、ただの憂さ晴らしのような書き方にもなり、読まれて不快に思われた方にはお詫び申し上げますm(__)m
{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 24
ネタバレ

Key’s さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

とても感動できる作品♪

あらすじ

2学期が始まった。
朋也たち3年生はそろそろ進路を決めなければいけない時期だが、
朋也は自分の将来が見えないまま、
相変わらず渚の家に居候していた。
そんな中、秋生が隣街の商店街チームと野球の試合をすると言い出す

そしてだんだんと
卒業に近づいていき
みんながそれぞれの道を歩き始める

そして朋也や渚に
さらなる過酷な運命に
立ち向かうことになる



感想


文句なしに面白いと思います
音楽、作画、声優どれもよかったですし
何よりストーリーが良くてとても感動しました
特に18話では泣いてしまいました
BGMが効果的なタイミングで使われていると思います

話は完全に一期のCLANNADの続きなので
一期を見てから視聴してほしいと思う
高校生活の終わりの方と社会人としての
生活が主なストーリーですね


1期と比べるとより絞られた
1つのテーマで物語が進行しているように思いました。
アニメでこれほど、、というより今までに見た
どんなドラマや映画も超えてしまう程に泣きました。


ジャンルは個人的には
恋愛ものではなくテーマである「家族」や
「人と人との繋がり」を描いたものだと思います。
特に後半は毎回涙しながら見てました。
作画のクオリティの高さはさすが京都アニメーションです

泣かせ方としては相当あざとい手法を用いていますし
感動と同情の押し売り感が半端ないですが
わかっていても泣かされてしまいますw
でも人によっては萎えたりして泣けないかも知れないですね

1期よりもギャグは少な目になっています
1期の時も書いたかもしれませんが
作画というかキャラデザが
万人受けはしないんでしょうね
好き嫌いが分かれるかもですw


key作品のほとんどに言えることですが
日常生活のなかにファンタジー要素が組まれている為
いや、ありえないだろとか思う時があります。

感動させようという演出がベタでみえみえなのですが
何回見ても感動しますし、BGMの力が強いと感じます。
主人公の気持ちにあった曲調を選択している
シーンや音楽の入り方が本当に秀逸で
後半はずっと涙腺崩壊してました

最終回あたりは結構展開が早いです
原作をやってないとどういう事なのか、
なんであの演出にしたのかわかりずらいかもしれません
意味が分からない人もいると思います
その人の為に下の方に解説を
書いてみたのでよかったら読んでください


でも全体的に見て上手くまとめてると思いますし
原作やってなくても充分感動できると思います
伏線や謎を最後に丁寧に回収し、
そしてあの終わり方で締めたということにあります。
演出も凄い良かったです。


人との絆が――当たり前に、
普通にあることがどれほど尊いのか、再確認しました。
世界は悲しみに満ちているけれど、
だからこそ美しい想いで溢れている。
このアニメーションの中にはそんなたくさんの想いが
詰まっていると思いました。

演出面は時間の表現が上手いです。
移ろう季節に合わせて変化する関係性が、
青年期を終え大人になりそして親に至る過程が、
巧みに緩急をつけて描かれ、見ていて飽きませんでした


ぜひ一度は見て欲しいオススメ作品です!



少しここからは
物語のわかりにくい所を
説明をしようと思う
ネタバレなんで隠しておきます
まだ全話見てない人は見ないでください
{netabare} ~


幻想世界の存在意義について

何も生まれず、何も死なない世界・・・。
それが『幻想世界』
CLANNADという物語を理解するためには
『幻想世界』の解釈が不可欠であり、
いくつかの疑問点を解消しなければなりません。

そしてまずは
幻想世界の少女は汐、
ガラクタ人形は朋也です。
そこを理解したうえで読んでもらいたいです

幻想世界は、朋也たちがいる世界と同じように進んでいく平行世界です。
渚と朋也・少女とガラクタ人形(元々は光)の出会いから始まり、
学校卒業・あの小屋にとどまるだけの世界からの卒業、
社会人になって一人立ち・旅に出る…という風に。

そして、朋也と渚・汐の関係が、
ガラクタ人形と少女の関係に置き換わっただけですし、
渚が死んだ後は汐に引き継がれたので、
人形と少女の関係は変わっていないんですよね

また、渚は幼少時に死に掛かったときに、
町を愛する秋生があの場所へ連れて行き、そこでの願いを町が叶え、
町そのものである少女が渚の半身となることで
生きることが出来たわけです。

その後、町の自然が奪われていったり、
単純に冬になり緑が減るような時期には町が弱るのか、
渚が発病してしまいます。
汐も同じですけどね。
アニメでは冬に渚が動いていたかどうか覚えてませんが、
恐らくは冬に元気な状態の渚はほとんどいなかったはずです。

何で渚と汐は助かったか?

改めて考えてみると、恐ろしく説明不足な部分でした。
アニメの各話のタイトル画面で光が表示されていますが、
これは登場キャラクターたちの願いが叶ったりしたときに
増えているはずです。
そして、幻想世界で見える光は、町の人たちが幸せを願う想いでした。

こうした光が集まったことで、
想いの力が少女を動かして奇跡を起こす…と書くと、
やはりもの凄くご都合主義に思えてしまいますよね…。

ゲームではもっと長いし、秋生や早苗さんのエピソードもあったので、
もの凄く色んな幸せな風景を朋也が作る手助けをして、
長い長い道のりを歩いてきて、
最後はああいう結末(汐との旅行)になってしまったわけですけども、
頑張ってきたご褒美みたいな形でトゥルーエンドもあったのかな?
と思うのです。
アニメではその辺を納得させるところには至らないですね

朋也と汐の旅行が終わった世界と、
渚たちが助かった世界との関係は?

これは、ゲームでは明確にループしていましたから、
パラレルな世界と言い切れます。
ただアニメでは、結局どこの選択肢でも間違えていないわけですし、
見た目では一本道なのにいきなり時間が戻った?って
驚く展開になってしまってます。

ゲームでは、最初は絶望した朋也が「渚と出会わなければよかった」って
回想するときに選択肢自体が現れず「出会わなければよかった
→抜け殻のような生活」という流れが自動だったんですよ。
アニメではそういう演出自体がありましたっけ? で、汐編まで終わり、
各シナリオでの必要な光を集め終わると、
渚が汐を出産するシーンで「出会わなければよかった?」となる場面で
選択肢が現れ、ようやく奇跡が起こり渚が生きるわけです。

その辺の説明がアニメでは為されていなかったわけなので、
わからなくて当然だと思います。
ですから、他のキャラのシナリオと同等に、
朋也と汐が倒れた世界も、渚が助かった世界も、
一つの可能性を示した別の世界とも言えるでしょうね。
この辺は、原作者がゲームならではの世界観や
シナリオの設定をしたために起こった弊害みたいなものだと思います


{/netabare}

長くなりましたがこんなところでしょうか? 
そもそもがアニメ化で良さが伝わらないだろ?!

と思っていた作品だったので、
むしろこれだけ新規でCLANNADに触れてくれる人が
多いこと自体が感激しているんですけども。

ただそんなご新規さんが読後感悪く去ってしまうのは惜しいんで
僕なりに解説をしてフォローしてみました
これを読んでまたCLANNADをぜひ見直してほしいです

投稿 : 2024/05/04
♥ : 237

80.1 2 モノローグで泣けるなアニメランキング2位
3月のライオン(TVアニメ動画)

2016年秋アニメ
★★★★☆ 3.9 (970)
4849人が棚に入れました
主人公は、東京の下町に1人で暮らす17歳の将棋のプロ棋士・桐山零。深い孤独を抱える彼が、あかり・ひなた・モモの川本3姉妹と過ごす時間や、さまざまな棋士との対戦を経て、失ったものを少しずつ取り戻していく様が描かれる。

声優・キャラクター
河西健吾、茅野愛衣、花澤香菜、久野美咲、岡本信彦、井上麻里奈、細谷佳正、三木眞一郎、杉田智和、木村昴、千葉繁、大川透、櫻井孝宏

タケ坊 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

原作者の思いに見事に応えた、新房監督&シャフトの本領が発揮された渾身の力作

NHKで2クールにわたって放送された、第1シーズン。

☆物語☆

中学生で将棋のプロ棋士となった主人公桐山零が、
棋士として、人間として、周囲の人との出会いと関わりを通じて成長していく過程が描かれる。

1話の中で複数のエピソードを区切って消化していくスタイルながら、
尺的に足りないと感じることはなく、どのエピソードも上手く纏められている。
NHKの枠なので途中にCMを挟まず自由に区切れ、25分間使えるというのも制作側には好都合だったでしょう。

さすがにNHKで放送されるだけあって、内容的には王道路線で、
シリアスな場面が多いものの、反対にコミカルな面や萌え要素までバランス良く取り入れて重すぎないので、
アニメファン以外の幅広い一般層に受け入れられる作品なんじゃないだろうか。
将棋のルールなんかが分からない人向けにも、作品内で解りやすく絡ませてあり、この辺りは親切。

作風や主人公がどうしても似ている、と感じてしまうのはノイタミナで以前放送された「四月は君の嘘」。
これは観た人みんな思ってるでしょうね。
タイトルに「月」が入っているのは単なる偶然なのか。。

正直物語自体はそこまで斬新なものでもないし、スローペースで進むので、
昨今の尺的にゆとりのない目まぐるしい展開が多い作品と比べると、退屈さを感じる人も居るだろうが、
自分としては、この作品で特に感じた魅力はキャラクター達の人間模様や日常、
心情描写の細やかさと、台詞の重みや間の取り方など、数々の優れた演出にあると思っているので、
じっくりと丁寧にやってくれたのは(原作通りなのかは知らないが)本当に有り難い。

作品内での零の語り、零と関わっていくキャラ達の台詞には、時には非常に残酷であったり、
とても温かみがあったり、また思わず自分にも改めて気付きを与えてくれるような、
そんな深みがあったりと、毎話感慨深く大きな余韻を与えてくれた。
台詞の一つ一つを噛みしめる事ができる感受性、間を想像力で補える能力は人によって異なるとは思うが、
この作品におけるキャラ描写とそれを引き立たせる演出が素晴らしいことに疑いの余地はない。

第2シーズンになれば嫌でもストーリーは進んでいくだろうし、今後の展開にも大いに期待したいところだが、
これまでどおり、焦らずじっくりと進めて欲しい。

☆声優☆

さすがにNHK作品の配役に関しては、
デビューして日の浅い新人などを主要なキャラに配したりはせず、
実力、人気共に安定している声優とベテランで構成されていて隙がない。

中でも3姉妹に関しては見事の一言だが、
主人公零に関しても、とても良く考えて選ばれていると実感する。
通常の台詞以外に公園のグラウンドでの叫びなど、感情を顕にする場面などは、
イケボでなく、ちょっとヘタれな感じが性格に凄く合っているなと。

☆キャラ☆

先にも書いた通り、この作品の一番の魅力と感じる部分は優れたキャラ描写&演出にある。

キャラクターの心情がポエム的な独白、
ナレーションによってたびたび観るものに訴えかけるのだが、これが深く心に響いてくる。
これはキャラに共感できなければ、やり過ぎると返って逆効果で退屈さと冗長な点として捉えられる事もあるものの、
(同様にポエム的な「あまんちゅ!」で気になった点)
各キャラそれぞれが抱えている思いが、台詞の良さも相まってとても巧く表現されていた。
各キャラに共感、もしくは同情してしまう「要素」がしっかりと解りやすく提示されているので説得力がある。

時間を掛けて丁寧に描かれていることもあって、
主人公とその周りの主要なキャラに関しては、とても興味深く魅力的に映った。
中でも3姉妹は本当に癒され和む存在だったので、後半に出番が減ったのは少し寂しく思えたが、
逆に言えば前半のエピソードが特に良かったということかもしれない。

また、打って変わって香子のような存在は、女性作家ならではの描写力で、
女の嫌らしさやねちっこさなど、非常に生々しく描かれていて、こちらも同様に素晴らしかった。

☆作画☆

NHK作品はさすがに予算も掛かっているせいか、派手さはなくとも安定感があって全く不満はない。
背景美術に関しては、水彩画のような非常に淡くノスタルジックな雰囲気を醸しだしており、
また、それに合わせるキャラも違和感なく淡い質感で背景に馴染ませていて、とても温かみを感じる。

最大の見所としては、やはりシャフトならではの映像演出。
キャラの心象風景を、独自の解釈で映像化された場面は観ごたえと相性の良さを実感した。
観る人によって、または原作を読んでいる人には多少クドいと思われるかも知れないが、
自分はよりキャラの心情を理解する上で、良い方向に作用したと好意的に受け取っている。
原作者がシャフトでの制作を熱望したというのも納得。

OPやEDのアニメーションは、特に制作会社の個性が出る部分だと思うが、
零の息苦しさ、閉塞感や孤独感、葛藤、もがき苦しみながらも前へ進もうとしている様が、
抜群のセンスで表現されていたと思う。

☆音楽☆

1クール目のOP、EDで起用されたBUMP OF CHICKENの曲、
歌詞、アニメーション共に最高の出来だった。
もともとBUMPが原作のファンで以前にMVでコラボしたりしているので、
そりゃこの作品のために書き下ろした曲が、相性が良いのは言わずもがな。
できれば2クール目も変えないで欲しかったくらいだが、
2クール目のOP,EDも曲自体は悪くないし、最終話で戻してくれたのは心憎い。

作中BGMもやはりキャラの語り、ナレーション場面で使われているものが印象的だったが、
コミカルな場面もなかなか良いチョイスがされていて、曲のバラエティ自体も豊富で申し分無かった。
台詞間に挿入されるBGMが良いからこそ、その間が大きな余韻となる。
音響含めた音楽面での演出も、映像に負けず劣らずこの作品では大きく貢献していたと実感しますね。


こうして改めて一つ一つの要素を振り返ってみてみると、褒める所ばかりで殆ど点数を差し引く部分が無いように思える。
王道ながらもシャフトによる優れた芸術性が加味され、とても高いレベルで纏まっている。
本当につくづく続編が楽しみだ。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 21

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

才能の残酷さを描くことで、人の内面の弱さを表現しています。

 ハチミツとクローバーで恋愛ドラマの仮面をかぶって、才能の残酷さを見せてくれた羽海野チカ。さすがですね。人の愛憎や執着、孤独や過去などのヒューマンドラマの中に、しっかりと才能というものの恐ろしさを見せつけてくれます。
 ただ、ハチクロよりも進化したと思うのが、義姉ですね。あの義姉のキャラがあるから人の内面描写に深みが出て、才能の残酷さは他人にも劣等感という形でつきつけますが、己を傷つけ孤独にする部分も描かれていました。

 才能があるからこそ、居場所が出来た半面、人の居場所を奪ってしまった。周囲の人を巻き込み歪ませる。義姉の態度のコンプレックスの表現は女性作家ならではの迫真のストーリーですね。おしいことにコミック版ほどの禍々しさの中に見える圧倒的な劣等感の表現には至っていませんが、この義姉がいるからこそ、主人公の居場所の無さが浮き彫りになるし、3姉妹との交流に意味が出てきます。

 一方で将棋という特殊な世界にのめり込む男達の心の交流もありました。島田の研究会もそうだし、何よりあの二海堂くんですね。どう考えても村山聖ですよね。聖の青春という小説にもなった羽生善治の少年時代からのライバルです。ちょっと身体の事も村山をなぞっているので、いろいろ心配してしまいますが、詳しくは小説かWIKIで。
 彼がいたからこそ、将棋に向き合うことができたような気がします。良くいる真っ直ぐなおバカキャラに見えて誰よりも将棋に真摯で、主人公のこと…というより主人公の将棋の才能を純粋に愛していたような気がします。(それから学校の先生もですね)

 なお、羽生善治はタイトル99期、史上初の7冠棋士、永世7冠という圧倒的な将棋の天才でので、二海堂=村山だとしたら、主人公が羽生なのかなあと思ったら違いましたね。宗谷でした。宗谷が目指すべきラスボスっぽかったですね。

 その前に後藤ですか。彼の性格の意味は現段階ではちょっとわかりませんね。素の性格なのか、やっぱり宗谷に対比した時にコンプレックスがあるのか。
 ただ、この後藤の態度を見せることで、初めは憎たらしいだけの義姉に対する気持ちが和らぐから不思議です。うまいですよね。結果的に才能の世界の周辺に生きている人たちの惨めさを上手く表現しています。

 そう、義姉が重箱のお稲荷さんを食べるだけで、このキャラに対する見方が全然変わっていました。ここが少女マンガの凄さですね。直前の3姉妹の敵のように見せていて、胃袋で篭絡されてしまう。これで義姉の人間的な内面が表現されて憎めなくなります。ちょっと男の作家には描けないでしょう。ここが一番本作のすごいところだったのかもしれません。

 そしてこの3姉妹ですね。どうも傷があるようです。母性の塊のような長女の内面が見えてこないことが不気味です。この作者が単なる良いおねえさんキャラを出すとも思えませんが…どうなんでしょう。菩薩…で終わるのか違うのか。以前原作10巻まで読んでますが…無かった気がします。

 で、主人公ですね。この構造って、やっぱり主人公がラスボスと対決するために周囲を顧みず…みたいな話になるのでしょうか。ハチクロを見るとそんな気もしますし、3姉妹との交流でそうにはならないのかもしれません。

 将棋の世界の話だけに限定すると、ストーリー展開はちょっとヒカルの碁っぽい感じがありますが、似たような世界ですからね。

 とにかくきれいごとではない人間の内面、特に劣等感を描かせると、羽海野チカは最高ですね。決して「いい話」ではありませんが、特殊な世界をデフォルメすることでヒューマンドラマとして、人間の本質を見せてくれています。この辺りはハチクロのやり方を踏襲している気がします。


 3月のライオンはどちらかと言えばコミック版の方がコマ割りとかモノローグとか少女マンガらしいテイストが話にあっていました。アニメはその点がちょっと表現できていませんでしたね。



 追記 少女マンガ的表現ができていない、といっても、演出で内面描写、モノローグの時は少女マンガらしいエフェクトをいれて頑張っていました。ただ、少女マンガの文法はやっぱりあの独特のコマ割り=時間の使い方と客観主観のシームレスな切り替え、エフェクト=心の動きじゃないと。ここは媒体の特性もあるのでやむを得ないでしょう。

 追記2 水というモチーフは浮かんでいれば羊水のような心地よさがあります。が、泳いだ時のねばりつく水の抵抗は前にすすむ困難、もぐったときの息苦しさは思考が暴走している感じ、音が無くなるような感覚は棋士の集中力ですね。ハチワンダイバーとかにも通じます。

 それと川ですね。川は流れ、広がりなどで原風景のような心落ち着く光景になります。滔々と流れる広い川は、人の営みのアナロジーでもあるでしょう。それを岸から眺めるという意味ですね。また、街の移り変わりを映すことで表情を変えてゆきます。あるいは自分自身の人生そのものでもあるかもしれません。
 また、川岸ですね。これが不思議な効果をだしていました。漠然とした東京の下町の表現というより、俗世界から切り離された特別な場所として機能していました。
 これが演出というだけではなく、内面の重層的な表現に効果的に機能していいたと思います。ただ、とにかく象徴的・抽象的なので何を表現していたかを考察するのではなく、画面から感じるのが作法だと思います。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 18
ネタバレ

明日は明日の風 さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

少年棋士の心の葛藤と心の成長を描いた作品、作者と制作会社とTV局が一体となった良作

これほど原作が読みたくなった作品は久しぶりのような気がします。終わるまでまとうか、読んでしまおうか、葛藤中です。

シャフトっぽさを消しているようで、ところどころやっぱりシャフトだと思わせるような描写がチョコチョコ見られるのが良いです。特に場面転換で不要じゃね?と思わせるようなカットを入れてきて、それがまた綺麗だったり、インパクトがあったりとするところなんか、シャフトだなと感じてしまいます。ただ、「シャフ度」と言われる首の角度が抑え気味なのはやっぱり寂しいかも(?)

NHKが、しかも総合で流すのですから、力入れているのはよく分かります。まだ前半も途中ですが、引き込まれっぱなしになっています。主人公である零の歩んできた人生の重さ、その重さを少しずつ解放する三姉妹と二海堂との掛け合いの面白い事。

二海堂のモデルは将棋好きの人なら知らない人はいないくらい有名な村山聖なんでしょうね。となると、太っているのは病気のせいであり、あかりが「むっちり」で喜んでいるのはどう解釈したらよいか戸惑いました。このあと二海堂は病気が重くなっていく展開になるんだろうけど、つらいな…

三姉妹は本当にキャラがいい。声も完璧だし、流石としか言いようがありません。話の展開も良く、たぶん、最後まで面白く見ていくことができる作品だろうと思います。すでにお気に入りに入れてもいいように思っています。

【前半を終えて】
結局終わるまで待てず、原作を読んでしまいました…。面白い、何故にこれまでスルーしていたのだろうと思います。前半は零の置かれた状況を表現していた感じです。零が何故に将棋をしているのか、零がどうして三姉妹と関わりを持ったのか、二海堂と零のライバル関係、零と香子の関係等々をシャフト独特の表現でうまく繋いでいた感じです。
とあるコラムニストがシャフトっぽくないのが良いと書いていたのですが、どこを見ているのかと。零の気持ちを表現するときや香子とのシーンはシャフトそのものでしょう。シャフト特有のズルいイメージ(個人的な感想)ふんだんに盛り込んでます。原作のイメージがそのままシャフトっぽいですし、シャフトなら良いと言ったらしい作者の感覚がすばらしいと思います。
三姉妹は癒しそのもの。に対して香子の危うさと言ったら…。香子の声も良いです。老倉育を見て井上さんに決めたらしいのですが、本当にぴったり。

後半はもっと将棋に突っ込んでいくのではないかと思います。また、三姉妹の関わり、零を囲む周りの人々の動きなど、楽しみです。

【後半の中盤】
後半に入り、零の気持ちがどんどん重くなっていきました。そこを救うのが三姉妹であり、先生であり、二海堂であり、島田八段であり…とにかく零は人に恵まれました。回を追うごとにその事が分かります。
将棋に関する話も濃くなってきたのも後半の面白いところです。鍵となる島田八段は飄々としているのに、プロの厳しさを零に伝えてくれます。そしてとうとう出てきた宗谷名人。まさに怪物に相応しい佇まい。アニメになると、その事がいっそう強調された感じです。
零と香子の微妙な関係も相変わらず。が、三姉妹と香子の絡みとか、実は可愛らしい一面もあるところとか見れて良いです。
それから、今の季節に合わせたような進行具合も非常に良いです。これからラストに向けて零がどう成長していくのか楽しみです。

【一期終了】
零のちょっとずつだけど、成長していく感じが見てとれました。
「11年もボッチだったんだ」いう台詞の重みから解放されていく過程を描いたのが一期だったと思います。ゆえに、展開は重く、零の台詞もなにかぱっとしません。耐えられない人はそれでこのアニメはお仕舞です。
零は周りに恵まれました。それは零が成長するための起点になっていきます。二海堂であり、三姉妹であり、林田先生であり、島田八段であり、科学部の面々であり、そういった人々と交わることによって、重く押しかかっていた零の心が開かれて、次のステップへと進んでいきました。見直すと、中盤までの零とは明らかに違う人間になっているのがよくわかります。

この作者は人と人とのつながり、心の葛藤や解放へ向かうまでの描き方が上手だと思います。重くなり過ぎそうなときはわざとデフォルメさせたり、ちゃちゃを入れるような場面を入れてほぐします。これが嫌味に感じないところがまた良いのです。せっかくなので、ハチクロも見てみたのですが、作品は違っても、描き方は同じでした。
それと、ハチクロを見て思ったのが、シャフトで良かったということです。ハチクロも悪いわけではないのですが、ライオンを見た後だと何か足りません。零や香子みたいな人物が多く出演する、心の葛藤を中心とするような作品を作らせたらシャフトは上手です。ちょうど同じ時間帯にAT-Xではefを放送しており、ライオン始まるまでの10分間は視聴していましたが、シャフトの右に出るものはないなとさえ思いました。

二期が決定したので万歳です。二期は{netabare}宗谷とひなが大きくかかわってくる話になると思いますが、この話がどう描かれるのか{/netabare}楽しみでしょうがありません。

少年棋士の心の葛藤と心の成長を描いたこの作品、2クールゆっくりと描かれているので、ドラマ性を求めている人にお勧めです。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 53
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